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(未完)大魔界大戦 米軍VS魔王軍  作者: 北條カズマレ
第五章 異世界侵攻作戦
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第二十五話 モアランドの悲哀、オグンの場

二〇一七年五月二十八日時刻1500、

米国、某州、米陸軍火傷病院への途上、車内

X+二十六日


 モアランド国防長官は覚悟の下にあった。


 無論、大統領の決断を重んじ大戦争を戦い抜くという決意はある。


 しかしそれ以上に今、試されている覚悟があった。


 ポール・スミス大佐。


 最初に異世界に送られた部隊、第75レンジャー連隊の長にして生き残りの一人。


 今彼は陸軍火傷病院にいるというではないか。


 そして彼は直接の面識はなくとも、大学の後輩だというではないか。


 会わなければならない。


 公的な心でも私的な心でもそう思った。


 しかし、火傷病院……。


 正直、恐ろしかった。


 「戦争の現実」を最も残酷な形で見せてくれることだけは確かだった。


 そう考えているうちに、乗っている車が目的地に着いた。


 運転手の制服軍人を置いて病院に入る。


 事前に話を通していた病院関係者がすぐに出てきて政府閣僚に敬意を表した。


「ポール・スミス氏でしたらこちらです」


 白衣の30歳ほどの医師の案内で病院内を進む。


 コツコツとリノリウムの廊下を革靴が叩く音がする。


 義足のせいでリズムは少し妙だ。


 反響したそれは言い知れぬ不安となってモアランドの元に帰ってくる。


 だが、会わねばならないのだ。


 その部屋は個室だった。


 ベッドを覆うカーテン越しに目的の人物がいるらしい。


 医師から簡単な怪我の状況の説明を受ける。


 どうやら、かなりひどいようだ。


「お邪魔するよ」


 自分の訪問が事前に伝えてあると確認が取れたので、モアランドはそう言って、カーテンの中に入った。


 そこには、手足のない、顔の潰れた男の体が横たわっていた。


「あ……」


 男は声を上げると、モアランドと数瞬目を合わせる。


 片目は白濁していた。


 モアランドはプロフィール写真のスミス大佐の顔を思い出す。


 スキンヘッドに制帽を被ったその顔は、このカーテンの中のどこにもなかった。


「お初に、お目にかかります、長官……」


「怪我の具合はどうかね? 大佐」


 だいぶ辛そうだった。


 ケロイドになった皮が突っ張って口を動かすことも辛いらしい。


 典型的な労いの言葉をかけるモアランド。


 それが済むと、数瞬、沈黙が訪れてしまう。


 何を言ってやればいいのだ。


 モアランドは悩んだ。


「ちょ、長官……」


「なんだい?」


「長官は、私と同じ大学でしたよね?……今でも思い出します。私は、ラグビーの選手で……」


「私もそうだったよ。大佐。いや、ポール。我が後輩よ」


 スミス大佐はある歌を口ずさみ始めた。


 彼と、モアランドの母校の校歌だった。


 モアランドは、涙を流した。


「泣いて、くれますか、先輩」


 モアランドは慌てて目尻を拭って、


「あ、ああ。もちろんだとも。その、まさか校歌まで聴けるだなんて思ってもなかったから、懐かしくってね……」


「先輩、そうじゃないでしょう? 私が哀れだからでしょう?」


 答えられなかった。


 スミスは言う。


「いや、いいんです。こんな姿を見れば誰でも……。先輩、あいつらは、あの化け物どもは悪魔です。誰かが止めねば……こちらの世界に入ってくるのを……」


 モアランドはぐっと力を込めて、


「大丈夫だ、ポール。もう絶対にこちら側で好きにはさせない。今、大統領令で向こうに行き、こんなことをしでかした奴らを捕まえる準備をしている。何も心配いらない」


 スミスはうなづいた。




 病院を後にする。


 そしてモアランドはリムジンの中で決意するのだ。


 自分の兵には、絶対に、無駄死にや無駄な怪我だけはさせないと。




二〇一七年五月二十八日時刻1500、

異世界、魔界、オグンマカーハの守護するワイバーンベイビーの巣付近

X+二十六日


 第一特別任務連隊2000名の長、ダン・マクリー大佐。


 彼はストライカー装甲車の上部ハッチから上体を出し、油断なくあたりを伺っていた。


 スクウェア周辺のやや起伏に富んだ地形と違い、この近辺は全くの真っ平らである。


 唯一の例外は今まさに麓にたどり着きつつある岩山である。


 200メートルほどの高さで、この岩山だけニキビのように地面から唐突に盛り上がったかのようだ。


 頂上からは血染めの空に向けて黒煙が上がり、なんらかの熱源--溶岩か--が吹き上げつつあるように見えた。


「斥候を出す!」


 連隊を岩山の500m手前で停止させたマクリー大佐は下命する。


 第二ストライカー小隊四両が前に出て岩山に向かう。

 

