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僕だけが蘇生魔法を使える!<旧>  作者: AW
第1章 大陸南東編
16/41

16.愛魂の患い

「うっ……なにが?……ロトくん!?」


「私も……胸が苦しい……すごく悲しいよ……」


 ガールズトークの最中、クーデリアが突然泣き崩れた。ラールも胸を押さえて嗚咽を漏らす。



「えっ?クー、ラールどうしたの!?」



『嫌な予感……ワタシ妖精界に行ってくる』


 ミールは蝶の姿となり、窓から飛び立った。



『変態さんに何かあったのか?辛い……涙が止まらない……』


 普段滅多に泣かない気の強いアネットですら、湧き出る不安に涙が止まらなかった。



「みんな、急にどうしたのよ!?」



「ルーミィ以外……みんな生き返してもらった……クーたち……ロトくんと魂……繋がってる……ロトくんの心……叫び、嘆き……うぅ……心が寒い……」


「ロト君を……助けたい!探しましょう……」




 悲嘆にくれたのは、この少女たちだけではなかった。


 ティルスにあるエンジェルウイング本部では、ダークエルフたちを突然の悲しみが襲った。ある者は泣き叫び、ある者は抱き合って号泣した。聖騎士アスランも悲痛な感情に耐えきれず、がむしゃらに泣きながら剣を振るって己を制御しようとした。


 時を同じくして、王都では名馬エトワールとその主が、厩舎で抱き締めあい嘆き悲しむ姿が側近たちを困らせた。

 とある村でも、フィーネでも、悲しみの涙を止めどなく流す者がいた……。




 ★☆★




『我は何か間違ったか?』


『死ね!バカ親父!!ワタシは絶対に許さないからな!ロト様は……ロト様は、勇者リンネ様の魂を継ぎし者なんだよ!!あんたと違って世界のために戦ってるんだ!あんたなんかよりずっとずっと、ずっと偉いんだ。うぅ……ロト様……ワタシも連れて行ってください……』


『待て、ミールよ!これは裁定なのだ、人間ごときが魂の理を乱すことは許されない!我らは世界の裁定者としての責務を果たした……秩序は維持された!』


『秩序ってなんだよ!幸せより大切なものなのか?ロト様に蘇生してもらったワタシも、親父の言う秩序を乱す者だろ!消えれば満足するんだろ!!ワタシはね、幸せこそが世界の新しい秩序を作ると信じてる!ロト様が行う奇跡にはそれができるんだ!!森の中で何もしないあんたらとは違うんだ……』


『ミール……頼む、やめてくれ……』


 悲しみ怒り狂う青い蝶は、躊躇うことなく裸の少女の姿となる。樹氷と化した少年に近づいていく。永久凍土を溶かすように……いや、それが不可能なことは誰にも明白だった……ミールは自らの魂を永久凍土に捧げるために、少年を強く抱き締める。


『誰か……やめさせろ!ミール……離れろ!頼む、頼むから、やめてくれ!!』


『ロト様……ワタシの命は貴方のものよ。一緒に連れて行ってください。どこまでも、どこまでも!』


『ミール!!』


 しかし、妖精王の必死の叫びは誰も動かさなかった。なぜならば、その行為が秩序を乱す結果になるから。妖精たちは、涙を流しながら妖精姫ミールの魂が削られていくのを見続けた……。そうするしかなかった。




 ★☆★




「ロトはどこに行ったのよ!!」


 ティルスを走り回りながらルーミィが叫ぶ。


「これじゃ、埒が明かないわ!2組に分かれて探さない?」


「ルーミィとラールでギルド見てきて!クーはアネットと一緒にロトくんが行きそうな場所をもう1周見てくるよ!30分後にギルド集合ね!!」


「『分かった!』」




 ★☆★




『クー、速い!ちょっと待ってよ!!』


「だって!だって!!早くしないとロトくんが遠くへ行っちゃう気がするんだもん!!」



 2人はティルスの商店街、食堂、道具屋、警備兵の駐屯所……考えられる場所を走り続けた。


 高鳴る鼓動は、過度な運動というよりも、ひたすら増していく不安や緊張がもたらす割合の方が高いはずだ。泣き腫らしたクーデリアの顔には既にアイドルの面影はなく、アネットの黄金の瞳は充血して真っ赤になっている。



