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第5話

お久しぶりです。

久しぶりすぎて会話、その他書き方が少し不安です・・・

「そろそろいいかな?」


 俺たちはその場で話を聞こうと思ったのだが、女の子のお腹がかわいらしく主張していたので、ぶつかった女の子を連れて近くのカフェテラスへと来ていた。

 その女の子の前には温かい飲み物の入ったカップとサンドウィッチが2つ、俺たちの前には紅茶のカップがそれぞれ置かれている。ちなみにこのサンドウィッチは2皿目である。1皿目は来て早々女の子の胃袋の中へとしまわれている。


「友達がいなくなったって言ってたけど。どういうことか詳しく説明して貰えるかな?」


 相手が小さな女の子と言うこともあり、俺たちは基本的にメリシェンに会話の全てを任せることにした。ただし会話の相手が決まったのは、異性の俺では怖がらせる可能性があり、同じ理由で外見が男性に見えなくもないシガレットが除外され、アスカは彼女の言葉遣いがきついこともあり、チユだと話を聞きだすのが大変そうだと言う消去法の結果だったりする。

 もしかしたらチユでも大丈夫なのかもしれないが、話がややこしくなりそうな気がするので俺はその考えを胸にしまっておいた。


 メリシェンが女の子と根気よく会話を続けたことで、徐々にではあるが女の子と友達に何があったのか教えてもらうことができた。


 ぽつぽつと女の子が語った要領を得ない話をまとめると、彼女は裏通りのかなり奥の方にある空き地で父親や同じような(たぶん貧しい)人たちと暮らしていたそうだ。その辺りは大通りから遠いと言うこともあり、買い手があまりつきにくいので彼女の家族のような土地を買うことができない人々が、空き地に布などで簡単な家を作って暮らしているらしい。


 そして、その空き地にはアルという年の近い男の子も住んでいるらしく、よく一緒に遊んでいたそうだ。そんな彼が3日前から姿を消してしまったということだ。

 周りの大人たちもそれなりに心配はしていたのだが、彼らもそれほど余裕がある暮らしをしているわけではないので、アルを探そうと思ってもまず自分の仕事探しが第一のようで、この子のようにアルを探すために町の中を見て回る人はいなかった。


 なので彼女はこの2日間自分1人だけで、アルを探し回っていたのだそうだ。


「話はわかった。だが、すでに3日も経っているなら最悪・・・」


 シガレットはそこで言葉を区切る。女の子が再び泣きそうな顔をしていたからだ。流石にそれ以上は口にせずにため息だけが口からこぼれる。


「それに私たちに頼むよりも、町を見回っているはずの兵士たちにでも頼んで欲しいものだぜ」


 今度はアスカがそう少女に伝える。少女は目にたまった涙を留めることができずに流しながら、見回りの兵士たちは頼んでも自分たちのような人の問題は対処してくれないと言う。もともと不法に町の中に住んでいるようなものなので、事件が起きても彼ら浮浪者に対応してくれる兵士はほぼいないのだろう。


「それに、私たちは報酬なしの慈善事業をするつもりはない」


 アスカはきっぱりと言い切る。少女の願いは聞けないとはっきりと告げたのだ。


 俺は流石に可哀想ではないかと思ったので、一度くらい一緒に探して上げてもいいのでは?とアスカを引っ張って聞いてみた。しかし彼女は、いや彼女たちは、一度手伝ってしまえば情が沸かないとも言えないないから、結局のところ無償で最後まで手伝ってしまうという。それに彼女も他人に甘えることを覚えてしまうのは彼女の生活的によくないので、無償で受けることはお互いのためにならない。


「だから無償の手伝いはしないほうがいい」


 そう彼女たちは言うのだった。


 その言葉に対して、俺はどこか納得することができなかった。だからだろうか、俺とアスカの会話がだんだんと険悪な雰囲気になっていく。女の子はそれを見て余計に泣いてしまうし、他の3人も俺たちの様子に戸惑っているがとりあえず落ち着かせようとする。しかし俺たちは止まらない。


