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(未完)大魔界大戦 米軍VS魔王軍  作者: 北條カズマレ
第三章 米国の受難
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第十五話 博士、興奮の日、大統領、覚悟の時。

二〇一七年五月八日1200、

米国、ネヴァダ上空3000メートル

X+六日


 ガルフストリーム社製、ガルフストリームV。


 米政府機関での通称、C-37A。


 民間用と区別のつかない政府機関用ジェット機である。


 そこにメーリル・アッカーソン博士は乗り込んでいた。


 いや、乗り込まされていたと言うべきか。


 ここまで来たのは彼女の意思ではない。


 わけもわからないまま軍用ヘリ(ブラックホーク)で近くの飛行場まで連れて行かれ、今度は政府のVIP専用機に乗り換えだ。


 行き先はネヴァダ。


 そうとしか知らされずに。


 通路を挟んで隣に座席に座るギャレットと名乗った陸軍大尉はずっと押し黙ったままだ。


 本来寡黙なのか、喋らないことで余計なことを言いたくないのかわからないが、話好きのメーリルからすればなんとも居心地悪いことこの上なかった。


「ねえ。そろそろ教えてちょうだいな。私なんかをどうして半強制的に連れて行くのかしら。言っておくけどいくら私が言ってる説が異端だからって陰謀論とかUFOとかとは関係ないわよ」


