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(未完)大魔界大戦 米軍VS魔王軍  作者: 北條カズマレ
第五章 異世界侵攻作戦
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第二十七話 キューピの場、隠された王手

二〇一七年五月二十八日時刻1500、

異世界、魔界、キューピディダシアの守護するワイバーンベイビーの巣付近

X+二十六日


「あー! 面白そーだなー!」


 キューピディダシアは自分の縄張りに向かってくる米軍車両の車列を岩山の上から望遠レンズのような視力で確認していた。


「なんか重そうなのがいっぱい居るよー! あははははは! あれ全部やっつけていいのー?」


 誰に許可を求めるでもない、独り言。


 思ったことをなんでも口に出す、白痴。


 面倒ごとは全部腕力で解決。


 それが、キューピディダシア。


 物理的に強大な相手にぶつけるには最高の駒だった。


 頭に生えた二本のツノを撫でる。


 何かを思い出そうとするときの癖。


「キューピ、お前は見敵必殺。自らの領域に入り込んで来る敵にただただ真正面からぶつかれ。お前の力なら陸上部隊など造作もなく倒せるだろう」


 忠誠を誓う魔王から言われた言葉だ。


 その通りにする、以外の考えはなかった。


「じゃ、キューピ! いっきまーす! とうっ!」


 岩山から飛び降りる。


 垂直50mの断崖絶壁を、ベッドから降りるよりも気軽に。


 ズン、とスレンダーな見た目からは想像もつかないほどの重量が地面に着地する。


 彼女の体重は身長160センチでプロポーションはモデルのようでありながら、2トン。


 重さの秘密も、それで支障なく動ける理由も、全ては魔素カルマプラズムのなせるワザ。


 魔王城に入るときも、階上には上がれない。


 石畳を踏み割らないように気をつける毎日である。


 裸の地面に作る足跡は10センチはめり込むのだ。


「いっくぜい! まずは全力〜〜っ!! っちぇりゃああああああああ!!」


 爆発が起こったかのように分厚い土煙が数十メートルの高さに吹き上がった。


 キューピが地面を蹴ったのだ。


 レールガンの加速よりも一瞬でマッハ3に達したその身体は超低軌道、直線に近い放物線を描いて二キロの射程を一瞬で詰めた。


 直撃。


 犠牲者はトレーラー上のM1戦車だった。


 2トンが終端速度マッハ2で突っ込んできたのである。


 劣化ウランの堅牢な装甲を持つ第3.5世代戦車とはいえ、真正面の最も分厚い装甲とはいえ、ひとたまりもなかった。


 キューピの拳がぶち当たった砲塔はひしゃげ、車体から外れ、はるかかなたに飛んで行った。


 戦車を運んでいたトレーラーは衝撃で紙細工のようにバラバラになった。


「あははははは! 一番硬くて重そうだったけど、本気で殴ればこんなもんかー!」


 ストライカー装甲車に騎乗していた部隊指揮官、ジョンソン大佐は大音響とともに目の前のトレーラーがゴミクズになったのを見て、口を大きく開けた。


 なんだこれは。


 だが、いうべき言葉は一つしかない。


「敵襲! おそらく運動エネルギー弾!」


 しかし濛々たる土煙の中から姿を見せた影を見て、再度仰天する。


「しょ、少女?????」


「あーつまんない! うん! 君たちちゃんと準備してー! 行軍モードじゃちゃんと戦えないでしょ? いきなり襲ったのは謝るからちゃんと人を展開してよお!」


 戦車がトレーラーから降りる。


 ストライカー装甲車から歩兵が下車する。


 ひしゃげたM1戦車の車体に仁王立ちで陣取るキューピを半包囲する。


 向けられた戦車砲、小銃、重機関銃……。


「大佐、発砲……するんですか?」


 戦車小隊の指揮官が砲手の、ゴスロリ少女を照準器に捉えたという報告を聞いた後ジョンソン大佐に訊ねる。


 地面に降りた歩兵たちもジリジリと残骸の上の少女に近づきつつ同じことをインカムで訊く。


 無論、銃を向けながら。


 キューピは勝ち誇ったような笑顔で両手を腰に当てながら見守っている。


(本当にこの少女が今の一撃を……)


