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一部文章を変更致しました。話の流れに変更はありません。
「う…うぅん……」
手放した意識が徐々に戻ってくる。私はどうしたんだろう。
卒業式が終わって家に帰って…それで…それでっっっ!!!?
「ゆ、夢オチっっ!!!???」
「なんだ?夢オチとは」
ガバっと布団から起き上がると、冷静なツッコミが返ってきた。
その声は両親とは違う声で、でも聞いたことのある声だった。
おそるおそる声のした方へ振り向くとそこには、気を失う直前みた顔と同じ整った顔が椅子に座って長い脚を組んでいた。
(夢じゃなかった……それにしてもすごくカッコいい人だな。脚も長いし、座ってるだけなのに絵になるなぁ…)
思考が明後日の方向へ向かいそうになったところで、自分の置かれた状況を思い出し、あわててかぶりを振って邪念を追い出す。
「どうした?」
そんな様子に彼は首をかしげ尋ねる。
は…恥ずかしい。絵になる人と、かたや自分は挙動不審でなおかつ寝起きだ。
そんなどうしようもない状況に恥ずかしさがこみ上げ逃げ出したくなった。
とりあえず手近にある掛けてあった布団をたぐりよせ恥ずかしさから顔を半分隠す。
目だけ出して、今の状況を尋ねてみる。
「あ、あのっ、気を失ってしまったみたいですみません。介抱していただいたみたいで…その、ありがとうございます。私、状況がまったくわからないんですが、よかったら教えていただけますか?」
緊張で声が震える。叫んだ上に気を失って介抱してもらって…これ以上迷惑はかけたくなかったが、そうもいっていられない。自分がなぜこんなところにいるか分からないが、きっと彼は知っているだろう。
父と母は私の結婚相手を『魔王様』と言った。そして気を失う直前、入ってきた人(?)たちも『魔王様』と言った。つまり彼が『約束した相手』なのだろう。それに、幼いころ見た記憶と一緒だ。
16年も昔なのに、なぜか今も昔と何一つかわらない同じままの姿とその顔は…
私の問いに彼は一瞬固まるが、私がそれをみて首をかしげると、スッと立ち上がり、そして…
「ルゥゥゥゥアアアアアア!!」
「いやあぁぁぁああああっ!!」
飛びかかってこられた。つい最近見た出来事で同じことがあった気がする。そんなことを一瞬頭の隅で思いつつ、その時と同じように右手を突き出していた。
「こんのっ!愚兄っっ!!」
スパーンと小気味のいい音が部屋に響きわたる。
彼は私の拳が届く手前で床につっぷしていた。頭には大きなタンコブができている。
私は殴らずにすんだ安堵感に息をつきつつ、咄嗟にでてしまった右手をみてあわてて布団のなかにしまった。
改めて目をやると、そこには見事な深紅の髪を靡かせ、胸元とスリットがざっくり開いた、髪色と同じ色のセクシーなドレスに身をつつんだ美女が立っていた。
…そして右手にはその容姿とは不釣り合いなハリセンを持っていた。
「すまないのぉ、兄が不敬を働いて」
彼女はそう言って私の方を向き申し訳なさそうにした。
厳密には働く前に叩き落とされたのだが。でも最初会った時も急に抱きしめられたな。と、思い出して顔が赤くなる。
「大丈夫か?顔が赤いようだが…もしや、他にもなにか……」
いいながらヒールの高い踵で床につっぷしている魔王様をぐりぐりと踏みつける。
「だ、だいじょうぶですっ。何もされていませんから!]
その様子を見て慌てて手と頭をふりながら否定する。
…仮に一番偉いと思われる人にそんなことをして大丈夫なのだろうか。
「ふむ、ぬしがそう言うのであれば…」
心なしか残念そうに言うと彼女は彼から踵を放した。彼の背中にはくっきりとヒールで踏まれた痕が残っている。痛そうだ…。
「あの、あなたは…?それとあなたも私の事を知っているんですか?」
おずおずと聞いてみる。彼にも尋ねたが聞きたい返事は今のところ返ってきていない。というか今まで会話がまともに成り立っていない。
あるとすればさっき起きた時にツッコまれたことくらいか…。そう尋ねると彼女はパアアアと顔を輝かせ満面の笑みで頷いた。
「おお、もちろんじゃっ!ぬしの事はよく知っておるぞっ。ぬしがこーんなに小さいころに妾と一緒に遊んだものじゃ」
そういって彼女は親指と人差し指で形をつくる。一寸法師じゃあるまいし、さすがにそんなに小さくなかったと思うけど…。
でも、そうやってニコニコと話す姿をみると、私までなんだか嬉しくなってクスっと笑ってしまった。
それにしても、彼女はどうやら私の小さい頃を知っているようだ。彼女なら今の状況を説明できるかもしれない。
「あ、あのっ、私、覚えてなくって…一緒に遊んでもらったみたいなのに、ごめんなさい。あと今の状況も正直よく分かってなくって…よかったら教えていただけますか?」
そういうと彼女は目をパチクリさせて私を見た。美女なのにそのアンバランスな表情が可愛い。そう思ってると彼女はワナワナと震えだし、まだ床につっぷしている彼をギっと睨む。その様子をみてまた踏むのかと私はとっさに布団で顔を隠した。
すると頭上から「はあぁぁぁぁ~」と、盛大なため息が聞こえた。
恐る恐る布団から顔を出すと、困ったように微笑む彼女と目があった。
「すまぬな。ぬしを驚かせてしまったようじゃ」
それにしても…と彼女は続ける。
「わけもわからぬまま、見知らぬ世界につれてこられたというのに、ぬしは怒ることも、取り乱すこともせず、健気に状況を把握しようとしておる。立派に育ったのぉ」
そういって布団の端に腰かけると、慈しむような瞳で見つめ、左手で私の髪を梳く。その表情と仕草に女の人なのにドキドキしてしまう。
「い…いえ。そ、そんなことないです」
最後は蚊のなくような声になってしまった。怒りこそしてないものの、叫んで気絶はしてしまっている。しかしそんなことは言えず、かといってはっきり否定することもできず、うつむいてしまう。
「ふふ、ルアは愛いのぉ~。ぬしは状況が分かっていないといったが両親からは何も聞かなんだか?」
「えっと・・・。私が魔王様のお嫁さんになることを約束していて、大学も就職もできないという事は聞きました…。でも…」
「でも?」
言い淀むと先を促され、思い切って口をひらく。
「私はその、魔界とか魔王とかって信じてなくって…見たこともないし、私たちの世界ではおとぎ話の中の世界だったから…。だから親も何か勘違いしてるだろうって。そう思って直接話をしてお断りしようと…」
「「断るぅうううう!?」」
言うや否や二人の叫びに私の声はかき消えてしまった。