学問:技術証明
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「いやぁ、やっぱ瑛の母さんツンデレって奴じゃねえの?たまにいい顔するよなあ」
「どうして僕が知らない母さんの顔を知ってるのか教えてもらおうか」
「ほら、言うじゃん?早起きすっといいことあるんだって」
「いいこと=母さんのいい顔っていう式を作るのをやめてくれ」
僕らの通う学校、通称、弊風高校はマンションから徒歩10分。
近いからと理由付けて通ってはいるが、他に理由のつけるところのない平凡そのものの高校である。
もちろん、数年前から導入されている「技術証明教育」は入っているの
だが。
「そーいえば、今日プロテクの日?あーめんどくせ、俺あれ苦手なんだよなあ」
「なんで?いっつもいい点とってるじゃん。カリキュラムも違うだろ、僕は今日ないし」
「えー、なんでだよ、お前んとこのカリキュラムどうなってんの!?」
「普通。お前がプロテク主要カリキュラムだからだよ」
うがー、と唸って空を仰ぐ勇実の横を小学生が三人、駆けていく。
通勤通学ラッシュから少し早いこの時間は、小学生が多い。
今時の小学生はこんなに早く行くものなのか、なんて思ったが。
学問:「技術証明」。
学生らにはプロテクティストの愛称で呼ばれている、科目の一つである。
ほんの数年前から実施されているこの科目はまるで小学校の英語科目のようにすんなりと受け入れられ
た。
当時、多くの高校生たちが歓喜し驚愕した内容の教育である。
また、ある意味明確な差をつけるための大人たちの『開発』の賜物だったのかもしれない。
「お前はプロテク、あんましないの?抜き打ちテストとかない訳?」
「…少なくともしてもあんまり芳しい結果も出ないクラスだからね。一応ペーパーテストとか」
「はぁあ!?俺実技ばっかなのに!へっとへとになるまでやらされんのにー!」
「実技はあるっちゃあるよ、先生が迅神先生だから地獄」
「あ、俺疾湍せんせ。どっちもどっちじゃんな」
そうだよ、と呆れたように僕が言うと、勇実はごめんごめんと笑った。
あいつの鞄には何が入ってるんだろうか、ぺちゃんこで何の厚みもない鞄を肩から下げている。
丁度丘に差し掛かった。
丘の上にただずむ弊風高校は概にわやわやとした喧騒に包まれていて、若干僕はげんなりする。
勇実は1-A、僕は1-Dだから勇実は知らないのだが、僕のクラスはそれはもう問題児組なのだ。
ちなみに1年はDクラスまでしかないので、察することのできる人は察することが出来るはず。
どんなクラス分けが行われたか?
もちろん形だけの入試と、プロテクティストの点数である。
プロテクティスト教育は高校からなので、実際は身体検査と偽っての認証だと入学してから
教わった。
あっさり言いすぎて逆に嘘を言われていたことを気付かなかったほどだった。
「あー、もう学校だ。んじゃ瑛、また放課後一緒帰ろうな!」
「…え?あ、あぁ。勇実、Dクラスまで来れる?」
「もち!そんじゃあな!」
気づけばもう校門だった。
勇実は手をひらひら振りながら下駄箱へと消えていった。
学校ではクラスが遠いのであまり接点はない_______勇実はそう思っている。
僕からすれば勇実の姿は飽き飽きするほど見ているのだが。
何でかって?言いたくない。
あっちは普通だと思っているのだ、それが。
僕があいつを模範例の一環としてみること。
あいつが僕をステージの上から見下ろすことを。