いなくなった幼なじみ
目の前が真っ白になる。思考が停止する。その意味を、これほどまでに改めて知ったことはなかった。信じられない。今完全に聞き間違えた。
「すまない、リオレイサ。今・・・何かを聞き間違えたようなんだが・・・」
「・・・・・・」
ウィオールの言葉に、リオレイサは答えない。それが・・・すべての事を肯定付けた。
「意味、わかんねぇ・・・。本気で言ってるのか?」
「・・・・・・わたくしだって、信じたいわけではありません・・・っ」
リオレイサはそっと視線を落とした。落とす前の視線は、完全に揺らいでいた。
「・・・リオレイサ、もう少し詳しく聞きたいんだけど、いいかな?」
「・・・はい」
「ユフィが、いなくなったと認識されたのはいつ?」
「2年前です。ユフィア様は、この町の復興のために、何日もこちらに滞在し、ここの復興を手伝ってくださいましたの」
リオレイサはそっと、過去の事を話し始めた。
「ユフィア様が来てくださったことで、この町にも新たに活気が溢れていたんです。ユフィア様も懸命に働いてくださって、やっと町が元に戻ってきたと・・・思うようになったんですの」
リオレイサは当時の事を思い出したのか、少しだけ遠い目をしていた。
「そんな、ある日のことでした。突然ユフィア様が、出かけなければならないとおっしゃったんですの。別に咎める権利もありませんし、ユフィア様のご自由でしょう?快くお見送りいたしました。また返って来るとおっしゃったんですけど・・・その日以来、ユフィア様がお帰りになられることは、一度も無かったんですの」
「そのあとから?1度も?」
「はい。もしかしたら、ユフィア様の親族の方がお亡くなりになられたとか・・・とても深刻な何かがあったのかもしれないと、そう思ったこともありました。でも・・・それから何日、何週間たっても、ユフィア様がお戻りになられることはなかったんですの」
ウィオールとユイルは顔を見合わせた。その真実が、信じられなくて。
「さすがにおかしいと思ったんですの。無断で、独断でユフィア様が・・・。そう思って、失礼ながら、ユフィア様の故郷のほうへ行ってみましたの。しかし・・・そこにユフィア様の姿は無くて・・・ユフィア様が帰ったことも、無かったそうなんですの」
「・・・故郷の町にも帰ってない、か・・・」
ユフィの故郷はウィオールたちの故郷でもある。何かあったらそこに行くと思っていたのに・・・。
「それからほどなくして、世界各地を散策しました・・・。でも、ユフィア様は・・・・どこにもいらっしゃらなくて・・・」
「それで、行方不明か・・・」
「それが・・・2年前ですから」
リオレイサの言葉に、改めてことの重大さを知った。この話が約2年前の話。だとすれば、ユフィはこの2年間。一体どこで何をしているのだろうという話だ。決定的に言えば・・・どこにいるかわからない、だ。
「あれ以来、この町の活気も少し悪くなりました・・・。ユフィア様が帰って来られたときのために、ここまでがんばって待ちの人たちでなんとかしてきましたが・・・さすがに、先導してくださる方がいらっしゃらないのは、少しだけきついらしくて・・・」
「そうか・・・」
「あの、あなた方は・・・ユフィア様をご存知なのですか?」
「・・・あぁ、幼馴染だ」
ウィオールがそう答えた途端に、リオレイサははっとした顔になる。
「まさか・・・あなたがたは・・・オルメスの!?」
「元、だよ。確かに俺たちはオルメスの人間だ」
「・・・それで、ユフィア様をお探しに?」
リオレイサの言葉に、ユイルがやんわりを首を振った。
「俺たちは、ここにユフィがいるんじゃないかと思って会いに来ただけなんだ。ユフィがいなくなっただなんて思わなかったし、ましてや・・・2年前から行方不明だ何て・・・」
「・・・申し訳ありませんの。こちらだって、もっと気を配って差し上げることもできましたのに・・・」
リオレイサはとても、悔しそうに言う。がばっと顔を上げて必死に訴えた。
「ですが、ユフィア様は勝手にいなくなる方ではありませんわっ!きっと、きっと・・・何か理由が―――」
「わかってるよ」
リオレイサがふと、言葉を止めた。ユイルは、微笑んでいった。
「ユフィが勝手にいなくなるようなやつじゃないことは、俺たちが良く知ってる。大丈夫。そんなに必死にならなくても、ちゃんとわかってるよ」
「ユイル様・・・」
「俺たちでも、探してみるか?丁度旅も終盤だ」
「本当ですかっ!?」
途端に、リオレイサの表情が明るくなった。リオレイサの表情を見ていればわかる。きっと、この町の人が同じような態度、表情を取ったことだろう。みんな、ユフィをそれだけ信頼しているのだ。
「ありがとう、リオレイサ。そこまでユフィのこと心配してくれて」
「あ、当たり前ですわっ!ユフィア様は・・・わたくしたちを、救ってくださった方ですもの」
リオレイサは優しく微笑んだ。
「ユフィア様の歌声が、わたくしたちを救ってくださったんですの。本当に、お綺麗で・・・。だから、わたくしたちも頑張ろうって、思えたんですもの・・・」
