1.勇者の願い
「人は生まれながらにして2つのスキルを有する」
ここ、ロンダルシア大陸の常識だスキルは一種の才能であり、その種類は数万とも言われる。
剣術や基本7魔法のように修練により習得できるものもあれば、後天的には習得できないものもある。後者は俗にユニークスキルと呼ばれ、かつて世界を救った銀髪の美少女、勇者リンネ様のスキルである『鑑定眼』『アイテムボックス』『食物超吸収』などが挙げられる。
誰もが憧れるユニークスキル。それは、人の運命を大きく左右する力だ。ユニークスキルを持つ者は、多くの富、名声、権力を手にすることができる反面、命を狙われることさえある。
『西の真実』という100年以上前に書かれた本には、絶大な力を持つ勇者の運命が記されていた。異世界から召喚された37536名の勇者の死因がその全てを語っている。
自殺、餓死……13675名
処刑、殺害……21803名
魔物による死……2058名
その本は最後にこう結んでいる。
『勇者の敵は魔物にあらず、真実の敵は人間であり己自身である』と。
人より優れた力を持つ者の中には、それをひたすら隠して生きていく者も決して珍しくはない。僕もそのうちの1人だった。ある日の夜までは。
僕は学校から帰ると、悔しさのあまり布団を被って寝てしまった。父は冒険者として世界を渡り歩いているし、母は毎日夜6時まで冒険者ギルドの仕事がある。夕食を作るのはいつも僕自身だった。
明日は休みだし、今日は何も食べずに寝てしまえ。アイツのことなんて忘れるんだ!もう許してあげない!
辛いことがあると僕はいつも布団の中に逃げ込んだ。兄が死んだときも、親に叱られたときも。
今日もそうだ。僕は学校で恥をかいた。バカにされた。悔しかった!剣術が使えなくてもいいじゃないか!あんなの人殺しのための技だよ。
そりゃあ、女子に負けるのは嫌だけど、ルーミィは容赦なさ過ぎる。もう少し手を抜いてくれてもいいじゃん!!
ルーミィは僕の幼馴染みの女の子で、実は凄く可愛い。クラスの男子全員が狙っているという噂もある。金髪ショートの髪は動くたびにサラサラ揺れて、笑顔はまるで天使のよう。
でも、僕に対しては意地悪い。きっと誰かの前でかっこつけたがってるんだろうね!もう、しばらく無視してやる。今度から一緒に登校しないんだ。そしたらいつものように、泣きながら謝ってくるんだ。でも、今回はずっと許さないから!
悔し涙を我慢しながら強く決意する。少し落ち着いて安心したからか、猛烈な睡魔が襲ってきた。僕は眠りに落ちた。
★☆★
『こんにちは、ロトくん。ボクはリンネといいます』
えっ!?
いくら憧れの存在だからといって、あの伝説の勇者様の夢を見るなんて……不謹慎だぁ!
『あははっ!憧れてくれてるんだ!ボクがそっちの世界からいなくなって50年くらい経つかな?世界は平和になった?』
えっ!?心の声が聞こえてる!?
恥ずかしい!!
『これは一種のスキルだからね、念話で話してるの。だから夢じゃないんだよ?で、世界はどうなっているかな?』
あ、はいっ!
今の世界は平和だと思います!学校も楽しいし、人と魔族が共存して仲良く生活していますよ。みんなが、これは勇者リンネ様のお陰だって言っていました!!
『そっかぁ!平和になったんだね!本当に良かった!頑張って良かった!』
でも、どうしてリンネ様が僕の夢に?あ、現実でしたっけ?僕なんて女の子に剣術で負けてふて寝してる弱虫なのに。
『ん?あなたは先天スキルを使いこなしていないの?せっかくボクがあげたのに』
僕のスキルを知っているんですか?というか、リンネ様が僕にスキルを!?
『うん。説明するね。よく聞いておいてね。
魔王が去ったことで世界は確かに平和を取り戻したかもしれない。でも、ボク達にはやり残したことがあった。それは、誰もが幸せを感じられる世界を作れなかったこと。いまだに人の心には闇がある。いずれ再び平和が脅かされる日が来る。それをどうにかしないといけない。
ボク達は考えた。そして1つの結論に達したの。それは、“命と向き合う”こと。人の心の中に必ずある優しさ、生への希望を実感すること、それが唯一の幸せへの道筋だと考えた。
ボクは神様なんかじゃないけど、神様に力を借りることができた。この時代、この世界で唯一ボクの魂と共鳴できる存在である君を探しだした。重い運命かもしれないけど、今ある『蘇生魔法』と『浮遊魔法』を使って世界を旅してほしい。とにかく自由に旅をして構わない。きっと世界は変わっていくから!よろしくねっ!』
ちょっ、お待ちください!!
えぇぇぇ~!?
★☆★
僕は目が覚めていた。
やっぱり、夢……だよね?
勇者リンネ様……めちゃくちゃ可愛かった!!
ルーミィの100倍は可愛い!!
最高の夢を見れた!2度寝して、今度はいちゃいちゃさせてもらおっと!
再び寝ようとした僕の胸の上に、銀色に輝きを放つ宝石があるのに気付いた。
えっ!?
これは……銀の召喚石!?
誰もが知っている勇者リンネの伝承に出てくる神石だ。あれは夢じゃなかったんだ……僕はこのスキルを使って旅に出る運命なんだ!
明日には旅に出よう。
今日、母さんが帰ってきたら話をしよう。
勇者リンネ様が僕を選んでくれたんだ。僕なんかに世界を変えられるなんて思っていないけど、きっと意味があることなんだ。
自由に旅をして構わない……か。
それが1番難しいんだけどね。
僕は明日からのことを考えながら、再び夢の中に旅立った。幸せな夢が見られますようにと願いながら。
主人公がドラ○エぽいのは、偶然でしょう。