訪れた異変
「・・・あちぃ・・・」
「つべこべ言ってる暇があったら、歩いてくれない?」
少し先を歩いていた薄紫の髪の青年が振り返る。その先には、立ち止まって空をうんざりと見上げている青年。
「なぁ、まだ町には着かないのか?ユイル」
「もう少しだって言ってるだろ、ウィル?頑張って歩いてくれよ」
ユイルは逆にうんざりした表情をウィル―――ウィオールに向けた。
「・・・わかったよ」
「頑張って。この先に行けば会えるかもしれないんだから」
ユイルはにっこりと微笑む。ウィオールがユイルの隣まで歩いてきたのを確かめて、2人はまた歩き出す。2年前から2人で旅を始めた。次の町には、ある特別な理由をもっていく。
「さすがに2年越しだと、大分印象も変わっているかもしれないね」
「それは思った」
「・・・元気にしてるかな、ユフィ」
「あいつなら、どこでも元気でやってそうだけどな」
そういってウィオールは微笑んだ。ユフィの本名はユフィア・ポアローゼ。ウィオールとユイルとは幼馴染で2年前に別れてから一切会っていない。ウィオールとユイルが旅をする間、ユフィはかつての世界の敵であったクロウの侵略地であった、この先の町の復興を手伝っているはずだった。そのユフィに、会いに行くのだ。
「お、見えてきたぜ!」
ウィオールが楽しそうに言う。町がどんどんと近づいてくると同時、少しだけ早くなる鼓動。その鼓動を抑えながら町に近づいていったものの、その鼓動は、一瞬にして終わりを告げることとなる。
「・・・・・なぁ」
「あぁ、わかってる」
ウィオールは、ある異変を感じていた。それはユイルも感じ取っていたらしく、2人は息を潜めて話す。
「・・・あの町、何であんなに活気が無い?」
「あぁ、不思議だと思った」
活気が無いだなんて、そんなのどこで間そうだ。言おうと思えばどこでだって言える。ましてやこの町はかつてクロウに侵略されていたのだ。今さら大盛り上がりしていたら、少しだけ目を疑うかもしれない。が、言いたいのはそういうことではない。
「おかしいよね。ユフィがいるはずなのに、何であんなに活気が無いんだろう」
そう。問題視するところはそこだった。ユフィは、いわばあの町の先導者だ。復興を手伝う立場と言えど、ユフィには前科がある。あの町だけではない。ユフィはこの世界を救った英雄なのだ。天上の歌声を持つ者。その歌声がこの世界を救った。ユフィの歌で、この世界の結界は完全体となり、クロウの侵略などへでもないほどの世界となった。そんなユフィを、知らない人間などいない。ユフィのその功績も、この世界の全国民が知っているはずだった。なのに―――。
「ユフィがいて、こんなに町が活気付かないなんてありえない」
「あぁ、何かがおかしいぞ」
不穏な空気を、2人は感じ取った。が・・・自己解釈をしてもはじまらないことはわかっていた。だからこそ、進むのだ。
「とにかく町に行こうぜ。話はそれからだ」
ウィオールの言葉に、ユイルは黙ってうなずいた。
町の中も、聊か活気はなかった。町はまだ壊れている部分もあり、せっせと働く人が目に取れた。皆がみな必死に働いている。笑顔がないわけではないが、なんだろう・・・。何かが物足りないような、そんな様子が見て取れた。
「ここに、いるのか?」
それが不思議でたまらなかった。ユフィがいて、町がこんなに寂しそうにする理由がどこにあるあろう。
「どうしよう・・・この人たち忙しそうだけど・・・聞いていいものか・・・」
「ましてや、こんな一般人に聞いてもいいのか、だな」
「逆に、変に不安を煽る質問かもしれないってことか・・・」
ユイルはため息を漏らした。どうやら、簡単にそのかしこにいる人に聞くわけには行かなさそうだ。
「そういえば、この先に教会があったよな?」
「・・・そこに行こうか」
ユイルの提案にウィオールはうなずき、町の奥にある教会を目指して再び歩き出した。
教会はすぐに見えた。大きな扉を開け放つと、奥に1人の女性が座っているのが見えた。こちらには気がついていないようで、必死に何かを祈っている様子だった。声をかけるのはまずいのだろうか・・・。そう思った矢先、ふっと息を漏らす声が聞こえてきた。
「いいんですよ?お入りになって」
「・・・わかっていたんですか?」
「はい。なんとなくですが」
女性はこちらを振り返って微笑んだ。ウィオールたちは言葉に甘えて中へ入る。女性は自分の胸に手をあて、小さく礼をした。
「わたくしの名はリオレイサと申します。一応、ここのシスターですの。一般の方がいらっしゃるのは、久しぶりなんですのよ」
「そうなんですか」
「あの、1つ聞きたいことがあるんですけど・・・」
ユイルが少しだけ聞きづらそうに言う。
「はい。なんでしょう?」
「・・・この町に、ユフィアと言う人がいたはずですけど・・・?」
その言葉に、リオレイサの表情が一瞬で曇ったのは明白だった。
「・・・何かあったんですね?リオレイサ」
「・・・・・・」
リオレイサは決まり悪そうに視線を外した。
「・・・確かに、ユフィア様はこの町の復興を手伝ってくださいました。でも・・・」
「でも?」
「・・・でも、あるとき突然・・・姿をお消しになられたんですの」
「・・・え?」
耳を、疑った。今・・・何と言った?リオレイサは外していた視線を戻し、寂しそうに言った。
「ユフィア様は、その・・・2年前から、行方不明・・・なんですの」