『え!?クーちゃん……?え!?』


『空を飛んでた少年?ギルドの方に向かってたわよ?それより、どうしたの!?』


 ファンクラブ会長は、変わり果てたクーデリアの姿に動揺し、言葉を失った。その結果、貴重な目撃証言は妻によって代弁されることとなった。


「アネット!!ギルドに行くわよ!!」


 少女たちは少年の軌跡をたどり、ギルドへと駆けていった。筋肉がつって何度も転倒した。痙攣する脚を拳で叩きながら、2人は必死に走った。少年に少しでも近づきたい一心で。




 ★☆★




『ロト君?来たわよ?霧が立ち込めたかと思ったら、消えちゃった。ロト君って、転移魔法も使えるんだね』


 ルーミィは、ギルド受付に立つ女性から有力な情報を得た。ルーミィは、なぜもっと早くここに来なかったのかと、掲示板に拳を叩きつける。周りの冒険者たちは、拳から血を流しても掲示板を殴り続けるルーミィを驚きの表情で眺めていた。


『女、どうした?冒険者はみんな仲間だ。悩みごとがあるなら聞くぞ』


 振り返る少女の顔を見て戸惑う冒険者たち。少女の悲壮な涙……そこに深い悲しみを見たからだ。


『誰か……亡くなったのか?』


「っ!!」


 中年戦士の心無い一言が、ルーミィの怒りの感情に火をつけた。抜刀して斬りかかるルーミィに、逃げ惑う冒険者たち……。


「ルーミィやめなさい!!」


「ロトはまだ死んでないのに!!こいつが死んだって言ったんだ!!許さない!許さない!」


 暴れるルーミィを両手を広げて押さえ込もうとするラール……振り回す剣の切っ先が、幾度となくラールの手足を切り裂く……血まみれになりながらも、ラールはルーミィの戦意を失わせることに成功した。


 抱き合って号泣する2人の少女を離れた位置から見守る冒険者たち……そのとき、勇気を振り絞って1人の男性魔法使いが声をかけた。


『もしかして……あんたら、霧と一緒に消えた少年を探しているのか?』


 少女たちは泣きながら彼を見上げる。


『俺は近くに居たんだ。青いローブを着た子どもが転移魔法を使った。いや、あの詠唱は特殊だったな……精霊魔法のようだった』


『俺も見たぞ!青いのは小人族だろ。サイテイがどうとか言ってたぞ!』


『それ、あたいも聞いた!サイテイが下ったから、王の下へ連れていくみたいな話だったぞ』


 冒険者から次々に目撃証言を聞かされた少女たちは、意を決して立ち上がると、彼らに問うた。


「小人族の王はどこにいる?」


 その質問に答えられる者はいなかった。

 長く続いた沈黙を再び破ったのも同じ少女だった。


「お願いします!!何でも言うことを聞きます!!何でもします!!だから、だから、誰か……あたしを小人族のところまで連れて行ってください!!」


「私からもお願いします!何でもします……ロト君を助けたいんです……助けてください!!」


 自由都市ティルスと言えど、小人族は稀少種だ。まして、その住み処(すみか)となると専門家でさえも知り得ない情報である。よって、2人の少女の嘆願はギルド内に虚しく響き渡るだけであった……。



『ルーミィちゃん……』


 様子を窺っていた受付の女性が、少女たちを囲う輪に加わる。悲痛を胸に、語りかける。


『知っていると思うけど、ギルド内での武器使用は厳しく罰せられます。クラン“エンジェルウイング”リーダーのルーミィ、貴女のギルド登録抹消を宣告します!』


 あまりにも無情な、追い討ちをかけるようなギルド職員の宣告に、場が騒然となる。


『サラさん、待ちなよ!俺は全然大丈夫だ!!いや、今回は俺が一方的に悪かった!!嬢ちゃんじゃなく、俺の登録を抹消してくれ!!』


『リーダー何を言って……いや、俺たちもあんたに付いて行くぜ!サラさん、リーダーだけで足りなければ俺たちも抹消しろ!この娘は悪くねぇ!!』


『あなたたち……でも、武器を使ったのは事実。ルーミィちゃん、処分を大人しく受けるわね?』


 ルーミィは激しく混乱していた。ギルド登録抹消……そのことが意味するのは、クランリーダー剥奪のみならず、公的な意味での少女と少年との関係断絶であったからだ。冷静なときの彼女ならば「それがどうしたのよ?夫婦の絆は切れないわ」とでも豪語して一蹴する出来事だ。しかし、今の彼女は……少しでも少年との繋がりを保ちたいと切に願っていたので、受け入れがたい処分だった。


