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第二十七話  『援軍』

 村人たちとザギュートの戦いは終始一方的なものだった。村人たちは果敢にザギュートへと攻撃を仕掛けるものの、ザギュートはそのすべてを受け流す。そして、ザギュートの攻撃を村人たちは防ぐことが出来ない。


 ザギュートの魔法と打撃を織り交ぜた怒涛の攻撃に、一人、また一人と次々に村人が倒れていく。


 バジュラの村人たちに勝算など微塵もない。そのことは本人たちが一番わかっている。しかし、彼らは決して諦めようとはしないのだ。


 ザギュートは村人たちを滅茶苦茶になぎ倒しながらも、心の中ではつまらなさを感じていた。自分の相手をする者としてはあまりにも弱いのだ。いや、弱すぎる。


 その気分を例えるなら、この世界における最強種の一角であるドラゴンが財宝を守るために、何の力も持たない人間の群れを永遠と刈り続けねばならない時のつまらなさと似ているだろうか。


 ただし、ザギュートはその村人たちを撃砕する手を動かすことを止めない。作業とは、継続してやるから作業なのだ。そこに楽しみを求める方が間違っているとも言えるだろう。


 その後もザギュートは淡々と作業を進めていく。


 しかし、その少し後にザギュートの退屈は晴らされることになる。








 村人たちが続々と倒れていく中、そのザギュートによる一方的な蹂躙が繰り広げられている場所をめがけて突っ走ってくる魔物がいた。


 その者の特徴的な琥珀色の眼は闘志に燃えている。正門での戦いをマキュリスに任せた以上、せめてこの場の戦いだけでも自分が身を挺して勝利を得なければならない、という決意を秘めた目だ。


「ほう…」


 ザギュートの目にも、その魔物の姿が止まった。


 ザギュートはその優れた戦士としての感覚で、一目見ただけで相手の戦士としての能力を読み解ることが出来るのだが、こちらに向かってくる魔物はこれまで自分が相手をしていた魔物たちとは桁が違うことが容易に分かる。


 やがてその魔物が村人たちも確認できる距離まで迫ってくると、幾人の村人がその存在に気付き歓喜の声を上げる。


「ザックだ!!戦士頭のザックが応援に駆けつけてくれたぞ!!」


「なに?それは本当か!!」


「ザックが来てくれれば百人力だ!!」


 村人たちが、思い思いの歓喜の言葉を述べ合う。


 ザックと呼ばれる魔物がその場に現れただけでバジュラの村人たちの士気は急上昇した。その結果、止まりはしないものの勢いを失っていた彼らの攻撃が、猛撃へと変わる。それはまるで死にかけていた魚が急に息を吹き返して暴れだしたかのようだった。


 その急激な士気の変化だが、バジュラの村人たちにとってはごく当然のことである。


 バジュラで暮らす数多の魔物たちの中で最強の座に君臨する魔物、それが援軍に駆けつけてくれたのだから。援軍としてこれ以上のものは望めないだろう。


 しかし実際バジュラには、ザックよりも遥かに高い所にシュナとマキュリスという魔物がいるのだが、彼女たちの魔力を村人たちが知る由もない。彼らの中では、ザックこそが最強の魔物なのだ。


 ザックと呼ばれた魔物は村人たちの後方までたどり着くとその場で勢いを殺さずに跳躍し、村人たちを一気に飛び越えてザギュートの前に颯爽と着地してのける。その姿はまさしく村の英雄だ。


 バジュラの中でも、強力な魔力を持つ魔物のみが就くことを許される戦士という職業がある。村に襲い掛かるモンスターから村を守り、他の村からの防衛力としても働く重要な職業だ。そんな強力な魔物を多く擁するバジュラの戦士の中でも最強に坐する者にしか名乗ることを許されない、村最強の魔物の証である称号こそ、戦士頭である。


 今のバジュラにおいて、その称号を名乗ることを許されている者は一人しかいない。


 その者こそ、いまここに登場したオーガロードの戦士、ザックである。


 並大抵の身体能力ではできない華麗な登場を前に、村人たちからワっと歓声が上がる。


「遅れてしまってすまねぇ!マキュリスの野郎に言われて辺りを見回ってみて大当たりだったぜ。まさかこんな奴が裏門から攻めて来てるとはよお…。でも、みんな安心しな。こいつは俺が相手をしてやる」


 ザックと呼ばれる魔物は、見た目に似合わぬ優しく力強い声で村人たちへ呼びかける。そのザックの自信あふれる声に村人は安堵したかのように表情を緩めた。


「後は俺がやるから皆待っててくれ!!」


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