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第八話  『夜を共に』

 すでに今日の仕事を終えてしまった俺たちは、夕暮れになるまでずっと二人で歓談していた。


「フフフフっ、それもそうね。ねえタツキ、そろそろ帰ろっか」


「早すぎるって怪しまれないかなぁ?」


 あの仕事量を考えると、この時間で終わったというのは少し早すぎる気がするのだが。


「大丈夫、大丈夫。その辺はマキュリスがきっとうまくやってくれてるはずだから」


 そう言うと、シュナちゃんは親指をぴんっと突き上げる。


「じゃあマキュリスを信じるよ。じゃあ、帰ろうか」


「うんっ」


 そうして、俺たちは一緒にそれぞれの家を目指して歩を進める。とはいってもシュナちゃんは浮いているので、厳密には歩を進めているわけではないのだが。


 シュナちゃんの家は、村の裏門のすぐ傍にある。つまり今日の仕事場からすぐのところだ。そのため、あっという間にシュナちゃんの家の前までついた。


 普段はここでお別れなのだが、今日は違った。


「今日は、タツキの家までついていってもいいかな?」


「へ!?」


 急にシュナちゃんからそんなことを言われた俺はつい、てんぱってしまう。


 シュ、シュナちゃんが俺の家に!?こ、これは…。いや、待て待て俺たちはまだ付き合ってもいないじゃないか。高望みはいけない。一歩ずつだ男タツキよ。しかし…これはもしかしたら今晩ワンチャンあるかもしれない。


「ダメ…かな?」


「そーんなことありませんとも!!是非是非!!是非ともお越しくださいませ!!」


 半ばお願いするような形で俺は返答する。


「よかった」


 薔薇のような笑顔がそこに咲いた。


 ちょっと待ってくれ!!こ、これはガチでイケるんじゃないか!?


 女の子が自分の家に来たいと自分から言っている、そして今のこの態度、これは…。


 俺の身体が熱を持ち始める。


 まずは付き合うことからだ。よし、告白しちゃうか?なんて思いがが俺の頭をよぎる。しかし、現実はそう甘くはなかったようだ。


「ねぇ、タツキー。何一人でそんなところに突っ立ってるのー?」


 気付くとシュナちゃんは俺の家に向かってもう一人で進んでしまっている。思考に夢中になってしまったあまり、完全に周りが見えなくなっていたようだ。


「ちょ、ちょっと待ってよー!!」


 俺は慌てて駆け出す。しかし、それを見たシュナちゃんはイタズラっぽい笑みを浮かべた。


「じゃあ追いついてみてー!」


 それだけ言い残すと、ピューっと飛んで行ってしまう。


「ちょ、異能力はマジで反則!!」


「タツキも使えばいいじゃーん」


「使えないから困ってるんだよぉ!!ちょっと待ってぇえぇぇ」


 俺は、視線の先に浮かぶシュナちゃんを追いかけるために、うす暗くなった村道を必死に走リ回る羽目になるのだった。




 どれほど走ったろうか、もう俺の家まで歩いて数分というところまでたどり着いた。俺の目の前にはシュナちゃんが腕を組みながらその場に浮かんでいる。


「ハァハァハァハァハァハァ……」


 俺は、両手を膝に当てその身をかがめると必死に呼吸を続けていた。


「体力なさすぎ」


「いや、ハァハァ。これは、ハァハア。頑張ったと、ハァハァ。思う、ハァハァ」


 俺の体力はない。そもそも、魔物であるみんなと人間であるの俺の体力を比べる方がおかしいだろう。像と蟻で力比べしているようなものだ。


 しばらくそうやって呼吸を続けていると、徐々に息が安定してくる。あーきつかった、もうやらないぞあんな事は。


「シュナちゃんは浮かんでいるときは疲れないでしょ?」


「そんなことないよ。意外と非実体化も大変なんだから!」


「そうなの?そういえば、シュナちゃん以外の幽鬼の人たちって普段は非実体化の能力を使ってないよね。それが原因?」


「正解!これはすごーく体力を使うんだよ。だから、他の皆はずっと使い続けることはできないのよ」


「そうだったんだ…。シュナちゃんも苦労してたんだね、なんか安心したよ」


「それはありがとう。でも、それにしたってタツキは疲れすぎよー」


「うっ」


 痛いところを突かれてしまった。まぁ普段もろくに運動していないし、これで体力がある方が逆にすごいだろう。


「まぁいいわ、早く家にいきましょ」


 そう言うと、シュナちゃんは再び浮かんで先に進む。しかし、その速度は、俺の歩く速度と同じ位のものだ。


 先ほどとは違い、ゆっくりとした速度で俺たちは進む。とはいっても、俺の家はもはや目と鼻の先。あっという間にたどり着いた。


「じゃあ、私はここで待ってるから」


 そう言うと、シュナちゃんは俺の家の入口から少し引いたところで浮き止まる。


「え?うちに来るんじゃなかったの?」


「え、えっとそれは…そのっ……」


 目線があらぬ方向に向いていることから察するにあまり触れないほうがいい話題のようだ。


「分かった、じゃあちょっと待っててね。すぐ戻ってくるから」


 そう言い残すと、俺は自宅のドアに向かうと、そのドアノブを握った。


 そしてドアノブを回して家に入る。


 そうなるはずだったのだが、ドアノブは固く閉ざされていて、開かない。普段ドアノブが開かないことなんてないだけに少々の戸惑いを覚える。


「あれ?」


 これはおかしいなと思い、何度も何度もドアノブをひねるものの、決してそれが開かれる気配はなかった。





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