中編 御可哀相な殿下(笑)
「か弱い侍女を苛めて、何をしていらっしゃるの兄上様?」
仁王立ちのシェイラ姫。
やだ、かっこいい、胸がときめいちゃう!
「・・・シェイラ姉様・・・
お兄様、動かないわ・・・」
フレイ様がつついても微動だにしない、皇太子殿下。
あらら、妹の言葉は衝撃すぎたのですね・・・心中お察しします。
目頭を押さえ、出てもいない涙をぬぐう。
「あらそう。
頭と手は無事かしら、リリー先生。」
えっ、それは他はどうでもいいということでしょうか、シェイラ姫・・・
ひどい・・・
「せっかく、お父様から即売会を離宮で行ってもいいと許可をもぎ取ったのですから、
ネタを考える頭と書く手を怪我しただなんてなっていたら・・・」
呆然と座り込んでいる皇太子殿下を冷たい目で見下ろす妹君。
「っって、えぇぇ!!?
それは本当ですか、シェイラ姫様!!
ついに、公式即売会を!!
もう、城の使用人の休憩フロアの物置でコソコソ売り買いしなくてもいいんですね!
り、離宮とは一体どちらの?
王都の外れの「春の離宮」でしょうか。
いいえ、そんなのは我侭ですね。テレーズ湖のほとりに建つ「夏の離宮」ですか。
大丈夫です。皆で辻馬車に忍んで向かいます!」
馬車に揺られて半刻ほどなら、夏と冬の祭典に地方から通ったことを考えれば楽勝です!
ひっろい場所で皆でわいわい語り合い、あんなやこんなの夢あるお話が手に入るとあらば、半日とか交代とかで休みを貰って参加しますとも、同僚たちも。
こういうときは協力しあうものです。
「何を言っているの?
「冬の離宮」に決まっているでしょう?」
ふふんと笑うシェイラ姫。
めっちゃ似合います。
フレイ姫様もこれくらいになれば、例え悪役であろうと『一人ホラゲー』なんて名前をつけられることもなかってでしょうに・・・・
って、そんなこと考えてる場合じゃない。
えっ
シェイラ姫様、本気ですか?
これって夢じゃないの?
『冬の離宮』って、王宮のすぐ隣にある外国の大使を招いての舞踏会とかする用の、でっかいホールがある建物じゃないですか!!?
夏と冬の祭典・・・できちゃう?やっちゃう?
やっちゃえぇぇぇぇ!!!
やばいです。
私の中の天使と悪魔が仲良く手を繋いで、ルンルンで近づいてきます。
「へ、陛下がそれを許可してくださったのですか・・・・」
「わたくしがお願いしましたもの。
それに、今やわたくしたちの同志がどれだけいると思って?」
「ど、どれだけいるんだ…」
あら、皇太子殿下の正気が戻りましたね。
ゆっくり立ち上がる殿下の顔は引きつり青褪めていらっしゃる。
いや。
私の方を見られても。
私も今どれだけの同志がいるかなんて把握してませんよ。
ただ、最近書き手が増えてウハウハだということしか知りません。
「まぁ、知ってどうするおつもりですの」
「止めさせるに決まっているだろう!!」
あらら。
部屋の空気が凍りつきました。
「まぁ。兄上様はそのように横暴で狭量で愚鈍なる方だなんて、わたくし・・・
存じ上げませんでしたわ。
そのような兄上様が父上様の後を継いで、この皇国の玉座にお座りになるなんて・・・
どうか兄上様。
光の民の為にも、寛大な御心と知性を御鍛えになって下さいな」
ひゅー
ブリザードです。
とある星座ものの戦闘漫画の、とある師弟の必殺技みたい・・・
「シェイラ!!」
「に、兄様、落ち着いてください」
激昂しかけた殿下ですが、さすがに妹がしがみ付いて上目遣いの涙目で止めに入ったら、怒りも抑えることが出来たようです。
さすがです、フレイ姫様。
「フレイ。お前は止めてくれるな。このようなこと・・・」
「ご、ごめんなさい。お兄様。
今度の即売会はどうしても開催しないといけないの。
だって・・・
光の精霊王様の『僕と貴方の、密やかな・・・』の新作が出るのです。
しかも、手ずからお売りになるって。
ファンとしてサインを頂きたいの。
だから・・・
どうかお兄様、邪魔をしないで下さい。」
あっ今度こそ死んだ、かも・・・・
「そ・・・光の精霊王様・・・
このようなものに、精霊王様を登場させているというのか!!!
なんと不敬な。
光の加護を受ける皇族とて許されることではないぞ!!」
あっ、殿下勘違いしてます。
いや、あまりのことで処理しきれずに、そう思い込みたいのかも・・・
あぁ、御可哀想な皇太子殿下(笑)
「殿下、殿下。
違いますよ?
光の精霊王様を登場させているんじゃなくて、
光の精霊王様が書いたお話です。
『人×闇』本でなかなか人気があるんですよ?」
あぁ、安心してください。
闇の精霊王の許可は取ってあります。
っていうか、闇の配下の方も買いにきますから完全に公認ですよ?
真っ白に燃え尽きた皇太子殿下。
その兄君をほったらかしにして、妹君たちは即売会の計画を熱心に立てておられます。
・・・・・・平和ですね。
光の精霊王様は女性です。