「うちの娘が迷惑をかけてしまったようで・・・申し訳ない」


 もう少しで口論になろうとしていた俺たちに、男がそう声をかけてきたのだ。そちらを見ると、使い古したボロボロの服をまとった赤毛の男がそこにはいた。


「あなたは?」


「この子。ミルリカというんですがね、この子の父親ですよ」


 そう言って泣いていた女の子、ミルリカの頭に手を置き軽くなでる。彼女は椅子に座ったまま男性の胸に抱きつく。そのまましばらく撫でられていた彼女はようやく泣き止んだようだ。


 ミルリカが泣き止んでから赤毛の男は自己紹介を始める。


「俺の名前はジルっていいます。昔はそれなりに名が売れていたんですが、今じゃこんな状態なんで名乗るのも恥ずかしいものがありますがね」


 そういって赤毛の男、ジルは自分の鼻を掻く。確かに彼の見た目は有名人だとは言い難いものがある。そもそもどうして有名人が浮浪者のような生活をしているのだろうか?


「・・・どうしてこんな生活になっているのか、そう疑問に思っていそうですね」


 彼は俺たち全員の顔を見渡してから、1つ頷くと


「それじゃあ少しだけ、娘が迷惑をかけたお礼に私の昔話でも聞いていってください」


 そういって彼は話し出した。


 元々彼は孤児だったそうで、物心がついたときには自分1人だけだったそうだ。自分の親の顔も知らないらしい。そんな彼は今と同じように、いや今よりももっと酷い乞食のような生活だったらしい。そんな生活を送っていたある日、偶然にも奴隷を扱っている商人に拾われたそうなのだ。

 もちろん向こうからすればタダで品物を手に入れただけなのかもしれない。だが彼からすれば食事を毎日出してもらえて、寝る場所まで用意される奴隷と言う身分はそれだけでもありがたかったそうだ。


 奴隷といってもこの国でいう奴隷とは強制労働者と言う意味ではなく、王都にあるコロッセオで戦う者たちのことを言うらしい。そこで使う剣や槍は刃は潰されているが、それでも運が悪ければ死んでしまうことがあるとても危険な物だったと彼はいう。そのコロッセオで、子供だった彼は殺されないように必死に逃げ回りながら、相手の隙を突いては少しずつ怪我を負わせて生き延びていったそうだ。


 そうやって何年も奴隷として戦い続けていた彼が、どうして今こうしてコロッセオの外で暮らせているのかと言うと、コロッセオでは毎年1人だけ、お金を貰ってコロッセオの外で暮らすことが出来るようになるらしい。その条件はたった2つしかなく、その1年でもっとも勝利を収めた回数が多い者であり、死んでいないことだった。


 ジルは奴隷として生活して十数年が経ったある年に、その条件を満たして金貨10枚と言う大量のお金を受け取ってコロッセオの外へと出てきたらしい。


 それからは旅人として町から町へと旅をしながら、立ち寄った町で日雇いの仕事を探して細々と暮らしていたらしいのだが。ちょっとした問題を犯してしまい、今のような生活を強いられているのだと最後の方の話はボカしてだが話してくれた。


「とまぁ、こういった経緯で今の俺がここにいるわけだ」


 なんというか、すごい人生を歩んでいる人だった。まるで英雄譚に出てくる人物のような人生を歩んでいっていると思ったら、いきなり再びどん底まで落ちていくのだから・・・


「あれ?でもそれならミルリカとはどういった関係なんですか?」


 先程の話の中で、ミルリカの話は何も出なかった。普通なら奥さんの話しでもしそうなのだが?


「実は・・・ミルリカは孤児だったんですよ。俺は親代わりに育ててるんです」


 そういってミルリカの頭を抱き寄せるジルの表情は、まさに父親と言った風に見える。ミルリカも嫌がっている様子は見えないので、それなりにいい親子の関係が結べているみたいだ。


「それじゃあもしかして、アルって子も?」


「いいえ、アルはちゃんと親と一緒に暮らしていましたよ。ただ、やっぱり俺たちと同じようにちゃんとした家に住んでいる訳ではありませんでしたがね」


 彼はアルについて教えてくれる。どうやらアルは母親と2人で暮らしていたそうだ。ただし、その母親も今はアルと一緒に行方不明らしいが・・・


「俺たちみたいなのは、国としてもあまり関わりたくないみたいでしてね。何か問題が起きても自分たちで解決しないといけないんですよ。だから、この話は聞かなかったことにしてください。その方がそちらもお偉いさんに目をつけられなくていい」