 エリア51に向かっていることを皮肉る。


 ギャレット大尉は口を開く。


「こんな方法で連れて来て誠に申し訳ありません。しかし国家の緊急事態なのです。どうか、ご協力願いたい」


「あらそう。私なんかでも救国の英雄になれるのかしら?」


 ギャレット大尉はもう答えなかった。


 メーリル博士は窓の外を見た眼下にはネヴァダの砂漠が広がっている。


 ラスベガスでも見えないかと探したが、見つからなかった。


 翻って機内を見る。隣に座る砂漠仕様の迷彩服姿の男を。


「軍隊、ねえ」


 メーリルは呟いた。


 彼女は思い出す。


 幼少期の思い出を。


 それがあるから彼女は軍隊にはある種特別な、普通のアメリカ人以上の尊敬を感じているのだ。


 だからこそ理不尽な連行にも粛々と従った。


 空軍軍人だった父を失ったあの出来事を、彼女は今も鮮明に覚えているのだ。




「何?あれは……」


「これが、お見せしたかったものです」


 その場所は、周りを陸軍第75レンジャー連隊所属の二個大隊によって固められていた。


 仮設されたテント、集積された物資、行き交うトラック、集まる軍用車両、エリア51の研究員が設置した観測機器……。


 無論、メーリルが言葉を失ったのはそんな何処かで見たことのあるもののせいではなかった。


 青空の中、切り取られた鮮赤色の不気味な空。


 真四角の異次元。スクウェアと呼称される次元の連絡口だ。


 彼女の中の好奇心が、湧き出る雲のようにどんどん大きくなって行く。


 ギャレット大尉と一緒にRSOVに乗せられて、スクウェアの周囲数キロを回って観察させられた。


 メーリルは何も言わずに従う。


 いや、むしろ自発的にそうしたと言えるかもしれない。


 研究者としての彼女はこの状況に適応していた。


 スクウェアは一方向。


 東側に対してしか口を開けていない。


 西側に回るとどこにも繋がらない、ただの青空しか見えなかった。


 つまり、東側から西側に向かうように移動した時にしか、異世界にはいけないのだ。


 真横から見たときのスクウェアは、完全に厚みがない、虚無の姿をさらしていた。


「『厚み』は敢えてあると仮定するならプランク長でしょうね」


「なんですって?」


 ギャレット大尉は聞き慣れない言葉に困惑する。


 彼としてはメーリル博士の解析を一言漏らさず本部に報告したいところだったが、正直人選を間違われたのではないかと思っている。


 単なる情報将校である自分にカガクチシキなど扱いようもないのだ。


「ちょっと物理的にありえないわね。それでも安定しているなんて、不思議。何がそうさせているのかしら」


「量子加速器の実験中にその円周の中心部に生じたと聞いております」


 とギャレット大尉。


「それだけじゃわからないわね。実験の詳細なデータはあるんでしょ?」


「もちろん。最高軍事機密だが見てもらうしかありません」


「なんの実験をしてたんだか知らないけど、相当ヤバイものだったのは確かでしょうね」


 ギャレット大尉は口をつぐんだ。エリア51の研究者どもが何を考えていたかなど知りもしない。


「もう十分だわ。私を連れて来たのは多分あれが生じた原因を調べさせるためじゃないでしょう?むしろ、原因ではなく結果への対処の方でしょうね」


「よくわかりましたね」


ギャレット大尉は少し驚いた様子で隣に座るメーリルを見た。メーリルは言う。

「繋がってしまったのね。異世界に」




二〇一七年五月十一日時刻1130、

ワシントン、ホワイトハウス、地下極秘シチュエーションルーム

X+九日


「まず会議の前に、今回の作戦で命を落としたレンジャー隊員のために黙祷していただいてもよろしいでしょうか?」


 居並ぶ閣僚たち。


 暗い秘密の会議室の中で一人席から立ち上がったモアランド国防長官が言った。


 彼の提案どうり、皆が黙祷を始める。


 マウラー国務長官も、ナッシュ大統領首席補佐官も、CIA長官も、陸軍長官も、他の閣僚も。


 皆が。


 シンとした室内に独特の空気が流れる。


 しかし大統領は正直この時間がうっとうしくてたまらなかった。


 ちらりとモアランド国防長官を見る。


 彼は涙を落としていた。


 正直、重い。


 重すぎる。


 部下たちの命を顧みない指揮官はクソ野郎のサイコパスだが、過剰な感情移入もまた、禁物なのだ。


 イーグルバーグ大統領としては、こうして胸に手を当てている時というものは、なんとも居心地の悪い気持ちになるものだった。


 やがて会議が開かれる。


 陸軍長官が既に書類になって配られている情報を整理する。


「……でして、今回の被害は死者512名、負傷者490名、合衆国陸軍が一度に被った損害としては全くの未曾有の被害であり、比肩されるのは真珠湾攻撃時の海軍……」


「わかった、ありがとう」


 大統領が途中で打ち切る。


 十分だった。


 アメリカが何らかの意思を示すには十分すぎる損害だった。


 イーグルバーグ大統領はふうとため息をついて革張りの座椅子に身を沈める。


 天井を向く。


 防空壕並みの堅牢さを誇るコンクリむき出しの無骨な天井だった。


 顔を戻して長テーブルの閣僚たちを見る。


 皆、大統領である彼自身を見ていた。


 目を落とす。


 自分の膝へと。


 膝には聖書が置かれている。


 16歳の誕生日に両親からもらったものだ。


 ボロボロのそれに置いた手に力を込めた。


「諸君」


 力強い響きの声だった。


「これは国難だぞ。ここで対応を誤れば大ごとだ。色々オプションがあるぞ? 記者会見で公表するとかな」


 CIA長官が驚愕といった表情をする。


 大統領は笑みを浮かべて手を挙げ、冗談であることを示す。


 そしてマウラー国務長官に目配せする。


 他のオプションを提示してくれ、ということだ。


 マウラーは肘をテーブルに乗せると明快に語り出す。


「まず一つ、あの巨大なスクウェアを完全に覆う構造物、チェルノブイリ原子力発電所を覆う石棺のようなものですね。これで完全にクローゼットの中に隠(臭い物に蓋を)します。メリットとしてはリスクの回避。デメリットとしてはレンジャー部隊の損害に対するカバーストーリーを作る必要があることですな。二つ目。『向こう側』に侵攻し、完全にこちらのコントロール下に置く。メリットとしては新しい資源の発見の可能性など、夢想的なものに限られます。デメリットとしては人的損害の拡大です」


 モアランド国防長官が口を挟んだ。


「大統領、人的損害はもはや許容不能なレベルです。これが公表されれば政権は倒れますぞ」


「わかってるさ」


 と、大統領。


 モアランドはさらに続ける。


「勘のいいものは気づいているでしょう。今、かの部隊は演習に参加していることになっています。しかしいずれバレます。負傷者の治療のため、医療関連企業から医薬品が大量に消えていることとかでまず怪しまれるでしょう。ただの演習ならあり得ませんから」


「私の大統領としての政治生命もあと少しということか。やれやれ」


 対するマウラー国務長官。


「政治生命をファクターに物事をお決めになるつもりですかな?取り返しのつかない恥になりますぞ。これは国難なのでしょう?」


 イーグルバーグは答えない。そんなことわかっているからだ。


 この極秘会議室のドアをノックするものがあった。


 シークレットサービスがドアを開ける。


 制服の将校だった。


「大統領、報告です……」


 全員の視線が集まる中、彼は事態を報告した。


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