「・・・わかるよ、その気持ち。ユフィの歌はそれだけ綺麗だったもんね」
ユイルが微笑むと、リオレイサが途端に頬を赤らめた。
「や、やだ!わたくしとしたことが・・・っ。飛んだ失礼を・・・」
「いいんじゃないの?そうやって思ってること、口にするのは大事だから」
「・・・はい」
リオレイサは微笑んだ。ウィオールはユイルと顔を見合わせた。
「じゃ、俺たちは行くよ。いろいろありがとう、リオレイサ」
「はい。わたくしこそ、お役に立てて光栄です・・・。あ、そういえば・・・」
「どうした?」
「ユフィア様、確か北の方へいかれましたわ。あちらが故郷の方角でしょう?」
「そうか・・・ありがとう」
ここから北―――確かに、先にはウィオールたちの故郷がある。
「はい。・・・行ってらっしゃいませ。旅のご健闘をお祈りしております」
リオレイサはシスターらしく、そっと祈りをささげた。その祈りを背に、2人は北へと向かった。
「さて、大変なことになってきた・・・」
ユフィが行方不明。前代未聞の出来事だ。
「北に来たのはいいけど、ユフィ・・・町には帰ってないんだよね?じゃあ町からここまででどこかに言ったってことだろう?」
「あぁ、そういうことになるだろうな?」
「・・・ここで、ルートを外す理由がどこにあるんだろう?」
ユイルはあたりを見回した。何も無い、ただの高原が続いているだけのこの場所。道に迷っても、簡単に抜けられる場所のはずなのに。
「でも・・・そう考えて、導き出される答えは1つだよね?」
「あぁ。ユフィは・・・自分の意思でどこかにルートを外して、そのまま姿を消したことになる」
「あるいは、誰かの故意か、だね・・・」
導き出された簡潔な結論は、ユフィが自らどこかへ行ったか、あるいは誰かに連れ去れたかのどちらかになるだろう。が―――。
「でも、誰かに連れ去られたっていうのは・・・ないんじゃないかな?」
「どうして?」
「だって・・・攫う相手ってユフィでしょ?ユフィがそう簡単につかまるとも思えないし、つかまっても何とかするでしょ?」
「・・・確かに」
ユフィにはそれだけの力があるはずだ。『ロゼの支配者』。ユフィはそう呼ばれていた。この世界を作り上げたロゼッタの末裔の人間はそう呼ばれ、ユフィにはその血が流れている。普通の人間ではなかなかできない事を、ユフィは簡単にやってのけた人間だ。そう簡単につかまって、2年間も脱出できないなんてことは考えられない。
「それに、そう考えたら妙だし」
「妙?」
「あぁ、ユフィが見つからなさ過ぎている」
ユイルの言葉にウィオールは怪訝そうな子をする。一体どういう意味―――。
「わからない?ユフィは、この世界にとってどんな存在?」
「まぁ、英雄に入るよな?」
「そんな人間が2年も行方不明なのに・・・この世界の人間たちが黙ってると思う?」
その言葉に、ウィオールははっとした。
「そうか・・・」
「どこかで、って言うのは妥当じゃないかもしれない。でも・・・わかっているのは、ユフィが行方不明だって言うことは、ごくわずかな人間しか知らないってことだ。ユフィの行方不明を公に出さない理由は、なんだってことさ」
「それに、誘拐でもされてるんだったら総力をあげて探し出すだろうからな」
ユフィを誘拐して、この世界の人間が黙っているわけが無い。この世界を救った英雄を、力ずくでも取り戻すことだろう。だとすれば、誘拐のせんはなくなった。それにユフィがいなくなってもう2年がたとうとしているのに・・・なぜこの世界の人間はユフィを探し出すような素振りを見せないのか。噂などでも広がっていれば、旅をしていたウィオールとユイルの耳に入らないことはまずありえない。だとすれば残っているのは1つ―――。
「ユフィが何かを見つけたかして・・・ふらっとどっかいったってことか?」
「それが妥当じゃないかって話」
ユイルは肩をすくめた。
「あの破天荒な姫様だからね・・・。どこに行ったと思う?」
「さぁな。検討もつかねぇ」
「だよねぇ・・・」
ユフィの行きそうな場所・・・。と思って考え浮く場所は少ないのだが・・・。
「でも、おかしいな・・・。この世界のどこかにいれば・・・必ず誰かの目に留まるはずなのに・・・」
「あぁ・・・。誰にも見つからず2年間行方不明ってのは・・・ちょっと考えにくいな」
「どこかに身を潜めてるとしても、そうやってる間に誰か見つけるはずだ」
そういって2人は頭を抱えた。ここまで完全に否定しかしていない。こんなことで検討が着くわけがない。
「さて、困ったことになったぜ・・・」
「探すのはいいとして・・・どこから探せばいいかすら、わからないんだからな・・・」
「手がかりが1つもないっていうのは・・・ちょっとまずいよね?」
ユイルの言葉にウィオールは小さくうなずいた。
「・・・どうしたものかな・・・」
空を見上げてどうにかなるわけではないが・・・見上げずにはいられない。どうやってユフィを探せばいいのだろう。
「一体どこに行ったんだよ・・・ユフィ」
出口の見えないユフィ捜索に、ため息が漏れた。