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(未完)大魔界大戦 米軍VS魔王軍  作者: 北條カズマレ
第五章 異世界侵攻作戦
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第二十二話 大戦争の足音

二〇一七年五月十一日時刻1730、

米国、ホワイトハウス、大統領執務室オーバルオフィス

X+九日


 ワイバーンベイビーがラスベガスからロサンゼルスを襲った日、大統領演説の反響は大きかった。


 一億人のアメリカ人がテレビを見、


 もう一億人のアメリカ人がスマホを覗いたのだ。


 あらゆるスポーツの試合は中断され、誰もが画面の大統領に見入った。


 タイムズスクエアの人の流れは停止し、テレビジョンの画面に釘付けになった。


 あらゆる職場が一時停止し、テレビかスマホから目を離さなかった。


「やれやれ、成功というわけか」


 イーグルバーグ大統領は大統領執務室オーバル・オフィスの椅子に深く身を沈めながら言った。


「大統領、演説くらいでこんなに疲れていては先が思いやられます。このあとには戦争が待っているのです」


「わかっているよナッシュ。大仕事の初めにはいつも疲れを感じる方でね。ギアが上がってくればなんとかなるさ。ふう……。さて、スコット」


 大統領は伝来の机の前で立っていたスコット・モアランド国防長官に呼びかけた。


「次の国家安全保障会議の前にプランを聞いておこうじゃないか」


「大統領、それより前に、懺悔をさせてください……。今回の件は、米国史上類を見ないほどの被害で……」


 大統領はそんな言葉を遮った。


「お前だけの責任じゃないぞ、スコット。安っぽいヒロイズムに酔うのはやめたまえ。今このホワイトハウスで今回の件について責任を感じていない人間などいないよ。石を投げれば後悔でうずくまっている人間に必ず当たるんじゃないかな。だが、今はうずくまっている時ではない」