 それを頭の後ろで腕を組んで見守るマクリー大佐。


「さーて、コブラの巣をつついて主が出てくるかどうか……」


 その時、岩山の火口から四匹のワイバーンベイビーが飛び出て来た。


 羽ばたきながら降下してくる。


 間違いない。


 ここが奴らの根城だ。


 CIWSが大きさの割に信じられないほど機敏な動きで20mm機関砲の照準を合わせる。


 そして鉄の滝が奏でるかのような爆音で弾を宙にばら撒いた。


 ワイバーンベイビーの体が空中で血のしぶきになって四散した。


 これまでの行程でいくらでも見て来た光景。


 意外性も何もない、ルーチンワークのような戦闘であった。


 マクリー大佐はぼーっとそれを確認すると姿勢を正して指示を出す。


「よっしゃ、四発ロータードローン(クアッド)飛ばせ。岩山上部の巣の入り口を爆破処理できるか確認したい」


 大佐の乗る指揮車両ストライカーの後部ハッチが開き、乗員がドローンの展開処理をする。


 民生品よりはるかに高性能で値段も百倍違うおもちゃがフワッと飛び立つ。


 ヴィーと羽音を立てながら上昇していく。


 10m、50m、100m……ついに岩山を超える。


 映像は地上兵士の持つタブレットに……。


 しかし、途絶える。


「どしたい?」


 マクリー大佐は疑問の声を発するが、すぐに異変に気付く。


 暑い。


 まるでサウナだ。


 急激に気温が上昇しているようだ。


 これは……やばい。


「おい! 車内に戻れ! げほ! ゲホ!」


 高温蒸気のような熱気を肺に入れてしまい、むせるマクリー。


 慌てて乗員が後部ハッチに入ったのを確認すると、自らも車内に潜る。


「ゲホ! 超高温の火山性ガスか何かか!? クソ(シット)! 吸っちまったぜ! 両生類の屁の方がまだましだ! 全車に告ぐ!」


 無線の受話器を握る彼の後ろで後部ハッチの閉まる音がした。


「対NBC防御! 車内を与圧しろ! 外気を入れるな!? 硫化水素かもしれん! そうでなくとも致死的高温ファッキンホットだ!」


 全車両が指示通りに車内空気と外気との循環を停止する。


 これでとりあえず危機は去ったか。


 しかしこれではまさに手も足も出ない状況。


 ドローンでトビトカゲの巣を確認し、工兵でそれを爆破処理できて御の字。


 そうでなくとも戦闘を経験しある程度の情報を得られればベター。


 そういう遠征だった。


 まあまずまずだ。


 この場所は火山用装備が必要というのがわかれば十分だ。


 斥候はこういう気温上昇を報告していなかったのに部隊が到着した途端にこれというのは運がないが、仕方あるまい。


 マクリー大佐はそう納得すると帰還の指示を出そうとする。


 しかし、であった。


 部隊の背後、今しがたまで地平線まで広がる荒野だったそれはいつの間にか業火の壁に変わっていた。


 文字通り、燃え盛る炎が絶壁となって帰路を遮ったのだ。


 地面から吹き上がる炎の壁は高さ数十メートルはあろうか……。


「なんだこりゃ……」


 転回した車両上部の覗き窓から様子を確認したマクリー大佐は思わず呟いた。


 その時、岩山の頂上から低いつぶやき声が……。


 「また逃げるのか、こいつらは」


 火口の中から姿を現したのはオグンであった。


 しかしその姿は見慣れた獅子頭の大白猿とは違っている。


 オレンジの炎渦巻く火の精霊の姿だ。


 魔素カルマプラズムが十分なこの魔界奥地であればこのような形態をとることもできるのだ。


 いまやオグンは炎そのものである。


 核となる獣の体を中心に吹き上げた炎を自在に操り炎でできた巨人の姿を操る。


 『夜明けの巨人ギガンテ・デル・アルバ


 オグンの持つ最大の魔法である。


 30mの体が火口から身を乗り出す。


「貴様らには誇りはないようだな。戦士の誇りが」


 オグンの巨大な炎の体は風が渦巻くような声を発すると岩山を逆落としに駆け下りた。


 一方、マクリー大佐たちは……。


「車内温度上昇中! 退路にも巨大な炎が! 大佐! どうすれば!?」


「落ち着け!」


 騒ぐ運転手を後ろの席のマクリー大佐が諌める。


 八方塞がりの状況だ。


 下がることもできず、このまま蒸し焼きか?


 その時、最も岩山に近い方の戦車部隊から報告が。


「大佐! 何か向かってきます! 炎が……炎の巨人が……う、撃ちます!」


「……なんってことだ……」


 120mm滑腔砲の発砲音。下手すれば同士討ちの危険のある状況だが、全体が把握できない以上どうしようもなかった。


 オグンの炎の体に向け放たれた榴弾は超高温の熱の鎧カロール・エト・アルミスにより遥か手前で爆発した。


 爆圧で夜明けの巨人ギガンテ・デル・アルバの体を構成する炎は大きく形を変えたがそれだけだ。


 核となるオグンの実体にはなんのダメージもない。


「ガアアア!!」


 立ち上る炎の巨人内部のオグンが吠えた。


 魔素カルマプラズムを限界まで消費し、最大威力の百万の炎の舌デシエス・リンガ・フランマエを放つ。


 米軍車両200両すべてを覆うほどの。


 強大な火力はストライカー装甲車内部の歩兵を蒸し焼きにし、M1戦車のガスタービン吸気口から入り込んでエンジンを暴発させた。


 そこここで起こる爆発。


 壊滅。


 全滅。


 比較的長く生き残った自らの車両の中で、最後にマクリー大佐が為すことは……。


「ぎゃああああああああああああああああ!!」


 生きながらに車内気温200℃を体験するという地獄に、断末魔を上げることだけだった。

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