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第十二話  『襲撃』

「タツキ!!早く起きてくれ!!おいタツキ!!」


 ナギサは何度も大声を出しながら息子の身体を力の限り揺さぶっていた。ガクンガクンと息子の首が揺れているがそれでも起きる気配がない。


「タツキィ!!!!お願いだよ、起きてくれ!!!!」


 ナギサはもう必死に呼びかける。ここで殴って起こしたとすると、その後がまずいからだ。


 その思いが通じたのだろうか、タツキはううんと言うとその目を開いた。


 タツキはまた寝坊してしまったのだろうかとでも言いたげに周囲を見渡すも、まだあたりは夜の闇に包まれているままだ。


 普段であれば、バジュラ村の夜というのは何の物音も立たないいたって静かなものである。それはどこの魔物が住む村においても同じことが言える。


 と言うのも、夜は魔物たちにとって自分の身体を休めるための時間であり、何か活動を行うような時間ではないからだ。


 しかしその日のバジュラは、魔物たちがドタドタと走り回る音や、ザワザワと不安げに話し合う声などが入り交じり普段とは違った様子を見せている。


 明らかに異常事態である。


 タツキは訳が分からないとでも言いたげな寝ぼけた顔をしているが、ナギサは今こうして話している時間も惜しいと、早口でタツキに必要な情報だけを告げる。


「どうやら、村が反乱軍の襲撃にあっているみたいなんだよ。お前は早くシュナちゃんの所に行って守ってもらえ、分かったな?あと、これを念のために渡しておくから危なかったら使うんだよ」


 そう言ってナギサは机の上に乗せられていた、人界では「銃」と呼ばれる武器を、タツキに手渡す。


 魔界においては、人界の道具は非常に貴重なものである。特に、この「銃」と呼ばれている武器は魔界においては製造するための技術がないのでその中でかなりの希少品だ。もちろん、タツキがそんなことを知る由もないのだが。


 「私は襲撃があったと言われている所に行って応戦してくるから、あんたは早く逃げて!!」


 それだけ言い残すとナギサは、必死の形相で家を飛び出す。向かう先は、怯えたような表情を浮かべながら逃げ惑う村人達の進行方向の逆。つまりは襲撃がいま起こっている所だ。


 村の正門のほうからは、既に火の手が上がっている。


 夜の闇に包まれたバジュラ村に、赤い輝きを放ちながら燃え盛る炎はおぞましくも美しくもあった。


「くそ、奴らめ。とうとう今度はうちに来たってわけかい」


 ナギサは前方から逃げてくる人込みをかき分けながら正門の方へ進む。村人たちはどれほど恐ろしいものを見たというのか、一目散に裏門の方へと逃げていく。


 その様は、数多くの強力な魔物を擁するバジュラとしては考えられない光景だった。たとえバジュラに並の力しか持たないような反乱軍が攻めてきたとしても、このような騒ぎにはならないだろう。


 それなのに、今こうしてバジュラの皆が取り乱しているという事実。


 この事実を説明する理由は一つしかない。そのバジュラの魔物たちを以てしても恐れおののくような強大な力をもつ魔物が現れたということだ。


 ナギサは走る速度を落とさずに疾走を続けるものの、ついため息をついてしまう事までは止められなかった。


「今日はタツキの誕生日だっていうのにね……」


 しかし、ナギサはフっと吐息を吐きだすと、そんな母としての表情を一瞬で捨て去る。そこに浮かんでいたのは、村を守るために戦うバジュラ有数の屈強な戦士のそれだった。



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