 そう言うと立ち上がり、机のこちら側に歩み出る。


 横に控えていたフィリップ・ナッシュ大統領補佐官の前を通り、モアランド国防長官の肩に手を置く。


「君の力が必要なんだ。このホワイトハウスで誰よりも軍事に精通している君の力が。自信を持ってくれ。そしてこう言うんだ。『この作戦なら大成功間違いなしです』ってな」


「作戦? なんの作戦ですか?」


 悲しげな顔の国防長官の言葉に、イーグルバーグは困惑する。


「何って、もちろん異世界侵攻作戦だよ」


「大統領」


 モアランドは言う。


「我々が開けたのはパンドラの箱です。あとはこの箱の蓋をどうにかして塞ぐことだけではないでしょうか? 何のためにあちらへ行くと言うのでしょう。兵を危険に晒して!」


 大統領は心底困惑して、


「そりゃ、今回の攻撃の首謀者を生け捕って裁判に……」


「大統領」


 モアランドは悲しそうな目のまま、決意を込めた声で言う。


「そういうお積りなら、私は反対ですからね」


 大統領執務室オーバルオフィスを去っていく後ろ姿がドアの後ろに隠れても、イーグルバーグはずっと視線を動かさなかった。


「大統領」


 今度話しかけたのはナッシュ大統領補佐官だ。


「軍隊は冷蔵庫の中の食材のようなものです。必要な時だけ出して、あとは氷付かせておく。解凍した時に腐っていたのなら、取り替えればいい」


「私はあいつを解任などしないぞ」


 強い口調だった。


 しかし、イーグルバーグ、彼の望む軍事的アクションのためにはモアランド国防長官という存在は重荷であるのは事実だった。




 その日の会議は全くの無価値だったと言える。


 シチュエーションルームに集まった面々がしたことといえば、罵り合いに近かったからだ。


「今回ばかりはCIAのヒュミントもシギントも出番がありませんな」


 とはチャールズ・マウラー国務長官の言だ。


 対するCIA長官はそんな言葉はどこ吹く風で、


「今回の災害対策については……」


 という調子だ。


 マウラー国務長官は激昂する。


「バカが! これは攻撃だ! 飛びトカゲという生物兵器を使ったれっきとした軍事侵略なのだ!」


「しかしですねえ、動物を使った軍事攻撃など前例が……」


 CIA長官という人間の人生にとって最良とは何事も起こらないことであり、最悪とは国内での大規模な事件である。


 今回の事件は最悪中の最悪をはるか下回っていたが、これを災害と認定することで責任を回避しようとする無意識の機制があった。


 保身しか考えていないその言動に全員が呆れる頃、大統領が発言した。


「どう見ても不問だろう。CIAが今回のことを予測できるはずがない。向こうに工作員ケースオフィサーでも送っていない限りはな」


 シンとなる。


 モアランド国防長官はまだ発言していない。


 さて、どうすべきか。


 大損害を受けた現状、まとまらない政権内の意識、いつまたくるともしれない攻撃……正念場だ。


「会議を一旦休ませよう」


 大統領はセールスマンのような笑顔で言った。


 みな虚をつかれる。


「君たち、ホワイトハウスのローズガーデンで遊ぶのには慣れたかね?。バドミントンでもやってみたまえ」


「そんなことをしている場合では……」


 と、マウラー国務長官。


「やって来たまえ」


 全員がホワイトハウスの中庭ローズガーデンに出てバドミントンをやり始めた。


 国務長官はCIA長官と罵り合いながら、国防長官は陸軍長官と無言で。


 そして大統領は大統領補佐官と。


「なあ、フィル。どう思う?」


 ラケットを振りながら大統領が問う。


 ナッシュ大統領補佐官は大統領の送り込んだシャトルを打ち返しながら、


「危険な状態かと」


 と答えた。


「私の目には侵攻派と封鎖派に分かれているように見えます。封鎖派は、国防長官、陸軍長官。彼らは対テロ戦の他に大戦争を抱えるつもりがありません。それからCIA長官と、国務長官もそうでしょう。他の閣僚は……。つまり、侵攻派は我々二人ということです。ですから!」


 パン!という乾いた音ともにシャトルが鋭く地面を叩いた。


 大統領は打ち返せなかったのだ。


「ですから、あと数日から十日ちょっとの間に侵攻派を増やさないと大統領の期待に沿う結果は得られないでしょう」


 大統領は答えなかった。


 皆一時間以内に会議に戻ったが、結局その日は、満足な結果は得られなかった。




二〇一七年五月二十四日時刻1730、

米国、ホワイトハウス、シチュエーションルーム

X+二十二日


 政治とは、華美な演説ではなく、頑固な人間との格闘によってのみ前に進むものなのだ。


 この日も、イーグルバーグは格闘する。


 会議の最初、大統領は開口一番こう言った。


「諸君!」


 居並ぶ面々は疲れ切った表情だ。連日に及ぶ会議、会議。


「国防長官に訊きたい。無人機によるスクウェアの向こう、異世界の調査は進んでいるかね?」


「いいえ、大統領。スクウェアを超えての無人機誘導には限界があり、管制車両を異世界側に進出させなければなりません。しかし、危険すぎるので今は中止しています。完全にワイヤーネットで覆ってしまいましたし……。第一、無人機でできる調査には限界があります」


 そこで大統領は、


歩兵ブーツオンザグラウンドが必要ということか。やれやれ。また死人が出るな」


 と言った。


 ざわつくシチュエーションルームだった。


 国務長官が立ち上がる。


「大統領、このままなし崩し的に戦争という沼に入り込むのは……。まず交渉をして相手の正体を測るべきでしょう?」


「十万人の棺を背負ったままか?」


 国防長官が言う。


「大統領、リスクが大きすぎます。今すべきことは、閉鎖と、スクウェアを完全に閉じる方法の模索です。科学者たちはよくやってくれています、ですからもう少し待って……」


「お言葉ですが」


 ナッシュ大統領補佐官。


「科学者の計算ではスクウェアの完全閉鎖は無理であると」


 ざわつく室内。


 このことはまだ現場の科学者以外誰も知らないはずの情報だった。


(フィル……天才め。自分で計算したな?)


 イーグルバーグ大統領は、彼の腹心の知能が百万人に一人のレベルであることを思い出していた。


「そういうことだ」


 大統領は言った。


「出来もしない夢を追いかけるのをやめよう。現実を見るのだ。さあ、決を取ろうじゃないか。侵攻か、閉鎖か。二つに一つだ」


 挙手が促された。侵攻に賛成のもの!


 出席者全閣僚一二名のうち、四名……。


 反対の者、八名。


(ダメだったか……っ!)


 ナッシュは観念して目をつぶった。


 また、国民に犠牲者が出るかもしれない結果だった。


 ネットなどかけても、向こうの戦力が不明なのだ。


 破られる可能性の方が高い。


 そうなれば政権など紙のような……。


「そうか」


 と、大統領。


「いい結果じゃないか。賛成四、反対八。よって侵攻が決断されたと、相成ったな」


 ざわめく室内。


 我らが大統領は何を言っているのだ?


 国防長官が訊く。


「大統領? 今なんと……?」


「ん? 聞こえなかったか? 人数じゃないぞ? 賛成の方にはこの私が含まれている、つまり……」


 イーグルバーグ大統領は立ち上がる。そして力を込めてこう言うのだ。


「大統領権限を行使する!! たとえ賛成が私一人だろうとて賛成で決定だ!! スクウェアの向こうに隠れて宣戦布告をしやがった巨悪をこちらの世界に引きずり出して裁判にかけてやる! 絶対だ!!」


 誰も、何も言い返せなかった。


 ナッシュは、ただ一つ、化けたな、とだけ思った。

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