失われたもの
「・・・ね・・・ぇ、ねぇってば!起きてくださいな!」
「・・・・・・え?」
そっと目を開けると、目の前には知らない人が立っていた。ゆったりとしたウェーブのかかった金髪をなびかせて、こちらをのぞきこんでいた。
「あ、れ・・・?ここは?」
「下界ですの。無事につきました」
ウィオールははっとして起き上がった。そこには―――。
「おぉ・・・」
全然知らない世界が広がっていた。緑豊かな世界に広がる町並み。少しだけウィオールたちの故郷に似ている風景だ。さわやかな風が吹き付けてくる。
「ここは・・・」
「聞いていませんの?クラウトゥール。それがこの世界の名前ですわ」
「え・・・?」
そっと隣を見つめてみた。そこにいたのはさっきの金髪の少女。
「君は・・・?」
「わたくしはエウリーサ。姉がお世話になっておりますわ」
「姉・・・?」
ウィオールは首をかしげた。
「リオレイサのことでしょ?目の色が同じだ」
「ユイル・・・」
背後を振り返ってみると、寝転んだ姿勢のままユイルが言った。改めてみてみると、確かにリオレイサとエウリーサの目の色が同じだった。
「姉妹、なのか・・・?」
「えぇ。言いましたでしょう?わたくしはこの世界の人間だと」
「あぁ、言われた気がする」
ちょっとばかし昔の記憶を辿ってみると、確かにそんな事を言われた。
「ここが、クラウトゥール」
「えぇ・・・。あなたがたは天上世界の人間でしょう?珍しいですわね、普通にそちらからいらっしゃるなんて」
「あぁ、ちょっとした人探しだ」
「人、探し・・・?」
その言葉にエウリーサが反応したのがわかった。
「あの、その方の名前は・・・?」
「ユフィ。ユフィアだ。知らないか?」
その名前を口にした途端、エウリーサの表情が一変した。驚いているような、それでいてどこか喜んでいる。そう言った表情だった。
「エウリーサ?」
「あ、あの!でしたら――――」
「エウリーサ・・・ッ?」
突如聞こえた声に、エウリーサがはっとした。少しだけ青ざめた表情を後ろに向ける。その時に、はっきりと見えた。口調も何もかもが変わっているが、間違いない。エウリーサが背後を向いたとき、全員がその背後に立っていた少女の姿を捉えた。その瞬間、息が止まった。
そこに立っていたのは、艶やかな黒髪を持った美しい少女。少しだけ怯えたその表情をこちらに向ける。が、それでも瞳の置くには強い意志がこもっていた。
「あなたたち、誰!?そこで、何をしているの・・・っ?」
一方的に現れたこちらを警戒しているのか、少しだけ引っ込んだ口調だった。が、そんな言葉をかけられたこちらは・・・言葉を発することができなかった。明らかな敵意を感じるその相手。
―――紛れも無い、ユフィだったから。
「誰!?エウリーサに何かしたの!?」
「違いますわ、ユア!そんなんじゃないんですの!」
「ユ、ア・・・?」
エウリーサはちょっと戸惑ってから、ユアと呼んだ少女と何かを話し出す。少女は納得のいかない様子だったが、しばらくしてこちらに踵を返した。
「あ、ちょ・・・っ!」
「お待ちになって!」
叫んだのはエウリーサだった。その声に驚いた間にも、少女の姿は遠ざかっていく。そんな背を3人は呆然と見つめていた。
「あ、あの・・・詳しい事を、ご説明いたしますわ。・・・一緒に、村へ来てください」
エウリーサの言葉も、なかなか耳に入ってこなかった。ただ―――。
―――あなたたち、誰!?
少女に・・・ユフィにそういわれたことが、ショックすぎた。
「突然のことで、驚かれていると思われます・・・心中、お察しいたしますわ」
目の前に座っているエウリーサが眉を下げていった。対談しているウィオールとユイルは下を向いたままだ。
「エウリーサ・・・あいつは、誰だ?」
「・・・ユフィアです。きっと・・・あなた方が探していらっしゃる方だと」
「じゃあ・・・じゃあ何で、ユフィがあんな態度取るんだよ・・・っ?」
そこが信じられなかった。3人は幼馴染で、仲が良くて、2人はユフィが――――。
「ユフィが、何で俺たちにあんな態度取るんだよ・・・まるで、忘れちまったみたいに・・・」
「見たい、ではないのです・・・」
「え・・・?」
やっと言葉に反応したユイルが顔を上げた。エウリーサはそっと目を伏せて、衝撃の事実を告白した。
「ユア・・・ユフィアは今、記憶がなくなっているんですの・・・」