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世界は愛で溢れている

作者: わをん

僕は新宿を歩いていた。

新宿は相変わらず人が多い。

僕は人込みからはじき出され、ふぅとため息をついてそこに立ちつくした。

孤独。

疎外感。

そうしたもの内包しながら新宿は今日も蠢いている。


僕は何とか改札を出ることができた。

外に出ると今度は車のエンジン音が地面を這うように鳴り響く。

逃げ場を探して僕が空を見上げるとそびえ立つビル群はまるで天に刺さる光線のように、窓ガラスが太陽の光を受け、乱反射を繰り返している。


今の時刻は何時だろうか。


そう思ったあと、それは知る必要のないことだと僕は頭を振る。

そういった心配は、今必要ない。


この世界には僕しかいないのだから。










異変が起こったのはついさっきのことだ。

いや、原因を追い求めたとき、おそらくさっきというのは適当ではないだろう。

しかし、世界が消えたのは、いつものように地下鉄を使って、通学をしていたその時間だ。

地下鉄の頭をガンガン打ちつけるような音を子守歌にしながら、TOEICの単語帳を片手にうとうとしていると、ふと吐き気があった。

吐き気というのは片頭痛持ちの僕にとって、定期的に起こるものだった。


「あぁ、神様からの勉強ばかりするなという忠告だな。」僕は都合のよい解釈をして、今日の授業を出ないことに決めた。


僕はどこかの公園で、時間をつぶし、学校は午後からにすることにした。


「あれ?」僕は不意に立ちくらみに襲われた。次に立ちくらみが収まると同時に世界の色合いが変わった。


人の気配を感じない。新宿のホームで降りて、最初に感じた感想である。

目の前には多くの人が狭い階段に向けて一斉にパニックのように押し寄せている。

しかしそれは景色であり、通勤ラッシュのそれには見えなかった。








「さて、どうしたものか。」僕は新宿の大きな横断歩道を横切った後、あたりをふらふらと見まわし、地方の特産品を売っている店の前のベンチに腰掛けた。こんな独り言をつぶやきながらも僕は自分が全く焦っていないのを不思議に感じていた。世界に人がいない。いや、より正確に言うならば、世界に人気を感じない、だろうか。目の前を通り過ぎたOLも、遠くでにぎやかに集まっている観光客もすべては人ではなかった。なぜだろうか。


僕は、と考える。東京へは一時間ほどで通える距離の関東圏で生まれ育った。中学まで野球をやっていたが、高校では帰宅部になった。辞めた理由というのは特にない。強いて言うならば、続ける理由がなかったからだ。高校ではクラスの奴らと他愛のない青春を送り、なんとなく勉強して、なんとなく大学に進学したのだ。東京の大学を選んだのも、なんとなく大学生というのは東京にいるような気がしたからだ。また親もある程度の大学に進めば、しばらくは文句は言ってこないと踏んでいた。


そのような回想にふけっていると僕は世界に色が戻ってくるような感覚を覚えた。



「あ、帰ってきたな。」僕はそうつぶやく。正直な話、大学に入学してからこのような感覚はよくあるものだった。そういう時は、座って、決まって過去に思いを馳せるのだ。




高校時代はこのようなことはなかった。校則が、親が、世間が、僕を縛っていたからだろう。縛られているということはその間は面倒を見てもらえるということだ。

しかし、大学に入ると、僕を縛っていた鎖はすべて、解かれてしまった。今までずっと縛られてきた鳥は鎖が外れても飛ぶ術を知らない。


人は縛られている状態が案外一番心地よいのかもしれないな。僕はそうつぶやき、自分はどうだろうか。自分も社会の鎖に縛られたいだろうかと自問自答しながら、新宿を後にする。

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