「でも!」


「娘によくしてくれた恩人が不幸になる所は、あんまり見たいものじゃないんですよ?だからできるだけ俺たちみたいな人間には関わらないでください」


 ジルは俺をまっすぐに見ながらそう告げる。俺は・・・


「それでも俺たちみたいな人間が気になるっていうのなら、町で大きな店を構えている商人とはあまり親しくならないほうがいい。このことを頭に入れておいてください。そこのエリックって商人だってそうです。気をつけたほうがいい、あんな雰囲気ですがいろいろと危ないこともやっているやつなんですから。」


「・・・え?」


 俺の頭がその言葉を理解するのに多少の時間が必要だった。アスカたちもそれは同じだった様で、かなり驚いている。


「エリック、彼はなかなかいい人物に見えますが、裏では色々やっているって噂ですよ。自分の店の利益の為に他所より安く買い叩くのも当たり前だとか。今回のことだって違法奴隷としてアルと母親は売られたのかもしれない」


 違法奴隷。後で聞いたのだが、要は強制労働者のこと。その労働が何か、は手に入れた人物によって違う。体を求められることもあれば、意味もなく痛めつけられることもある。そういった、人として扱われない者たちを違法奴隷というのだそうだ。


 俺らが驚いている間にもジルは話を続けた。だが先ほど彼と会っている俺たちには、ジルがいっているエリックと言う商人が同一の人物には思えなかった。


「別に、俺の言葉を信じなくても結構ですよ。そういう噂もあると覚えておいてくださればそれで。・・・・・・それでは俺たちはこれで。また会わないことを祈っていますよ」


 そろそろ行くぞ、とミルリカの手を引きながらジルが俺たちから離れていく。手を引かれたミルリカは、もう片方の手にサンドウィッチを持ちながら「ご飯ありがとう!」と笑顔で手を振っていた。


 俺たちはただ、その様子を椅子に座ったまま見ていることしかできなかった。


 しばらくは座ったままだった俺たちだが、すっかり冷めてしまったお茶を飲むことにする。頭の中には先ほどのジルの言葉が残っているからか、誰も会話をしようとしない。

 俺もお茶を飲み終えるまで一言も発することはなかった。町の中だというのに、俺の耳には俺たちがお茶を飲む音とカップを置く音だけがよく響いていた。


「それで?キョウスケとアスカは何であんな事になったの?」


 お茶も飲み終わって暇になったのだろう、だらしなくテーブルに体を預けたチユがこちらに顔だけを向けてそう尋ねてきた。お茶が入っていたカップはいつの間にかテーブルの上にある彼女の頭から、少しは離れたところ置いてある。


「・・・あんなことって?」


 しばらく何のことか考えたのだが、特に思いあたらなかったのでそう聞き返すことにした。


「喧嘩になりそうだったでしょ?どうして2人とも喧嘩しそうになったのかなって思ってさ~」


 この町に来るまでは仲が悪そうにも見えなかったのに不思議だよ?と言われてしまった。確かに何であんなに反応してしまったのだろうか?


 赤の他人とはいえ相手が幼い子供だったから何かしてあげたかった?いや、別に俺は子供だからといって何かしてあげないといけないとは思ったことはなかった。できることならやってあげるが、難しいことはやらない。そんな感じだったと思う。

 じゃあ人がいなくなったから?これも違うだろう。ニュースで行方不明の人間がいるからといわれて、じゃあ探しにいくかといえばそんなことはしない。歩いていてたまたまその顔を見かけたら声をかけるかもしれないが、自分から探しに動こうとは思わない。


 いったい何故だろうか?そう思ってアスカの方を見る。彼女も俺と同じように理由を考えていたのだろうか、ほぼ同時にお互いの方を見てしまったから、テーブルを挟んで見詰め合う形になってしまった。

 その結果、お互いに顔を赤くして他所を向いてしまう。頭に血が上ってしまったのか頬に熱がある。横目で確認すると、アスカはこちらを見ようとはせずに頭をゴシゴシと掻いていた。その様子をメリシェンやチユにからかわれて今度は体ごと別の方向を向いてしまった。


