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(未完)大魔界大戦 米軍VS魔王軍  作者: 北條カズマレ
序章 残虐なる軍隊
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第四話 炎熱の支配者、オグンマカーハ

「うああああああ!!熱い、熱い、熱いいいいい」


 デジタルゆえにクリアに聞こえる無線機。


 そこから最初に聞こえてきたのは悲鳴だった。


 次に聞こえてきたのは状況報告、しかし我を失うほど慌てているらしく何かを伝えようとしていると言うことしかわからない。


 ただ「熱い、熱い」という言葉だけが木霊していた。


「何だ、どうしたと言うんだ」


 スミス大佐は首の傷を抑えながら呆然と問うた。


 無論、答えてくれる人間はいない。


 やっと、震えながらも冷静に報告してくる声が聞こえてきた。


本部(HQ)本部(HQ)…………聞こえますか?こちら……」


 スミス大佐はつい相手が言い終わる前に答える。


「大丈夫か!?状況を知らせろ!何でもいい!こっちはイースターのガキどもよりしっちゃかめっちゃかで全く情報がないのだ!」


 大佐の声を知る無線の向こうの相手は部隊のトップが直接応対していることに面食らうも、冷静に報告を続けた。


「大佐ですか……こちらは哨戒任務中、第一大隊ブラヴォー中隊所属、ドワイト軍曹です。大隊の本部(HQ)が呼びかけに応じないのでこちらの周波数を……」


「それはいい。とにかく周りの状況を知らせろ」


 第一大隊の司令部が死んだのか。


 口調は冷静さを失いつつあるスミス大佐であったが、それだけは冷ややかに把握する。


 ドワイト軍曹が続ける。


「はい、自分の小隊はガスに襲われた時、ほぼ全員が生き残りました。一人、正気を失ったようになった隊員がおりましたがなんとか制圧して拘束しました」


「でかしたぞ、軍曹」


 そこまで聞いて少し安心するスミス大佐。


 しかし無線の向こうの声からは何かマズイ事態に陥っている雰囲気しか感じ取れない。


 先を促す。


「はい、それが……その次に我々に降りかかった事態なのですが……小官以外全員が戦死、戦死(KIA)です、大佐。炎に……巻かれて……小官も……」


 スミス大佐はだんだん弱っていくドワイト軍曹の声に焦りを感じて、


「おい、大丈夫か!?」


 と声を荒げた。


「大佐、俺の足が……はは、人間の体って、黒焦げになると感覚を感じないもんなんですね、なんか、体液がどんどん流れ出てて……」


「おい!しっかりしろ!何があったんだ!?」


「獣です、大佐。馬鹿でかい、故郷のクマよりでかい獣……燃えてました。燃えてて、炎を吐いて……小銃弾じゃ効かなかった。対装甲目標……武器小隊のカールグスタフが必要でしょうな」


「わかった、状況はよくわかった。そこで安静にしてろ、すぐに助けを向かわせる」


 大佐自身、そんなことはできないのはわかっていた。

 

 絶対に仲間を見捨てないが信条の部隊だが、どうしようもない。


 がっくりとうなだれる。


 イマイチ被害規模を把握できないスミス大佐だったが、大打撃を受けたのはわかる。


 そうであっても、仲間を見捨てることになろうとは。


 自分の不手際であるという罪悪感がチリチリと彼の心を焼いた。


 だが落ち込んでばかりもいられない。


 無線を全部隊向けに設定する。


「こちら連隊指揮官ポール・スミスだ。敵が侵入してきている。こちらの世界で三日目に確認されたヤツより戦闘力は上だと思え。小銃は効かない。対戦車火器を装備している小隊が前に出張れ。全員が警戒しろ……」


