いつもの
「気をつけ、礼」
「ありがとうございました」
「がーえーん!明日休みだし今日どっかいかね?」
「わりぃ、外せない用事が……」
「あー、そっか。今日からだっけ?」
「いや、明日から。明日になった瞬間」
「なるほどなるほどー。頑張ってねー」
「ありがと。また誘ってくれ!」
「らじゃーっ」
教室の中で笑顔で手を振り俺を送り出す"全"に、後ろ手に返しながら、俺は廊下を走るのも構わず、家へと向かった。
佐藤 外苑。男。15歳。私立共学校の一年生。あだ名は"臥煙"。趣味はこれと言って特にないが、今現在はゲームにハマっている。そう、ゲームだ。
VRMMORPG「ヴァールハイト・シュピール」。通称「WS」今世に出ているVRMMORPGの中で、唯一の完全無料型ゲーム。それなのに他ゲームに機能の面で劣るところがないのだから、一番人気を獲得するといのも当たり前である。ストーリーは個々の趣味があるから何とも言えないが、俺はとても好きだ。
「ただいまー!」
リビングのソファーの上に荷物を放り投げると、二階への階段をバタバタと駆け上がった。そのまま自分の部屋に飛び込み、机の上に置いてある機械を手慣れた手つきで頭に装着する。
「ヴィルクリヒカイト」。そう呼ばれるこの機械が、VRMMOをプレイする、いわゆるゲーム機である。カセットは存在せず、データを機械に直接ダウンロードする形式をとる。取り込み方は簡単。店頭でもネット上でも、購入したゲームデータのシリアルコードを、この機械に入力するだけだ。
「ーーアンファング」
ゲーム開始の合図。これと共に、俺の意識は途絶えた。