 気づかないうちに口元が緩んでいた。アスカたちがしている仲のいい友人同士のやり取りというものを見ていると、俺も高校では周りから見ればトモカや他のやつらとあんな感じだったのだろうか、とそう思ったのだ。まだこの世界に来て半月も経っていないのに、ずいぶん昔のことのように思えてしまう。


 そう昔のことを考えていてふと思い当たる。さっきの言い合いで俺が感じていたのは、ミルリカに対して何かしたかったということではなくて、彼女たちがミルリカに対して何もしないということに対して怒りを覚えていたのかもしれないと。


 1つでも気づければそこからはすらすらと考えが出てくる。


 あの日、俺を熊から助けてくれたのは彼女たちだ。そして、右も左もわからない俺をここまで連れてきてくれたのも彼女たち。コビリアまで一緒に来ることになったのは依頼としてだったが、断ろうと思えばできたのに俺の願いを聞いて快く(か判らないが)引き受けてくれた。

 そんな彼女たちだったから、俺はミルリカも助けてくれると思ったのだ。俺はアスカたちに対して、自分の都合の良いイメージを勝手に持っていたのかもしれない。しかし実際にはそのイメージと違う、ミルリカの願いを聞くことはなく、彼女を助けるつもりはないとアスカは言ったのだ。そんな行動をとる彼女たちに俺は怒り覚えたのだろう。


 なんて自分勝手な行動だったんだろうか・・・


 アスカとの言い合いでは気づかなかったが、今思い返してみるとかなり自分勝手だ。俺は彼女たちを真っ直ぐに見ることができない。俺はうつむきながら


「・・・さっきはすまなかった」


 そうテーブルに両方の手をつけながら頭を下げて謝ることしかできなかった。


「・・・まぁ、その・・・なんだ。とりあえずは、顔を上げてくれないか?」


 しばらくの間そうやって頭を下げていると、シガレットがそう困ったように言ってきた。俺は伏せていた顔を上げて彼女たちを見る。


 声と同じように、何で謝られているのかわからない。そういった風に見える。


「さっきの言い合いは、俺が全面的に悪かった!俺の勝手なイメージをアスカたちに押し付けそうになったんだ。だからすまない!」


 そういってもう一度頭を下げる。


「・・・いや、私も悪かった。すまない」


 そうアスカも俺に謝ってくる。それだけではなく、メリシェンもシガレットもチユでさえ謝ってくる。


「え?」


 俺は顔を上げてそう返すことしかできなかった。何故彼女たちが謝っているのか、俺にはわからなかったからだ。特に言い争ったわけでもないメリシェンたちが謝ってきたことがわからない。


「お前はミルリカの願いを聞いても手伝ってあげようとしない私たちに怒りを覚えたのだろう?あの言い方じゃあそう思われても仕方がないと、そう思ったからな」


「私たちは別に彼女の願い事を聞かないわけではないのですよ?そこだけはわかってください」


「・・・え?え?だってさっき無償の頼みごとは聞けないって?」


「えぇ。確かに無償で引き受けることはできません。ですが、私たちが個人的に探さないとは言っていませんよね?」


 そういうことです。と指を立てながら俺にメリシェンが説明をしてくれた。つまり彼女たちは、ミルリカの願い事は聞いてあげるが、依頼としては引き受けない。そういいたいのだろう。ややこしいというか


「なら俺にも説明してくれてもいいのに・・・」


「そこはさ~、『俺がお金を出すから引き受けてくれないか?』とか言ってくるのかな?なんて思ってたんだよね。私たちは」


 チユに指摘されてから初めてそのことに気づいた。別に俺がお金を出せば無償じゃないじゃないか、と。お金に関しても、たぶんだが後1ヶ月ほどしかないなら確実に余るほどのお金を持っているのだ。彼女たちに依頼をしてもお金は十分に残るというのに気づかなかった・・・。


