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(未完)大魔界大戦 米軍VS魔王軍  作者: 北條カズマレ
第八章 新たなステージ
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第四十話 魔王、米国入り

~用語集~

・ブレアハウス

 ホワイトハウスの斜向かいにある大統領個人のための非政府系迎賓館。

 もっぱら外国の元首級の賓客をもてなし、滞在していただくために使われる。

二〇一七年八月五日時刻0900

米国、ネヴァダ州、グルーム・レイク空軍基(エリア51)地から数キロ、スクウェア地球側入口(石棺で被覆済み)

X+九十五日


 テントはテントでもVIPが逗留できるよう精一杯の配慮がなされた場所で米国側の準備が整うまで過ごした後、魔王とサビナは出発した。


 リムジンと軍の護衛のもと。


 目指すはネリス空軍基地。


 空路で東海岸に向け出発する手はず。


 グルーム・レイク空軍基地からの出発でないのは、流石に最重要機密の塊に入れるわけにも行かなかったから。


 リムジンにはマウラー国務長官も同乗していた。


 最初の会談以来、付きっ切りである。


 閣僚級の人間がそうするほどの価値のある、超VIPであった。


 何せ対応を間違えれば、米国にさらなる、これまでにない惨禍が降りかかるかもしれないのだから。


 リムジンの中で向かい合って座っていても、沈黙に支配されている。


 鎧まで含めた魔王の体重は200キロを超えるが、リムジンは難なくそれを運んでいる。


「……まだそちらのご婦人のお名前を伺っておりませんでしたな?」


 と、マウラー。


 ワシントンに着くまでに打ち解けるとまでは行かなくても、引き出せる情報は引き出せるだけ引き出したかった。


 それにしても美しく、それでいて気品のある女性だった。


 マウラーとしてもどこか気を許してしまうような、興味を惹かれるような心持ちであった。


「サビナアルナと申します」


 サビナは革の座席に座ったままお辞儀をした。


「魔王様の執事をしております。お見知り置きを」


 マウラーも会釈でもって返礼する。


「英語がお上手ですね。もうここには魔素カルマプラズムはないはずですが」


「学習しましたので」


 どうも妙な感じがした。


 礼儀正しいことはまあ確かだが、その仕草、立ち居振る舞いがどこかの国の風習に似ているような……。


 サビナは転生した魔王の魂の履歴から元々の出自の文化風習を読み取って最適な振る舞いをする魔物である。


 だから、マウラーが感じた違和感も真っ当なものだった。


 飛行機に乗り換え、横たわる米大陸を横断する。


 車に乗るのも飛行機に乗るのもはじめてのサビナだったが、いちいちうろたえたりしない。


 全ては魔王守備のため、全神経を張り巡らせている。


 シールドを張れる訳ではなかったが、もしもの時には肉体を晒してでも魔王を守るつもりだった。


 首都の空港に着いた。


 どこから嗅ぎつけたのか、市民団体が集まっていた。


 無論、講義のために。


 警備の黒服達が、魔王とマウラー国務長官の乗る機に横付けするタラップ車の上にまで取り付いている。


 まるで抗議活動を魔王が見ないように覆い隠そうとするようだったが、できるはずもなかった。


 市民達はプラカードや立て札を掲げている。


 曰く、「悪魔は地獄へ帰れ」、「アメリカが負った傷と同じ苦しみを味わえ」など。


 ベガスやロスで直接ワイバーンベイビーの被害を受けたり、虫達に農作物を食い荒らされた訳ではない、有志達だけの集会だった。


 機内から鎧姿の大男が姿を見せると、群衆はわっと声を上げた。


 魔王はそんな姿を一時見つめると、警備の人間の人垣の間を通って降りた。


 サビナとマウラーと共にまたリムジンに乗ると、目的の場所に向け、長大な警護の車列とともにワシントンのストリートを走った。




二〇一七年八月五日時刻1500

米国、ワシントン、ホワイトハウス、大統領執務室オーバルオフィス

X+九十五日


 フィリップ・ナッシュ大統領補佐官はノックの後大統領執務室オーバルオフィスに入る。


 すると、歴代大統領伝来の机の前でうろうろと歩き回っている大統領に出会った。


 大統領印章入りの丸い絨毯の上をめぐるように、トボトボと。


「そんなに歩き回ってどうされたのです?まるでディフェンスの穴を探しているフットボール選手だ」


 イーグルバーグは見もせずに答える。


「フィル、日曜日に教会で隣に座るようなタイプでもない奴を招いて本当にいいのかな、と、考えていたのだよ」


 ナッシュは肩をすくめる。


「教会に通わない宗教の人間をブレアハウスに泊めたことなんて、いくらでもあるでしょう。テロ事件の時の日本の首相とか。あれは話題になりましたが、今回は尚更ですね」


「少なくとも敵対国の元首を正式な文書による講和条約調印前に、というのは後にも先にもないだろうな。というか、向こうがどういう国なのかすらもよくわからんが」


