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前編  言い訳をさせて下さい。

「君はいったい何をしてくれたのかな?」



ちょ

痛い

痛いですって、皇太子殿下ぁ


止めてください

頭つかまないで

力加えないで


知ってるんてすよ、あなたウルの実(食すにはハンマーが必要。美味)握力だけで粉砕したことあるじゃないですか!?

私の頭もウルの実みたいにするつもりですか!?




乙女ゲームに転生トリップするのがはやっていた昨今、

私も乙女ゲームの中に入っちゃったことに気づいたのは王女の侍女として配属された時でした。

乙女ゲーム『貴方はだれ?』

精霊王が人々の信仰を集め、治める世界で、人外の攻略対象たちとの恋愛を繰り広げながら邪精霊や魔物、魔王を倒していく。そんな有り触れたストーリーながら、人外のキャラたちの個性と姿で、耽美スキーからモフモフ愛まで幅広い萌女子の心を掴み、オタクと有名な総監督の奥さんが口出ししまくってこだわり抜いた故のばっちりな豪華な声優陣で声フェチどもを射抜いたそれは抜群な人気を誇っていた。

大学時代からの親友の勧めで始めた私も、ばっちりはまりました。

そりゃあ、もう。夏と冬のお祭りにがっつり参加するくらいに。

もともと、メインストーリーとかよりも脇キャラとか、まぁそのぉ・・・キャラ同士の絡み(妄想の産物)が大好物だった私は、がっつりと攻略対象以外にホーリンラブ!!

久々に筆が動きましたとも。

サイトをめぐる為だけにパソコンを新調しました。

そんな私だからこそ、第三王女の部屋へと案内してくれている侍女長の姿に「ん?」と思い、

道すがら擦れ違う騎士様や侍従に「・・・何処かで・・・あれ?」と感じ、

そして案内された薄暗い部屋の中、寝台にもぐりこんだままの姿でこちらに目を向けてきた第三王女の姿に声にも顔にも出さないようプロ根性を発揮した内心で「ほわぁぁぁぇあ」と叫んだのでした。


「お初にお目にかかります。

 本日より殿下にお仕えさせて頂きます、リリーナと申します。

 よろしくお願い申し上げます。」


そう鉄壁の笑顔を作って挨拶をかました私に帰ってきたのは

「そう」

たった一言、ささやくように小さな声で返して寝台に全身を潜らせた王女殿下でした。とさ?


あぁ、そうだった。


攻略キャラの一人、ヒロインの祖国ヴァルト王国の第三王子(騎士)の婚約者として登場するこの方は、根暗、陰気、不気味、ついたあだ名は「一人ホラゲー」だったわ。


光の精霊王の加護を得るトゥルネソル皇国は皇家のみならず平民に到るまで生命力に溢れていることで有名。にも関わらず、その筆頭たる皇家の第三王女でありながら、他国より嫁いだ母・第一側妃の黒髪を受け継ぎ、長く垂らされた前髪から除く目元には常に隈が浮かび、着ているのは真っ黒なドレスが常。声優は海の向こうのホラー映画の吹き替えで一躍有名になった人が懇親の演技で挑み、ライバルキャラとしてヒロインに仕掛けることも、通常のライバルキャラみたいな苛烈な嫌がらせとか耳たこな嫌味なパターンじゃなくて、ジワジワ、ネチネチ、チマチマ、しかも執拗、諦めない、な感じでまんまホラーゲーム。

公式攻略本によると、金髪がデフォルトの皇家で唯一の黒髪(生母とは生まれてすぐに死別)で気が弱かった王女は周囲の使用人や貴族たち、他国の人から心無い言葉とかを投げかけられながら育った。そのせいで暗い性格になって外にも出たがらなくなった。忙しい皇王や兄姉たちは滅多に会えない。ただ、婚約者であるヴァルトの第三王子アズラートは頻繁に会いにきてくれた上に彼女に優しく接してくれた。アズラートはエルフを母に持つハーフエルフ。実力はあるが、人間からもエルフからも遠巻きにされて育った彼には王女の気持ちがよく分かったらしい。ゲームの後半で、親友である王女の兄、皇国皇太子との会話で言っていた。