 いや。ニシシと手で口元を押さえて笑っているチユの雰囲気から、例えそう言ったとしても同じように断られていた気がする。


「それに別にお金を支払ってもらわなくてもさ、さっきもらった金額が護衛の依頼金よりも多かったんだし、私としては気にしないのに~」


「私もだ。どうやって差分を返そうかと考えていたぐらいだからな。行方不明の家族探しぐらい手伝っても何の問題もないさ」


「私も最初から探してあげるつもりでしたし。アスカもよね?」


「私は本当に無償は嫌なんだ。・・・でもみんながやるんだろ?それなのに手伝わないなんて嫌なやつにもなりたくないから、仕方なく、そう仕方なく!私は手伝うんだ」


 メリシェンはそっぽを向きながらそう答えたアスカをずっと微笑みながら見ている。アスカが居心地が悪そうに「そ、そろそろ場所を移そうぜ」といって席を立つ。

 どうするのかと思って周りを見たのだが、シガレットが「町中でこれからのことを話すのもよくないからな。一度宿に戻ろうか」ということで、全員席を立ち宿へと戻ることにする。


 アスカにも聞こえていたのだろう。彼女は町の中心の方へと1人先に向かっている。ここへ来るときと同じ道を通って戻るのだろう。


 宿へ戻ってきた俺たちは、4人部屋のほうに集まる。ベッドは入り口とは反対側の左右に2段ベッドが置かれている。入り口近くには机とイスがそれぞれ2つずつ置かれていた。


 俺はそのイスを1つ引っ張ってきてベッドとベッドの間に座る。アスカとメリシェンが左側、シガレットとチユが右側のベッドの1段目に腰掛けている。


「それじゃあ、これからどうするのかを話し合おうか」


 俺がイスに座ったのを見たシガレットがそういってみんなを見渡す。俺たちはシガレットにうなずくことで返事を返す。


「まず1つ目、アルを探すか探さないかについてだ。・・・まぁこれはさっき決まった事だからどう探すかだな」


「は~い、2人と3人のチームで分かれて探せばいいと思うよ!」


「まてまて、先に何を話し合うか確認しよう。みんなもそれでいいか?」


 シガレットは隣で手を上げて発言をしたチユを宥めながらそう俺たちに告げる。俺は1つずつ決めていってもいいと思ったのだが、メリシェンが言うには先にどんなことを決めないといけないかの確認も必要だから、ということらしい。


 まぁ確かにそれは必要だろうな。TRPGだって情報は1つ1つ抜き出して考えるんだから、話し合いではその情報の確認をし合うことで方針を決めることもあった。


 今回のアル探しをすることで別のことに問題が出る可能性はある・・・のか?わからない。それにアル探し以外に何かすることってあったかな?


「次はエリック商会について調べるかどうか。これが2つ目だな」


「調べる必要なんてあるのか?アル探しをしていればあのおっさんの言っていたことが本当だったかどうかなんてわかるだろ?」


「ジルさんの言っていたことが本当かどうかはわかりませんが、関わっているかも知れません。なので一応は調べるべきだと思いますよ?」


「3つ目いくぞ。3つ目は期限だ。ずっと探し続けるわけにもいかないからな」


 見つけるまで探してあげたい、そうは思うが俺はまだやることが残っている。いや、早く見つければ関係ないんだ。・・・そう自分に言い聞かせる。


「後は何かあるか?この町でやることは特になかったから思いつかないが・・・。あぁそういえばラクティールへ行く予定の馬車がないか調べる必要があったか」


「それ以外は特に思いつかないですね」


「私もだ」「私も~」「・・・俺も、特にはないな」


「それじゃあ、まず1つ目から順に決めていこう」


「私とシガレット。メリシェンとアスカは一緒でいいよね~」


「そうすると、後はキョウスケをどうするかだけだな」


「シガレットは馬車の予定とかを聞きに行くつもりなんだろ?ならそっちの方がいいんじゃないか?」


「別に聞くだけなら、そのまま伝えれば良いからなぁ。キョウスケはどうする?」


「俺は・・・」


 シガレットと一緒に行けば、馬車の料金やどれくらいの日程かということがわかるだろう。ただその辺はシガレットが全部確認してくれそうな気もする。つまり俺がついていっても、ついていかなくても後でわかることだ。それなら少しでも人探しをしたほうが気持ち的にだいぶいい気がする。

