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首無し騎士の名称をデュラハンに変更しました
「ルア?大丈夫か、ルア」
そう言って悲鳴を上げた少女を覗き込むと、私の腕の中で完全に意識を手放している様子だった。
「す、すみません、魔王様。俺達が驚かしてしまったようで…」
デュラハンが頭があったであろう何も無い場所に手を当て、巨体を曲げて謝ってくる。
「その、悲鳴が聞こえたもんで、驚いてしまって」
「ま、まさか、ルア様が来てるなんて、し、知らなかったんだな…」
あせった様子でミノタウロスとオークが交互にしゃべる。
「いや、構わん。私が我慢できず急に呼び寄せてしまったからな。ルアも状況を把握できていないようだったし、次、目覚めた時にきちんと説明すれば大丈夫だ」
そう言って愛おしそうにルアの頬をなでる。気を失っているがくすぐったいようで軽く身をよじる。
その様子がまた可愛らしい。16年待ち続けた少女がようやく自分の目の前にいる。
16年というのは自分にとっては僅かな時間であるはずなのに、100年も200年ともとれるくらいに長いものだった。
それほどまで、自分はルアを待ち望んでいた。
自分の事をルアは忘れていたようだが、それもまあ、構わない。これから色々と知ればいいのだから……
そう、色々と……。
想像して自分の口角が上がるのがわかる。
「ど、どうしたんだな、魔王様」
「うむ、きっとルア様との再会を喜んでおられるのだろう」
オークの疑問にデュラハンがさもあらんと答えた。
ミノタウロスはルアをじっと見つめ、感慨深そうだ。…あんまり見るな。ルアが減る。
「それにしても…あの小さかったルア様も大きくなられて…。あのころも愛らしかったですが、さらに可愛らしく愛らしい女性になられましたな」
「たしかに成長されたと思うが…まだ小さいのではないか?気をつけないと踏んでしまいそうだ」
と、デュラハンが物騒なことを言う。
私の守護で護られているルアには、ちょっとやそっとのことでかすり傷などつかないが、それでも私のルアが踏まれるのは許し難い。デュラハンに釘を刺しておく。
「お前に踏まれたくらいでルアは傷の一つもつかないと思うが、ルアにかすってでもしてみろ、減給どころか、100年タダ働きだ」
軽くデュラハンを睨むとおびえた様子で「ひえぇぇ」といってルアから一歩遠のく。そのまま視界から消えてくれ。
たしかに子供の頃から成長したと言っても、今でも十分ルアは小さい。多分身長は150センチいくかいかないかくらいだろう。
腰まで伸びた長く美しい漆黒の髪。透き通った白い肌に、先ほどまで私を見つめていた、くりっとした大きい瞳。薄く開いた唇はほんのり桜色で思わず吸い寄せられそうになる。が、ここは我慢だ。意識のないルアに口づけするのはいいが、ここにはこいつらがいる。
あとあとルアに告げ口されれば私に対する心象が悪くなるだろう。時間はたくさんあるとはいえ、空いた時間を埋めるには最初が肝心だ。
「私はルアを部屋に運ぶ。お前達は持ち場へもどれ。ああ、あとレノールを呼んでこい」
そう言って私はルアを抱え、立ち上がると前々から準備しておいたルアの部屋に運ぶ。
3人も姿勢をただして、敬礼すると私たちを静かに見送った。
―――そして魔王様は気づいていない。肝心な最初は、ルアにとって最悪の再会になってしまったことに……。
残された3人はその真実に薄々感づきながら、ルアが目を覚ました後のことを思い、大いに心配するのであった。