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たとえそれでも

翌日から、ユフィが前よりも明るくなった気がしたのは誰かの気のせいではなかった。理由を追求するつもりはないため、誰も何も言わなかった。ただ単にユフィが元気ならそれでよかった。


そんなある日のことだった。リオレイサとエウリーサが2人でどこかに行き、ユイルもちょっとばかし家を空けていたため、1人で暇な時間を過ごしているウィオールのもとに、明るい声が飛んできた。

「ねぇ、ウィオール!」

「ん?どうした?」

「あのさ、出かけたいの。一緒に行こう?」

「あぁ、いいぜ」

別に対してやることも無かったし、ユフィの護衛もしなければならないしで、ウィオールはそれを快く承諾した。

「どこに行くんだ?」

ウィオールの問いに、ユフィは微笑んだ。

「ちょっと遠くの花畑。エウリーサが教えてくれたの。すごく綺麗なのよ!」


ちょっとした山道を上がっていく。ユフィの足取りは軽やかで、とても楽しそうだった。

「・・・ねぇ、私の故郷のほうに花畑ってあったの?」

「・・・いいや、見たことないな」

そう答えると、ユフィは嬉しそうに微笑んだ。

「そっか・・・じゃあちょうどいいや!」

「ちょうどいい?」

「うん!ウィオールも見たことないってことでしょう?だったらちょうどいいじゃない!見て欲しかったんだ!」

ユフィはさっきよりも軽やかな足取りで少しだけ先を歩く。多少無邪気な部分が可愛らしかった。確かに、これといった花畑など見たことがない気がする。そういえば、ユフィは小さなころにオルメスへ行った。それを追いかけてユイルと訓練していたので、遊ぶ暇をも惜しんだ。だからこそ、これと言って遊んだことはない気がする。

(そう考えたら・・・こうやってユフィとどこかに、ってのは・・・久々だな)

思い返してみてそう思った。

「ウィオール?何してるの?」

「え・・・?」

はっとして前を見つめると、少し前でユフィが待っていた。いつの間にか思い出に浸っていたため、歩みが遅くなってしまったらしい。

「悪い、なんでもない」

そう返すと、先にいたユフィがウィオールの歩みを催促した。きっと花畑に着いたのだろうと思い、ユフィの隣に並んだその瞬間―――。

「おぉ・・・っ」

思わず言葉が漏れた。高い位置から眺める花畑。想像を絶していた。

「綺麗だな・・・何だあれ?」

一面に咲き誇る花たち。大きさも形もさまざまで、見たことのない花まで存在した。きっとこの世界特有の花なのだろう。

「すごいでしょ?こんな場所にこんなものがあるなんてね!」

ユフィはそういうなり、駆け出し、花畑の真ん中にダイブした。

「おいおい・・・」

「平気よ!ここの土、すごい柔らかいから痛くないの!」

仰向けになったユフィがそういって微笑んだ。確かに、踏みしめる土はとても柔らかかった。ウィオールはため息をついて、仰向けに寝転がったユフィの隣に腰掛けた。

「いつもこんな調子か?」

「うん・・・。でも、最近は来てなかったな。クロウのこととかもあって、ちょっと怖かったし・・・」

「言ってくれれば、いつでも来たぜ?それに、クロウがもしきても、俺が絶対守ってやるよ」

「ふふっ・・・。ウィオールって、やっぱりユイルと幼馴染なんだね」

「やっぱり?」

多少の引っ掛かりを覚えた言葉が聞こえた。ユフィは真っ青な空にそっと手を伸ばした。

「ユイルに言われたことがあるの。私が不安にならないように、俺が何とかするからって。ウィオールも今似たようなこと言ってくれた。本当、2人は似たもの同士で優しいね」

「なるほどな・・・で、ついでに聞くが、それいつだ?」

「ん~・・・。2日くらい前の夜かな?」

「ほほぅ・・・」

ウィオールは影で思った。あいつあとでぶっ飛ばす、と。

「でも・・・やっぱり2人は優しいよ」

「何で今さらそんなこと言うんだ?」

「だって、だってだよ?」

ユフィはがばっと起き上がった。突然のことに驚いたウィオールを差し置いて、ユフィはそのまま話し続ける。

「・・・前の私ってさ、どんな人だった?」

「ど、どんな?」

「そう。性格とか、趣味とか・・・。私って結局2人とどんな関係なの?」

ユフィはウィオールの瞳を見つめて言った。ウィオールは、少し考えて話し始めた。

「ユフィはな、俺とユイルと・・・幼馴染なんだ。俺たち3人は、幼馴染だ」

「そうだったんだ・・・」

「人一倍正義感が強くて、やりたいって決めたことはとことんやり続けるヤツだった。たとえどんなに自分がつらい目にあっても、必ず相手を思いやることを忘れない、そんな優しいやつだよ、お前は」

最初、過去形にした事を少しだけ後悔した。こんな事をいざ聞かれると、目の前にいる人がユフィである事を忘れかけてしまいそうになる。性格も、あの時とそこまで変わらない。それでも消えない違和感がある。それを押さえなかったとき、不思議と出てしまうのが過去形だ。『だった』それはほとんど禁句に等しい。目の前にいるのは、記憶が無くてもユフィなのだから。過去にはしたくない。

「そっか・・・。そんな風だったのか、私」

「記憶さえ戻れば、またきっと同じように戻れるさ」

「うん・・・。頑張るよ・・・」

ユフィは微笑む。多少無理をして。その理由が、わからないわけが無かった。

(やっぱり、不安・・・だよな)

記憶が亡くなったことがないから、一重にどうと言われるとわからない。でも・・・何よりも不安だろう。またきっと元に戻れる。それもまた・・・まだ現時点では、空想に過ぎない。それでも―――。

(そんな風に・・・)

弱々しく微笑まないで欲しい。確信はないけど、必ずどうにかするから。たとえ・・・例え記憶がなくたって――――。

「え―――?」

ユフィの漏らした声が、なぜか近くに聞こえた。そのわけは―――。



無意識のうちに、自分のそれをユフィのそれに重ねていた。




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