「いやぁぁぁ~!!」


 突然泣き叫び出したルーミィを、ラールが必死に庇う。冒険者たちもサラに再考を乞う。



『ルーミィちゃん。抹消は仮処分よ!私は貴女が武器を振り回すのを直接見ていなかったから。この場にいた人に確認を取らないとね!

 それと、無事にロト君を救出したら処分は無効にできるわ。それどころか、ギルドマスターのリザ様に直訴してランクAにしてあげる!私はこれでもリザ様の一番弟子なんだから!!』


「うわぁぁぁ~ん!!」


 ルーミィはサラに抱き付いた。少年との繋がりを一時的にも保てる希望が見えたことが、彼女にそうさせた。


『まだ話は終わってないわ』


 ルーミィの身体が強ばる。冒険者たちも、ガッツポーズしていた腕を力なく下げていく。


『ロト君の救出依頼、ギルドから出します。優秀なティルスの冒険者たち!総力をあげてロト君を助け出すわよ!!報酬は金貨10枚と2ランクアップ!!』


『『うぉ~!!』』


 その場の冒険者たちは、再び、さっき以上に腕を振り上げて雄叫びをあげる。サラの『ただし成功報酬ね』という言葉は誰にも届かなかった。苦笑しながら、サラは支部長の下へと全力で走っていく。



「ルーミィ!ラール!これは何の騒ぎ?もしかして、ロト君が見つかった?」


 一縷の望みを抱いてギルドに駆け込んできたクーデリアの目には、そう見えたかもしれない。力なく首を左右に振るラール……。未だ続く胸の苦しみを押さえ、少年を愛する4人の少女たちは合流した。



『小人族?分かった!!妖精王の森よ!!きっとそこに変態さんはいるはずだわ!!』


 ダークエルフは森の民、森の保護者たる妖精だ。エルフ共々、人間界に出て永いときが過ぎたとはいえ、妖精王の森の場所は変わらない。それはどの森とも繋がる妖精界に存在する空間であるからだ。


『そうと分かれば急ぐよ!クラン本部でアー姉やランドルフさん、フローラさんたちにも伝えてくる!1番近い森は……東門ね。30分後に東門集合!!』




 ★☆★




 ロト少年救出チームは総勢40名となった。

 ダークエルフたちだけでなく、王都から駆けつけたエトワールも、その主もいた。そう、王都からティルスに間に合ったのだ。その翼で。蘇生させたロトはエトワールが宙を翔ていることに気づいていなかった。彼が蘇生させた瞬間、奇跡の力はエトワールにペガサスの翼を与えていたことに。


 救出チームは、アーシアとアネットのダークエルフ姉妹を先頭に、森まで走った。誰も一言も声を発しなかった。少年を心配する者、未知なる妖精王を警戒する者……不安に押し潰されそうな者ばかりだった。


 小1時間が経つ頃、みんなの姿は夕闇の中で静まり返る森の中にあった。閉ざされた妖精界への門が開かれる……。


 ドーム状に伸びた樹木の小路は、不思議な光に包まれて行く手を照らす。人間は身体が軽くなった感覚を味わっただろう。妖精界では金属がその存在を薄くする。武器を奪われた不安を抱きながら、冒険者たちはダークエルフについていった。


 さらに進むこと数時間。

 救出チームは広大な空間へと導かれるようにして進んでいった。遥か上空にある樹木の天蓋から降り注ぐ木漏れ日……その降り注ぐ先に見たものは、みんなの魂を凍りつかせる光景だった。


 そこには、妖精ミールに抱き寄せられるようにして眠る少年の姿があった。氷に閉ざされた世界の中心で永眠する2人がいた。

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