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第十四話  『シュナの決断』

 一方そのころ、シュナもまた冷静ではなかった。


 正門のほうから逃げてきたという村人の話を聞いてみると、カタストロフという反乱軍が攻めてきたという。


 なんでもその指揮官たるヴァンパイアの力は相当なものらしい。反乱軍が現れると同時にその指揮官から放たれた魔法で正門のあたり一帯を焼き尽くしたのだとか。


 逃げ伸びてきた村人たちは、最初の攻撃で誰も犠牲者が出なかったのは本当に幸運だったと言っていたが、そんなことはシュナにとってはどうでもよかった。


 シュナは舌打ちする。なぜ、今なのかと。


 タツキを危険から守るのが自らの役目なのに、なぜ自分が傍にいない時に限って危険がやってくるのかとこの世の不条理に対する怒りがこみあげてくる。


 それに、正門のほうから攻めて来たというのならタツキの家のすぐ近くだ。敵の強さがどれほどなのかは知れないが、タツキとそれが遭遇したらまずい。


 もし、敵が手当たり次第に魔物を手にかけるような集団であった場合、タツキの未来はそこで潰えてしまう。


 相手が慈悲を持ってくれるような集団ならば、遭遇してもまだ可能性は残るが、反乱軍なる者たちがそのような感情を持ち合わせていることを信じるのは無謀としか言えないだろう。


 シュナは考える、どう行動するのが最善かと。


 正門まで赴き、カタストロフを自身の力を用いて殲滅させてはどうか。


 しかし、シュナは自分でその案を却下する。正門にいるのが敵の総員かわからない以上、自分が戦闘している間に他の村に侵入した反乱軍にタツキが見つかって殺されてしまわないとも限らないからだ。


「どうしよう…」


 シュナはその場で一人頭を抱える。誰しもが見とれるような美貌がくっきりと歪められる。


 最善の状態とは、シュナがタツキの傍にいて、タツキを守れる状態だ。シュナがいればどんな脅威からでもタツキを守り抜けるだろう。


 だが、それは傍にいてこその話だ。傍にいなければどれほどの力を持っていても意味がないのである。その力でタツキを守ることが出来ないのだから。


 続々と村人が避難して来ているが、シュナはそんなこと気にも留めない。


 その中にタツキが含まれていないことは確認済みだからである。シュナが気にするのはタツキの安全のみだった、他の村人の安全など考えてはいない。


 シュナがタツキの安全を確保するためには、タツキの行動を予想し自らも適切な行動をとる必要がある。


 しばらくその場で一人難しい顔をして考え込んでいたシュナだが、そこでふとタツキのとりそうな行動をひとつ思いついた。


「あ!!家の中でおびえて閉じこもっているかもしれないわ」


 真っ暗闇な迷路の中で、光輝く出口を見つけたかのようにシュナは急にその表情を急に明るいものへと変化させる。


 シュナは、先ほど閃いた自分の想像に、確信にも似た感情を抱く。


 タツキは危機的状況に落ちった場合にはたいてい体が縮こまってしまって何もできなくなってしまうのだ。言うならば、ジェットコースターに乗って怖さのあまり絶句することしか出来ない人に似ているだろう。


 シュナは、長年タツキと付き合ってきた経験に裏打ちされた推測を立てることに成功した自分を褒めてやりたい気持ちでいっぱいになる。なぜなら、シュナはそこまで頭の回るほうの魔物ではないのだから。


「よし、こうちゃいられない。早くタツキの家にいかないと!!」


 シュナは、自らの推測に一切の疑いを抱くことなく『ゴーストリックフライ/霊化飛行』を発動させると、宙へ舞う。


 それは、自身の体を完全に霊体化することで、あらゆる物理的障害物をすり抜けながら飛行できる魔法だった。使用者に多大な負担をかけるこの魔法を使用できるのは、バジュラの中ではシュナしかいない。これを使うことで、最短距離を通ってタツキの家まで行けるのだ。


「タツキ、どうか無事でいて……」


 シュナは一縷の望みを抱いてタツキの家まで飛行を開始する。


 そう、タツキの身を守ることこそ、シュナが自らに課した使命なのだから。


 シュナは、周りの状況などには一切の目をくれず飛行を続ける。徐々に自らの魔力が枯渇していくのが分かるがそんなことは気にも留めない。


 タツキを守り切れなければ自分の人生は、ほとんどそこで終わってしまうようなものなのだから。


 その時が来るまでは、自分が守らなければならない。


 シュナは、魔力の枯渇から徐々に頭が重く、全身に疲労感が巡り始めるのを感じるが、その速度を落とすことはない。


 一目散に飛翔する。


 全力で飛行を続けてきた成果だろうか、普段では考えられないような短時間でタツキの家まで到着する。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……。やっと…ついたよ」


(こんなにバテちゃってたら、タツキのこともバカにできないじゃない)


 全速力で飛行してきたシュナは、息を切らしながらも微笑みを浮かべながらタツキの家に降り立つ。ただでさえ白玉のように白いその顔は、もはや完全に血の気が引いている。


 『ゴーストリックフライ/霊化飛行』はただの『ゴーストライズ/霊化』や『フライ/飛行』と違い使用者への負担が重い魔法だ。膨大な魔力量を誇るシュナであるが、さすがに疲労は隠せない。


「タツキー……。いるー?」


 タツキの家に向かって、普段よりも緊張感の増した声で呼びかける。


 辺りの家々は普段と変わらぬ様子であり襲撃にあった気配は全くないが、不安はぬぐえない。正門のほうからは、ドドドドォォォンという凄まじい戦闘音がシュナのもとに聞こえてくる。


 呼びかけた後に、しばらく返事を待つものの、返ってくる答えはない。


 不安がシュナの中で大きく膨れ上がる。


 今までは家にいると信じ切って全速力で進んできたのだ。それがいなかったらどうだろうか。シュナは、まさしく視界が真っ暗になるような気がした。


「タツキィー!!お願いだから、お願いだから、いたら返事してよ!!」


 シュナは不安から、普段は出さないような大声で叫んでしまう。その音色から感じ取れる感情は恐怖と焦燥だろうか。


 だが、当然返事はない。タツキはシュナの家に向かっている最中なのだから。


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