「ブレアハウスで正式に調印するのはどうでしょう? すぐに草稿を作らせます」


 大統領はうなづく。


 乗り気のようだ。


 この議会の頭越しに全てを動かしているような対応の早さは全てが大統領権限で動いているが故。


 ワイバーンベイビーの脅威にさらされたあの日から、米国という国家はイーグルバーグという一人の男を信頼し、全てを任せているのだ。


 議会については事後承認という形で納得してもらうしかなかった。


 何せ、おそらくは独裁国家である魔界の動きに対応できるのは、ワンマン主義しかないのであるから。




 魔王はリムジンの窓からワシントンの街並みを見ていた。


 ところどころの人だかりは明らかに魔王の乗るリムジンを目にしたいから集まったもののようだった。


 米国民の関心の高さがうかがえた。


 もっとも、憎しみに満ちた関心であるのは魔素カルマプラズムによる魂の波動の伝播がなくても分かったが。


「珍しいですかな?」


 と、魔王の向かいのマウラー国務長官。


「ああ、魔界にはこういうものはないからな」


「左様ですか」


 無論、転生者である魔王に珍しいものなど何もないが、それを明かす意味もない。


 一方、サビナアルナの方はおとなしくしている風を装ってはいるが、内心ワクワクと街並みに目をやっている。


 愛しの魔王を害する動きがないかの監視も含んで入るが、興味の方が優っていた。


 何せ、異世界、魔界の魔物たちは地球の様子など知りもしないのだから。


 ホワイトハウス前に着く。


 案の定、抗議の人間たちがたくさん集まっており、広場に集まっていた。


 シークレットサービスたちの尽力で魔王のリムジンがホワイトハウス前につける邪魔にはならなかった。


 しかしホワイトハウス前広場独特の丸い道を通る間、人混みからの抗議の声が途絶えることはなかった。


「ずいぶん嫌われたものだな」


 魔王が言った。


 --そりゃあそうだろう。


 と、マウラー国務長官は思う。


 米国史上最悪といってもいい一方的な殺戮をもたらした張本人なのだから。


 核ですら有効な手立てではない状況でなかったら、誰がこんな得体の知れない憎っくき化け物と講和など……。


 それが彼の本音だったが、決して表情には出さない。


 ふと、魔王の兜に隠れた顔がこちらを向いた。


 のぞき穴から覗く赤く光る目、どんな顔をしているかわかるはずもないのに、マウラーは魔王の邪悪な笑みを幻視した。


 背骨を氷の手で掴まれたような思いがした。




「フィル、長年の友を迎えるように笑顔で接すべきか? それとも……」


「対等さを強調するように笑顔は控えめでいいでしょう」


 イーグルバーグ大統領はうなづく。


 リムジンがついたら北玄関に出て魔王を出迎える。


 大統領の出迎え……あれだけの惨禍をもたらした張本人を……。


 それは異質な文明を持つ知的生命体との不幸な接触ではないのだ。


 やつは転生者、つまり、十全に自分がしたことの悪辣さを分かってやっているのだ!


 ナッシュは歯ぎしりした。


 最低限、平和条約でも調印してからこういう会談があるべきではないのか?


 だがそもそも向こうとこちらに正式なチャンネルなどない。


 全てが異例の、こういう形式が始まりの両国関係というのもあっていいのではないだろうか。


 一面ではそう考えていた。


 シークレットサービスが報告してくる。


 リムジン到着、と。


 シークレットサービスが玄関のドアを開け、大統領とナッシュは外に出る。


 階段下でもリムジンのドアが開けられ、まずマウラー国務長官が現れる。


 彼が促すと、まず燕尾服の女性が現れた。


 間違いない。


 あの時、特殊部隊員のヘルメットカメラを通して見たあの女だ。


 イーグルバーグ大統領はあの時魔王に感じたおぞましさを思い出し、身をこわばらせる。


 彼女の後に続いて現れたのは、もちろん、魔王。


 金色の鎧が日光にきらめいた。


 大統領は微笑みをたたえつつ階段を降りると、魔王と握手をした。


 文字通り、鋼の手であった。




二〇一七年八月五日時刻1800

米国、地球、米国、カリフォルニア州、ロサンゼルス

X+九十五日


 ホテルの一室で勇者とブロウズの二人はテレビを見つめていた。


 クソを食むような気分で。


「……野郎、いい気になりやがって……」


 そこには大統領と握手する魔王の姿が映っていた。


 ブロウズは爪を噛んだ。


 一方の勇者は平然としている。


 それを見て苦々しく思うブロウズ。


「お前さんは平気そうだな。なんともねえのか?」


 勇者は答えない。


 ただ床に立てている剣のつかを手が白くなるほど握りしめるばかりだった。


 その時、携帯が鳴った。


 ブロウズが出る。


 相手は、佐官だった。


「アルゥール、話は決まった。明日ワシントンに飛ぶぞ。お呼び出しだ」


「なんだって?」


「米議会でクソ魔王が演説するのに出席しろとさ」

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