引きこもりの彼女が城はおろか国を出て、王子を追って天空の島の学園に入ってしまう程に、アズラートに執着をもつようになった。

そんな彼女からアズラート様を奪おうとするヒロインを、彼女と、彼女の傍にいる光の精霊たちは許さなかった。

最初はチマチマとした嫌がらせだった。

筆箱隠すとか、靴を隠すとか、大事な実習中に光を目にいれるとか・・・

可愛い妹のように思っている親友の妹と思っていたアズラートが気づき、極秘に対処していた。

中盤に差し掛かると、彼女が母親から受け継いでいた魔術で操った魔物や光の中位精霊・上位精霊が襲ってくる程度で成長しているヒロインには難なく対処できるもの。ただし、回数と出現する場所やタイミングが地味に打撃を与えてくる。

そして、終盤には邪精霊に取り込まれてしまい、最終局面で中ボスとして現れることになる。

邪精霊に、化け物に作りかえられてしまう場面はグッときたのよね。


『アズラート様が傍にいてくれないなら、もうどうなったっていいもの』


初めて、前髪があがって可愛らしい顔を露にして涙を流す姿。


実は好きなキャラでした。


だから、思ったのです。

姫様を、そんな運命を歩ませないと。


脱・一人ホラー!!





「で、それがこれと言うのか、貴様は!!」





前世やらゲームやらの話を抜きにして

このままの性格では姫様が駄目になってしまう

とか

明るくなっていただきたい

とか

言って説明し終わった私の前に立つ皇太子様の額には青筋が浮かび、その足元に数冊の薄い冊子が投げ捨てられる。

とっとも見覚えがあるものです。

えぇ、半分は私が手がけたものですから・・・

でも・・・


「あぁ、なんて酷いことをなさるんです、皇太子殿下」


急いで冊子たちを拾い上げる。

私の手がけたもの以外に投げ捨てられたのは、今や城内のメイドたちのみならば城下町の夢見る乙女たちにも人気で、第一人者とされ尊敬されている(テレッ)私でさえ手に入れることが出来ないほどの書き手のものです。

いけませんわ、皇太子殿下。

メイドたちの恨みを買うのは、殿下といえど命とりになります。


「酷いだと。

 それは、こちらの言葉だ。

 なんで、俺がアズラートに・・・お・・・押し倒されねばならんのだ!!」

「えっー、今一番人気のカップリングなのにぃ」

「あぁん?」


おっと、一押しカプを貶されて

つい口が滑ってしまいました。


殿下。

それ以上は血管切れますよ?


「なんだ、これは」


どうやら、怒りも通り越して冷静になったみたいですね。


元々、麗しく儚げな王子様として女子の人気を掻っ攫っていた方です。

粗野な言葉は似合わない、似合わない。

でも、素はこれなのよね。もったいない。


「えっっと・・・

 今人気の、

 皇太子殿下×魔術師長が三冊

 アズラート殿下×皇太子殿下が三冊に、

 諜報部隊長×近衛騎士長が二冊、

 執事長×コック長 一冊

 コック長×新人コック 一冊

 となりますね。

 しかも、人気の書き手のものばかり・・・

 どうやって手に入れたのですか、殿下?どうか、ルートを教えていただけませんか?

 特に、このアルデーロ婦人の諜報部隊長×近衛騎士長の『お仕置きだね』は即日完売で

 私も目にかかることも出来なかったものです。

 というか、譲ってください!」


はぁはぁ

あぁ駄目よ。

淑女たるもの、殿方、しかも殿下の前で鼻息荒くするなんて・・・

でも、見たい~!!

青い紙に書かれた題名と著者名だけで興奮が止まりません。

ここに、イラストがついたのなら倒れることは必然です。

イラストは普及させ始めたばかり。

そして、まだまだ小説しかないけど、いつか漫画も普及させてみせる。

えいえい、おー


「黙れ。

 ・・・これはシェイラのところで見つけたものだ。」


まぁ、シェイラ王女殿下ですか。

使用人たちの中に流行らせた。エッヘン。とは思っていましたが、ついに皇族にまで普及していたなんて・・・これで、公式即売会を開く夢に一歩近づきましたね。

今は、闇即売会しか出来ていない状態。それも少し手狭になりつつありましたし・・・


シェイラ王女殿下は、私の仕える第三王女フレイ様の姉上、第二王女です。

すでに他国に嫁がれた第一王女がいない今、社交界の若い女性の中心にあられる方。

これは、大流行の兆しです。グフフフ


「あれの侍女に問い詰めたところ、お前が仕切っているらしいな・・・

  

 なぁ、不敬罪って知っているか?」


まぁ!


