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第二十二話  『すれ違った二人』

 シュナは茫然としていた。目の前では反乱軍カタストロフとバジュラの戦闘が繰り広げられている。劣勢なのはバジュラのほうだ。敵の反乱軍の力は相当なものだということが分かる、しかしそんなことはシュナにとってもはやどうでもよかった。いや、どうでも良くなったのは全てか。


 なぜなら、タツキの気配がこのバジュラ村から感じられないのだ。


 少し時をさかのぼると、シュナはタツキの行動を推測してからすぐにタツキのもとへ向かったのだが、タツキの家には誰もいなかった。


 シュナはそこでまず取り乱してしまう。


 もうタツキは反乱軍にさらわれてしまったのか、それとも家を飛び出してどこか遠いところへいってしまったのか、反乱軍に殺されてしまったのか。どれほど考えても答えは出ない。


 想像していなかった展開に、シュナの頭はオーバーヒートしてしまいそうだった。何かあってからでは遅いのだ。そのようなことがあってはもはや生きている意味はなくなってしまう。


 しばらくあたふたとバジュラとカタストロフの戦いが繰り広げられているすぐ側でしていたのだが、しばらくしてごく当たり前のことにようやく気付く。


 シュナ自らの持つ感知魔法を発動させればよかったのだ。シュナはこんな当たり前のことにようやく気付く自らの馬鹿さ加減にあきれてしまう。


 しかし、それも仕方のないことだろう。なにかパニックになったときには生き物というのは皆が皆適切な行動をとれるわけではない。そうであれば、わざわざ避難訓練などしなくていいのだから。そんな避難訓練を何度も繰り返した者でさえ緊急時には考えられないような行動をとるのだから、何の訓練もしていなかったシュナがいざというときにそういう発想に至らなかったのも無理もない。


 だが、その代償として世界はそれでも進んでいく。適切な行動をとろうととるまいと、その行動の結果として世界は先へいってしまうのだ。


 シュナは魔法を発動させる。本来であれば最初に発動すべきであった魔法を。


「《デスライトニグ・センス/黒き雷による感覚強化》!!」


 それは自身の知覚能力を大きく底上げする魔法。シュナはもとより知覚能力に優れているため使う機会に恵まれない魔法だが、現在のように村全体といった広い範囲から魔物を探すときなどには非常に有効な魔法である。


 シュナはその持てる知覚能力を総動員させて村全体の気配を感じ取る。自分の周辺には正門で戦っている魔物以外の存在は感じられない。逆に裏門付近には魔物が多くいることが分かる。


 目星を裏門のあたりにつけたシュナは、その裏門に集まっている魔物の中からタツキを探す。


 そのタツキの探し方は簡単だ。魔力の一番弱い存在を探せばよい。


 シュナの知覚能力を用いることで魔物のもつ力、つまりは魔力をオーラとして感じ取ることができる。オーラの色は個人個人で様々であるが、その中でもそのオーラの強弱の見分けは容易だ。なぜなら強い魔力を持つ者はオーラも強まり、濃色もしくはかなりの強者であった場合には黒に近い色のオーラとなる。反対に、弱い魔力しか持たない者はオーラも薄くなり、ほぼ白のようなオーラになる。


 タツキのオーラは真っ白、いわば魔力なしである。そんな最弱の証でもある彼のオーラだが、それは一番探すのが簡単なオーラでもある。シュナにとってタツキの弱さがこういう時には救いだった。そのおかげで発見が容易になるのだから。


 しかし


シュナがどれほど探してもタツキのオーラが一切感じられない。シュナの顔がますます蒼白なものになっていく。そんなはずはない、そう思ってシュナは次に別の場所を探す。けれども結果は変わらない。それの繰り返し…。


 それはシュナに絶望を抱かせるに十分だった。


「え、いやだ…。いやだよ、いやだいやだいやだ」


 気づけばシュナは泣いていた。そして、また繰り返しタツキを探す。そうやって何度も何度もその行為を繰り返すのだった。






 タツキをオーラにて感知できない理由だが、それは簡単である。タツキがモルガンとホブゴブリン2体を殺したことによりタツキのオーラが大きく変化していたからだ。しかし、そんなことをシュナは知らない。


 こうして二人は出会うことなく、事態は最終局面へ向けて動き出すことになる…。


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