 焦って頭がうまく動かないかもしれないしな。


「俺はアスカたちと一緒に動くよ。頭に入りきらないかもしれないしさ」


「そうか。わかった」


「馬車の料金や出発の日とかの情報はシガレットに任せるよ」


「あぁ。任せてくれ」


「じゃあ次は、エリック商会か・・・。なぁほんとに必要なのか?」


「そんなに嫌なら私たちの方でこっちもやるよ?どうせどっかの商会の馬車について行くことになるでしょ。そのついでに聞いてみるよ」


「いいのかなぁ?そっちのチームばかりいろいろ調べることになって・・・」


「かまわないだろ。チユもこう言っていることだし、それに町の中を歩き回るのもそれはそれで大変だぞ?」


「そうなのか?」


「あ~・・・まぁこいつがスリに会わないようにこっちで見張ってるさ」


「あぁ・・・そういう大変もあるのか・・・」


「それ以外にも男1に女2だからな。よからぬ輩も出てくるかもしれないな」


「そういうのが出てきても一緒さ。私が相手をしてやる」


「・・・まぁアスカなら大丈夫だな。2人を頼むよ」


「任せとけって。メリシェンには指一本触れさせない」


「俺は守らないって言ってるようなもんだよな・・・それ」


 俺がため息をはくとみんなが笑う。それに釣られて俺も笑う。・・・先ほどまでは焦っていたんだろうな。笑ったことで肩の力が抜けたみたいだ。


「それじゃあ最後に期日を決めましょうか。といってもこれは馬車の出発予定の前の日ってことにすればいいのかしら?」


「私もそれぐらいでいいと思う」


「他のみんなは?」


「かまわない」「おっけ~」「・・・」


「キョウスケ?」


「あぁ、それでかまわないさ」


「そう?もう少し延ばしてもいいのよ?」


「いやずるずると延ばしてしまいそうだから、そのままでお願いします」


 とりあえず話し合うことはこれで終わった。そろそろ日も落ちてきているので今日は捜索はしないということに。本当はしたいのだが、あくまで自分たちの安全を優先するということになった。

 明日以降も夕方には宿に戻ってきて、夕食を宿で食べて夜は探さないで、翌日の朝に朝食をとってから再び捜索をするということに決まった。


 アスカに「さすがに夜中に2人を守りながら探すのは無理だ」といわれてしまったのだ。


 こういうときに、自分にできることが何もないというのは辛いと初めて知った・・・。


 もし俺に、アスカのような強さがあれば、町の治安など気にすることもなく捜索ができるのに。


 人が増える前に1階へと下りて夕食を食べる。基本的に何時でも食事はできるらしいが、深夜まではやっていないそうだ。部屋へと戻る前に今日のお風呂の時間を確認する。


 どうやら今は女性用らしいので、男性用の時間になったときに呼びにきてもらえるように頼む。


 アスカたちはこれから4人でお風呂に入るそうだ。俺は部屋に入ってから明日以降のことを考えることにする。


 といっても明日どこを探そうと考えても、この町について何も知らないので裏道を中心に探そう。そう考えることしかできない。・・・この町の地図があればいいのだが。


「そうだ地図だ。もしかしたらここに町の地図って置いてあるんじゃ!」


 さっそく宿屋の店主に町の地図がないか聞いてみることにしたのだが、地図は町と町の位置関係や山や川がどの程度広がっているのかを記した物が出回っている程度で、町の中や村の中を細かく書いた地図は店主でも見たことがないのだそうだ。


 仕方がないので地図を見ることは諦めることにする。地図がないのは残念だったが、代わりメモ書きに使える用紙やペンなどを売っているお店の位置を教えてもらった。思ったよりも近くに庶民向けの雑貨屋があるそうで、今から行っても店が閉まる前に買い物ができるだろうと教えてくれた。俺は店主にお礼を言ってそこに行ってみることにする。


 アスカたちを待ってからでもよかったのかも知れないが、そうすると店が開いている間に行けるかわからないので1人で行くことにしたのだ。


 店は宿屋の近くの小道を入った大通りから1つ裏の通りにあるそうだ。店主に聞いた道順を思い出しながら、自分の家に帰っているのだろう仕事帰りの大人たちや、手をつないでいる母親と息子と思しき人たちと一緒に裏道へ入っていく。


 裏道の幅は3メートルほどだが、車などが走っていない道ではそれでも十分な広さがあったのだが、今は人通りが多いためか少し狭く感じる。


「・・・あ!?」


 周囲を確認しながら、俺は一つ大切なことを思い出す。俺の上げた声に反応して、近くにいた人たちがこちらを向くが、そんなことを気にしている余裕は無い。なぜなら俺、いや俺たちは『アルと母親の姿』を知らないのだから、このままでは探すことができないという事実に気づいてしまったのだ。