 ジョンソン大佐はまだショックから立ち直れないでいる。


 確かに相手は人間とは思えない登場の仕方をしたし、頭に二本のツノが生えてもいる。


 それでも、少女に銃を向けるのは……。


「大佐! 応答してください! 指示をもらえますかあ!? 撃つべきなんですか? 撃っちゃいけないんですか!? どっちですか!?」


 何も指示を出されずにいた歩兵小隊長が業を煮やしてインカムで訊いてきた。


 ジョンソン大佐は慌てて、


「こ、拘束だ! 拘束しろ!」


「コ、了解コピーザット


 指示を受けた歩兵たちが残骸へと足をかける。


 キューピディダシアは微動だにしない。


 ただ、自分へと近づいてくる歩兵を見ている。


「りょ、両手を頭の上へ……ぴぎゃ!?」


 人間の目では捉えられないジャブが兵士の頭を砕いた。


 音速を超えた証拠の白い衝撃波の雲、ペイパーコーンだけを他の兵士は見ることができた。


「なっ!? て、抵抗するな、撃つぞ!?」


 さっさと撃てばいいのに、他の兵士たちは相手が可憐な少女であるから一瞬、油断する。


 それが致命的な隙だった。


 まあ、隙など見せなくても彼らの命運は決まっていたのだが。


「ぎゃっ!?」


「ぎい!」


「ぐげっ!?」


 一瞬で十数人がキューピに殴り殺された。


 蹴り殺された。


 攻撃を受けた部分は一瞬で血と骨の煙になって爆ぜた。


 悲鳴をあげられたものはまだいい方で、大半が声も上げられずに即死した。


「えー、アリエナーイ。こんな程度でみんな死んじゃうのー?」


「う、う、撃て! 撃て! 撃てえええええ!」


 ストライカー装甲車の車内から様子を伺っていたジョンソン大佐は無線機に向かって叫んだ。


 歩兵のM4やM1戦車の戦車砲、榴弾が一斉に火を吹いた。


 爆煙と硝煙に包まれるキューピ。


 何秒たっただろうか。


 撃ち方やめの大佐の合図ののち、煙が晴れると、そこにいたのはゴスロリ服に破れすらない無垢な少女……。


「あ、悪魔だ」


 ジョンソン大佐の頭の中は真っ白になった。


「もう終わりー? じゃ、またこっちから行くねー?」


 それ以降は虐殺だった。


 キューピの拳を食らったストライカー装甲車が宙を舞い、マッハで移動するキューピの体当たりを食らった兵士はただの血煙となった。


 トレーラーから降りたM1戦車もまた次々と残骸と化して行く。


 ある車両はパンチのラッシュをくらい装甲がおにぎりがぎゅっと握られるように丸つぶれになり、内部の乗員を押しつぶした。


 ある車両は砲身を掴まれて引っこ抜かれた。


 ある車両は本気の掌底を食らって内部機器が飛び散り、乗員が破片手榴弾を食らったようにめちゃめちゃに引き裂かれた。


 戦闘車両、非戦闘車両計400両が全滅するまで、一時間しかかからなかった。


「残ったのは俺たちだけか?」


 最後に残ったのは、いや、キューピがあえて残したのは第五戦車中隊の二号車だった。


 車長のスチュアート少尉がした質問に、


「どうやらそのようっすね」


 砲手が答える。


 彼らの戦車の目の前、壊れた車両が積み上げられた先にいるのはゴスロリ服の少女、いや、ゴスロリ服の悪魔。


「どうしやす? 神にお祈りでもしやすか?」


「いや、待て、どうやら相手はこちらをすぐに殺す気は無いらしいぞ?」


 キューピは望んでいた。


 殴りだけではなく、殴り合うことを。


「はーあ、つまんないの。そっちの攻撃、全然効かないんだから。だからさー、もう、全力の一撃をたたきこんできてよ! ねーえ?」


 その言葉をスチュアート少尉たちは聞くことはできなかったが、キューピが撃ちなさいと言わんばかりに両手を広げて立っているのを見ると、相手の意図を察した。


「弾種、装弾筒付き有翼手甲弾(APFSDS)


「マジスカ!?」


 車長の言葉に砲手は聞き返す。


 装填手もスチュアート少尉を見る。


 少尉は真面目だった。


 それしかないと考えていた。


 人間大の大きさの的に最大の貫通力を誇る弾を撃ち込む……?


 信じられない。


 しかし確かに、榴弾でダメならそうするしか無いというのは納得がいった。


「了解! 装弾筒付き有翼徹甲弾(APFSDS)装填!」


 装填手が復唱する。


 砲手が狙う。


 目標、少女の腹。


「せいや、こーーーーーい!!」


 キューピは腹筋に力を込めた。


 かつて何人もこの鋼という比喩すら生温い超硬の腹筋を貫く一撃を持たなかった。


 今回も、彼女は防げる、と考えていた。


「撃て!」


 空気を震わす発砲音!


 120mm滑腔砲が唸る!


 装弾筒付き有翼手甲弾(APFSDS)は砲口から飛び出すと同時に装弾筒をパージし、細長いダーツの矢のような本体を露出させる。


 そして正確なヒットを!


「がはぁっ!?」


 キューピは苦悶の叫びをあげた……。

 



 全ては陽動だった。


 12000名の地上軍、それらは単なる陽動……。


 それを地上の大佐たちは知らなかった。


 知っていたのは、少将と、一部の参謀と、国防総省ペンタゴンの高官と陸軍長官だけ。


 この作戦が立案された時、立案者はとても国防長官には承認されないだろうと思っていたが、あっさり通ってしまった。


 モアランド国防長官も、覚悟を決めたらしかった。


 地上軍を捨石にしたわけでは無い。


 まさか威力偵察でここまでの被害が出るとは思わなかっただけだ。


 斬首オペレーション作戦ビヘッディング


 目標に必ず相手の首魁がいるとは思っていなかったが、虎の子のステルスヘリ四機を向かわせる価値があると考えたのだ。


 UH-60X ステルスホーク、DARPAの研究室から引っ張ってきた特別仕様光学迷彩搭載型。


 それが30キロの装備を背負ったDEVGRU戦闘員三十三名を乗せて魔王城に向かっていた……。

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