「そんな。

 私はそんなつもりはありません。

 これはただ、私の個人的な趣味だっただけです。


 ただ・・・・」


「ただ?」


「あれは、ある木枯らしが吹き始めたころ・・・







フレイ姫に侍女として仕え始めた私でしたが、基本部屋どころか寝台からも出たがらない姫様に困った私は侍女長にどうしたら言いか尋ねました。

そうすると、部屋の中にいてレース編みとかしてれば?という答えが返ってきたのです。

レース編みといえば、貴婦人の趣味の代表格。

ですが、私はそちらの才能はとんとございません。

ましてや、姫様の前で見せるなんてとんでもないと母親にぶん殴られるレベルです。

なので、姫様にご迷惑をかけないよう静かで、あまり動くことなくできる趣味、

つまり書きものをしていればいいのでは、と思った次第なのです。



えっ

王子様がそんな大阪人みたいなツッコミを・・・


オオサカジン?


あっ、いいえ。気になさらずに・・・






そして、その日はついうっかりしていたのです。

つい熱中していて、暖炉の火を落としてしまったのです。

これでは姫様に風邪を引かせてしまうと考えた私は慌てて火を取りにいきました。

申し訳ないことに、私は火の魔術が使えなくて・・・


火を持って帰ってきた私は衝撃を受けました。


慌てていたせいで、机の上に置いたままにしてしまった秘密ノートを夢中で読んでいらっしゃる姫様がいらっしゃったのです。

私は感激のあまり声をあげてしまいました。

姫様が

姫様が寝台を出ていらっしゃる姿を初めて見たのです。

しかも、私の創作した小説をご覧になっていらっしゃるのです。


姫様は、あの姫様が私の顔をまっすぐに見て仰られました。

「これは何?

 兄様とアルフ様は恋仲なの?」

と。



えぇ、そうです。

アルフ様は、皇太子殿下の学友の公爵令息のアルフレッド様のことです。

あの頃は、殿下×アルフ様で創作していたのです。


そして、私は思いました。

興味をもっていただけたのなら、外に出ていただけるようになると。

だって、基本的に観察することが創作の第一歩ですもの。

相手を知らなくては、カップリングも作れませんもの。


予想は的中いたしました。


だから、ほら。

姫様、積極的にお散歩に出られるようになられましたでしょ、殿下?」


にっこり笑ってみせたのに、殿下は見てはくださいません。


皇太子殿下ともあろう方が、Orzのポーズですか。

あらあら

殿下受に目覚めそうです。

殿下は攻派なのに・・・

ちなみに、城内は殿下受派が主流です。

私って、昔から少数派ばかりなんですよね。



「唯一の誤算は、姫様から同僚の侍女たちにまで創作活動が流行してしまったことです。

 まさか、こんなに人気になるなんて・・・」


世の中どうなるか分かりませんね。

でも発信源は私なのに、やっぱり少数派に追いやられてしまうなんて・・・

おかげで闇即売会でも肩身が狭いのです。

あぁですが、シェイラ殿下が私作の皇太子殿下×魔術師長を持っていたということは・・・


「ふ、ふふふふ」


「で・・・殿下?」


ひっ

怖いです。

睨まないでくださいよ。


「こんな汚らわしいものは、あってはならん」

「えっ、何を・・・」


魔術の才能がほとんど無い私ですけど、今まさに皇太子殿下に力が集まっているのは感じれます。


「光の精霊たちよ。

 この、悪の書を浄化せよ!!!」


ちょぉぉぉぉ

止めて

駄目ぇ






「愚行はおよしになって、兄上様!!



 じゃないと、兄上様の陵辱監禁ハラボテダブルピース本作らせましてよ!!」




ドバターン


と部屋の扉を開け放った件のシェイラ王女殿下。

ちょーっと大きな、部屋中に響き渡る叫びには、さすがの私も、怒りに我を忘れている皇太子殿下も頭が真っ白になってしまいました。


殿下は、生母を同じくする実妹の、半分は意味が分からないまでも何となく察したその言葉の内容に・・・

私は、自分が始めた妄想活動がもうそんな時点にまで辿り着いてしまったのかという、ほんの少し残った良心による心苦しさに・・・



「さっさと、わたくしたちの宝物たちをお返しくださいな」

   傷一つついていたら、許しませんわよ。



あら。


仁王立ちするシェイラ王女殿下の背後に、私の主であるフレイ姫様の姿がみえます。


ヒロインが風の精霊王になる乙女ゲームの内容を考えていたら思いついたので・・・

やっぱ説明役は転生トリップの子じゃないと。

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