 いまさら気づいてもどうしようもないが、探すと決めたのだからまずは見かけなかったかどうかの情報収集が最初の行動になるのだろう。彼女たちが何も言わなかったということは、向こうはそのつもりでいたのだろうし、彼女たちの前で気づかなくてよかったと思うことにする。


 そうと決まればまずは紙とペンの買出しだ。お金には余裕があるので、多少高値でも大きなものが欲しいところだ。


 教えられた雑貨屋まで来たのだが、そこは木でできた普通の一軒家だった。ただ店の入り口の上に羽ペンとインクビンのようなマークの看板がついているので、たぶん雑貨のお店のマークなのだろう。


 扉のドアノブを回してみると普通に開いた。


「・・・ごめんください」


 扉を押し開けながら俺は中へと入っていく。お店の中はコップに入った大量の羽やインクビンなどの細々とした物から、木でできたお皿やコップなどの少し大きめのものなどいろいろな物が棚の上に並べられていた。


「いらっしゃい。何か欲しいのかい?」


 店の奥の方にあるカウンターから恰幅の良い女性がそう声をかけてきた。服の上からエプロンをしている姿は、ここがお店でなければただの料理途中の主婦にしか見えない。自分で探してもいいのだが俺は彼女に紙やペンの位置を教えてもらうことにする。


「おばさん。紙とペンが欲しいんだけど何所に置いてありあるの?」


「紙とペンね。ペンはそこからも見えるだろう。紙のほうはその裏側だから。好きなのを選ぶといいよ」


 言われた場所を見てみると確かにこちら側からは見えない位置に紙が置いてあった。ペンはさっき見えたコップに入った羽が全て羽ペンだったようで、いつも使っていたボールペンのようなインクが内臓されたものは置いていない。


「おばさん。ペンってここに出ているので全部?」


「そうだよ?ペンなんて、あんまり買う人もいないからね。そのコップに入ってるので全部さ」


 彼女が言うには、どうやら店の商品は全て並んでいる物だけなのだそうだ。ペンは適当に羽が綺麗な物を選んで紙の置いてある棚を見てみる。紙も繊維が目立つザラザラとした使いにくそうな植物性の物と、何かの動物の皮でできた少し肉厚の紙しか置いていない。


 書きやすそうなのは動物の皮の方だが、大きいものを買おうと思うと植物性の物のほうが大きいものがある。ただ持ち歩いて書くには植物性の物は破れそうで怖いのが悩みどころだ。


 結局俺は書きやすそうな動物の皮でできた物を買うことにする。その中でも一番大きなサイズ(だいたい650ミリ×1000ミリといったところ)を手に取った。羽ペン用のインクを持っていないのでそちらも手にとって見る。見たところ色は全て同じようなので、それなりに大きなサイズのビンを1つだけとる。


 後は定規の変わりになるものが無いか探してみたのだが、どうやら置いていないようだ。


「何か他にもいるのかい?」


 キョロキョロと周囲を見ていたからか、店主がそう聞いてきた。俺は長さを測る道具は何かないか聞いてみたのだが、どうやらそんなものはないらしい。建築などは10メートルほどの紐を使って作業をするらしいので、そういった紐ならばあるといわれたが、さすがにそれは使いにくそうなので遠慮した。


 何か代わりになりそうな物が無いかと探していると、店の隅のほうに木材が置かれている場所があった。そこに薄い2メートルほどの長さの木の板が置いてあったので、それを買うことにした。ナイフが確か袋の中にあったので、自分で定規に近い大きさに加工すれば良いと思ったからだ。


「まいど。またきなよ!」


 店を出た俺はすぐに宿屋へと戻る。すっかり遅くなってしまい、町の中が暗くなり始めていたからだ。来た道を戻る途中もほとんど人とすれ違うことはなかった。


 町の中でも夜は危ない。


 そんな言葉が俺の頭をよぎった。


 幸いなことに、特に問題も起こらずに宿屋まで戻ることができた。・・・のだが


「ずいぶん遅かったな」


 というシガレットたち4人が、すごく良い笑顔で宿屋では待っていたのだった。

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