 そこまで言ったところでテントの中にゾンビと化した彼の部下、いや、元部下というべきだろうか、が入ってきた。


 呻き声をあげる「それ」に向けてスミス大佐は座っていた椅子を振り上げて立ち向かった。




「人間ごときが……我に立ち向かってくるとは」

 オグンマカーハ。


 火を操る体高3メートル越えの巨獣。


 四つ足でのしのしと魔界の土を踏みしめる。


 その度、荒れ地に申し訳程度に生えている痩せた草がしなしなと熱で萎び、焦げ、燃え上がった。


「わああ!!来るな、来るなああ!!」


 若い兵士がたった一人オグンの進行方向に立ちふさがる。


 他の仲間は逃げてしまった。


 小銃弾では効果がないと判断し、迫撃砲や対戦車火器を持つ小隊に合流しようとしたのだ。


 若い兵士一人だけが冷静さを失い、構えたM4カービンをフルオートで撃ちまくる。


 オグンの顔面や炎のたてがみにヒットするが、彼は全く動じない。


「豆粒を飛ばして来ることしかできない弱者が……」


 そう呟くと全身に力を込めた。


「フン!!」


 その瞬間、熱の波紋が空気中を伝わった。


 オグンを中心に周囲へと広がっていくそれは空気を一瞬で数千度の高温に変えた。


「ぐがあっ!?」


 若き勇敢な兵士はもだえ苦しんだ。


 皮膚を焼き、のどを焼き、肺を焼いた空気を払おうともがくが、何の意味もない。


 オグンはそれを見て溜息を吐く。


 超高温の溜息だ。


 彼の獅子の顔の周りの空気が揺らいだ。


「お前たち人間……人間か。まったくか弱い生き物だ。魔法すら持たないならば。なんとも哀れではないか」


 殺虫剤を被った虫のように身体中をかきむしりながら地面に転がって喘ぐ兵士。


 オグンはそれを見下ろしながら思うのだ。


 あまりに簡単すぎる、と。


 顔を上げて地面を突く前足を踏み出す。


 彼はこれからそんな弱い人間たちに地獄の業火を浴びせかけに行くのだ。


「願わくば、少しは歯ごたえのあるところを見せてもらおうか」




 その頃、連隊本部付近では、マスクを外したスミス大佐が指示を飛ばしていた。


「急げ! カールグスタフをありったけ持ってこい! 対装甲目標武器小隊は前へ! 前へ!」


 生き残った隊員たちの動きは素早かった。


 流石は精鋭部隊といったところか。


 武器小隊により迫撃砲が準備される。


 砲弾の安全弁が外されて行く。


 兵士の一人が叫んだ。


「いつでも撃てます!」

 

 迫撃砲のそばに寄ったスミス大佐はうなづく。


「よし! 女を目の前にした大砲のように準備ができたか! いいか! お前ら! モンスター狩り童貞はこの間一匹倒した時に捨ててるんだ! 撃ち漏らすんじゃないぞ!」


 イエス・サーの掛け声と同時にスポン、スポン、と、曲射弾道の炸裂弾が天空へと打ち上がった。


 無人偵察機からもたらされる観測情報が頼りの射撃だった。


 管制官はトレーラー内部にいたので黒い煙には巻かれなかったのだ。




「ぬう!?なんだこれは!」


 爆裂、爆裂、爆裂……。


 頭上から降り注ぐ迫撃砲弾の雨あられ。


 オグンマカーハはMBT以上の防御力を持つから一発一発は屁でもない。


 しかし地面を掘り返さんばかりに撃ち込まれるとあっては足が止まってしまう。


 ドン、ドン、ドン。


 魔界の赤土を吹き上げながら砲弾が着弾していく。


「ふ、ふははははは!この爆破魔法、これだけの威力!なかなかやるではないか!」


 魔法ではなく科学……それについては魔王が幾度となく説明したが、決して知能が高いとは言えないオグンにとっては耳からこぼれ落ちる情報に過ぎなかったらしい。


 ともかく、彼は雄叫びをあげて人間の魂の波動が数多く検知される方へ走った。




「目標、向かってきます!」


 双眼鏡を覗く部下の報告。


 スミス大佐は黙って腕組み。


 彼の目にも見えた。


 オレンジに光る獣が一番手前の丘の向こうから現れてこちらに突進して来るのが。


 遠目に見ても巨体だった。


 M1戦車を縦に二両重ねたくらいはあるだろうか。


 だがそれだけだ。


 やってやれないことはあるまい。


 彼我の距離、500メートルにまで迫る。


 無反動砲カールグスタフを担いで膝立ちになった隊員たちがスミス大佐の方を不安そうに見る。


 とっくに有効射程内だ。


 汗が滴る。


 怪物が300メートルまで迫った時だった。


 スミス大佐が決断した。


「カールグスタフ、全門発射! 撃て(ファイア)っ、(ファイア)っ!」


 瞬間、轟音がいくつも上がる。


 砲の反対側からバックブラストを吹き出しながら、弾頭が目標へと飛んでいった。


 その数、十。


 隊員の半数以上がやられた上でこの数を揃えられたのは上々と言っていい。


 着弾、着弾。




「グワアアアア!?」


 カールグスタフの弾頭はHEAT。


 化学エネルギー弾頭である。


 爆発の圧力を収束して溶けた金属を熱線のように噴出させる。


 それは交番を容易に溶かし、穿つほどの高温高圧高速度。


 当たって仕舞えばオグンに対し、効果はあった。


 何せ炎熱の支配者を自称するだけあってHEATの熱ではダメージは受けない。


 しかし高圧のメタルジェットはその皮膚を貫通し、肉を引き裂くに十分な威力だった。


「わ、我の皮膚を貫くだと?」


 十発のうち、命中したのは四発。


 うち三発が有効な打撃を与えていた。


 もはやオグンは全力で戦うことなど不可能な痛手を負っている。


 どうする、撤退?しかし……


「人間ごときに背を見せられるかぁ!!」


 プライドが彼を前に進めしめた。




「目標!依然進撃を続けています!」


「マズイな!?」


 スミス大佐は首の傷を抑えた。


 ガーゼを当てる暇もなかったそれは真新しい血にまみれている。


 どうする?カールグスタフは今ので撃ち切った。


 これ以外に効きそうな武器はない、どうする?


 しかし彼の思考はそこで止まった。


「む……? 退い……た?」




 オグンがなぜ退いたのか。


 それは単純な理由だ。


 彼がプライドより優先するものなど一つしかない。


 「魔王の指令」だ。幹部と魔王間でのみ使える遠隔魔法通信テレでの撤退の指示だった。


 魔王は取って帰って来るオグンを確認すると、微動だにせぬまま傍の腹心に目をやった。


 じゃらり、と、魔王の横で音がした。


 鎖の音だ。


「あっしの出番ですね」


 魔の鎖の束、デメンサヴァリテータがノイズのような声で言った。

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