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第十話  『秘密の話』

 タツキの家に集まった魔物たちが豪華な食事を楽しみながら様々な会話に花を咲かせている中、こっそりとその家の裏側で落ち合う2人の魔物がいた。


 その気配は、極限まで薄められており、並の魔物ではその気配を全く感じ取れないほどだ。それだけでも、この魔物たちがただものではないことが分かる。


 そこで話すのは、バジュラの中でも最高峰の戦力を誇る魔物二者。その二者をして、ここまで隠密にことを進めていることが、そこで行われている会話の重要性を存分に示していた。


 二人は静かな声で会話を続ける。


「なるほど、それでシュナちゃんがそのケンタウロスを追い払ってくれたわけね」


 話し合いをしている魔物の一人は、タツキの母親であるバジュラ有数の力を持つ魔物、ナギサだ。


「はい。タツキ君の身に少しでも危険が迫るのはまずいと思い、早急に手を打ちました」


 そして、それに答える者は実質バジュラ最強の魔物たるシュナ。そんな彼女の本当の実力を知る者は本人以外に誰もいないのだが、その表情はいつになく真剣なものだ。まるで、タツキの前で浮かべている表情が作り物だったかのように。


「本当にいつも助かるわ。でも一体何者だったのかしら…」


「会話を行う前に抹殺してしまったのでその者の真意は測りかねますが、私が傍にいる限りは何の問題もない程度の輩でした。気にする必要はないかと思います」


 やがて、その二人の会話は徐々に本題に迫っていく。


「流石はシュナちゃんね。それはそうと、タツキはやっぱり自分の異能力には気付いてないのよね?」


 ナギサは俄然真剣な顔になると、シュナに問いかけた。しかし、その問いに対するシュナの答えは穏やかなものだ。


「はい、タツキ君はワーム一匹殺せないような優しい男ですから」


 シュナはそこでクスリと微笑むと、言葉を続ける。その微笑みは、彼女がタツキを前にしている時に浮かべる微笑みと同じものだった。


「タツキ君が自分の異能力に気付くことは、今の生活を続ける限りありえないと思います」


「やっぱりそうよねぇ。あの子の性格を考えると…。本当はもう少し強い子でも良かったんだけどねぇ」


「ナギサさんは、やはりいずれタツキ君には真実を話すべきだと考えているのですか?」


 シュナの問いかけにナギサは困ったようにして頬に手を添える。


「そうねぇ…。タツキにはいつか話さなきゃ、とは思っているわ。ただ、私からその能力を話して無理にそういった生き方を押し付けるのは何か違うんじゃないかな、とも思うのよ」


 その表情は息子に真実を告げることをためらう親の顔だ。なにせ、その一言で彼の人生は大きく、それは大きく変わってしまうのだから。


 その表情を見たシュナは、その気持ちを察したのだろう。その話をここで切り上げる。


「分かりました。では、これまで通りタツキ君の護衛を続けます」


「あなたにはいつも無理させて悪いわね。嫌ならやめてもいいのよ?」


 少し心配そうな顔をしてナギサがそう問いかける。


「いえ、これが私の役目ですし。それにタツキ君と一緒に過ごす時間はとても楽しいですから」


 そう言うと、シュナはハッキリと好意が感じ取れるような屈託のない笑みを浮かべる。


「そういってくれると助かるわ」


すこし安心したような笑みをタツキの母であるサクラは見せる。


「タツキをお願いね…」


「はい、任せてください」


 誰に知られることもなく秘密の話し合いを終えた二人は、ごく自然にお祭り騒ぎ状態の村人達の中に溶け込むと、ふたりの影は徐々に遠ざかっていった。


 話題の中心人物であったタツキだが、二人が会話している頃には、もう食べられないよーなどと言いながらお腹をさすっていたのだった。そんなお腹をやんちゃな子供たちにドつかれてうげっなどとも言っていたが。


 タツキ本人がこの二人の話していた内容を理解するのは、もう少し先の話である。


 タツキの誕生日パーティーはその後もその盛り上がりを衰えさせることはなく、辺り一帯には豪快な笑い声が響き続けた。かといって、明日には皆それぞれの仕事がある。そのため、皆が満足し皆が明日の仕事の支障にならない絶妙な頃合いを見計らった村長さんの鶴の一声でパーティーはお開きとなった。


 その夜には、パーティーに来ていた皆が幸せそうな笑みを浮かべて眠りについたものである。


 しかし、その夜こそタツキの運命を変えることになる夜であることをバジュラの村人たちは誰も知らない。皆が静かに眠りについたころ、反乱軍カタストロフによるバジュラ襲撃の計画が実行に移されようとしていた。


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