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――光に飲み込まれるっ……



足元には私を中心に2重の円が展開されており、その中には均等な間隔でいくつもの幾何学模様が浮かびあがっている。

円全体が一層強く発光すると、私の体は光に包みこまれ、ふっと軽くなり重力に逆らって浮かび上がる。



「お、お父さん!お母さん!!た、、助けっ…」



パニックで泣きそうになりながらも部屋にいる父と母に助けを求めると、母は自分の娘がそんな状況にも関わらず、落ち着いた顔をしてにこやかに手を振っている。

父にいたっては……泣いている………。


「う、うぅ…。流亜がもうお嫁にいってしまうなんて…パパは悲しいぞ。でも絶対幸せになるんだぞーー!!」


先ほどと同じように顔をぐっちゃにしながら両手を口に当てて叫んでいる。すでに今の状況からして幸せとは程遠いところにいる気がするんですけど…。

二人のそんな対応に私の期待は裏切られ、さすがの私も怒りがこみ上げてくる。




「幸せって…ちょっと!!私の幸せを考えるなら助けろーーーーーっっ~~~~~~!!?」




最後の最後に思いっきり泣き叫んだ私の視界は両親から真っ白な光に塗り替えられた。



ゆらゆら


ゆらゆら


リビングだったはずの部屋は、真っ白な視界、真っ白な世界に埋め尽くされ、私はその中をぼんやりとした意識の中、漂う。

そんな真っ白な世界の中、ふと目の前に幼い子供が現れる。



(ーーーこの子は…小さい頃の私!?)



その子には私が見えていないようだった。そんな幼い私の周りには3人の大人がいた。


その内の二人は私のよく知っている人物だった。若いころの父と母。二人とも元々若く見えるが、それ以上に若々しく、そして美しく、綺麗だった。

小さい頃の私はそんな二人と両手をつないで、目の前に佇んでいる人を見ている。


顔はよく分からないが男の人で、身長は父よりも高く、ゆうに180センチは超えている。全身黒ずくめで、背中にはマントをつけている。


その男の人は幼い私の前にゆっくりとしゃがみこむと視線を合わせ微笑んだ。


「っ!!」


その光景を見ていた私は思わず息を呑む。あまりにも整った顔立ち。

切れ長の目に吸い込まれそうなほど、どこまでも黒い瞳。

鼻筋はスッと通っており、形のよい唇。滑らかそうな白い肌。今まで生きていてこんなに整った顔の人を見たことがなかった。

私の父も整った顔立ちの方だが、比べ物にならない。同級生の女の子たちは父をみて、自分の親と交換してほしいとか、すごくカッコいいとか言っていたが、きっとこの人を見ると、のしを付けて父を返し、この人に乗り換えるだろう。…それほどまでに完璧だった。


その男の人が幼い私を見つめ口を開く。


「ルア、私の可愛いルア。大きくなったら私のお嫁さんになってくれるね?」


そんな彼を見て幼い私は一瞬キョトンとするものの、すぐに満面の笑みになり、コクンと頷く。


「うん!るあ、ヴィスのおよめさんになるー!」


彼はその返事に満足そうに頷き、スッと立ち上がった。そして…

私の方を向いた……ような気がした―――。

その瞬間、またあの眩しい光が全体を包み込み、私はとっさにぎゅっと目を閉じた。


しばらくすると、閉じた瞼に感じていた光が無くなり、いままでふよふよと漂っていた感覚の体は何か固い物の上にあった。

恐る恐る目を開けて周りを見渡す。そこはいつもの慣れ親しんだ我が家の一室ではなく、高い天井に、広い空間。いくつもの大きな柱。

その柱にはここからではよく分からないが、なにか細かい模様が彫りこまれている。大理石と思われる床は丹念に磨かれているのかピカピカで、そこには私の不安そうな顔が写りこむ。




「ルア、よく来たな。ずっと待っていたぞ」



突如、頭上からふってきた声に思わず顔を上げる。

すると、私の目の前には先ほど白い空間で見た綺麗すぎるほど整った顔立ちの男が静かに佇んでいた。




「あ、の…ここは……」


私はさっきまでリビングで両親と話していたはずだ。それなのに部屋が急に光りだしたと思ったら、気づけば見知らぬ部屋にいる。

色々な事が突然起こって、私の脳はもう許容範囲を超えている。なんだか目の奥が熱くなってくる。

私はしゃがみこんだ体勢のまま、自分の事を知っていると思われる目の前の綺麗な男の人に尋ねた。


目を潤ませた私の前に、男の人は床に膝をつき、そして――――




「可愛いーーーーーーーっっっ!!!!」


ぎゅーっと力いっぱい抱きしめられた……。


「っっっ!!?」


一瞬頭の中が真っ白になる。しかし次の瞬間、人生今までで出したこともないような大きな悲鳴が、建物中を駆け抜けた。




「き…きゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」



その声を聞きつけ、扉の外でいたであろう人たちが一斉に部屋になだれ込む。


「いかがなされましたか、魔王様!!」


「ご無事ですか!?」


「な、なんだか、すごい悲鳴がき、きこえたんだなっ」


ぞろぞろと入ってくる人たちをみて私はさらに悲鳴をあげた。



「い…いやぁあああああああああっっっ!!」



部屋に入ってきた人たちは、『人』ではなかった。

牛のような顔をした頭に筋肉隆々の体。豚のような顔にこれまた筋肉隆々の体。

そして2メートルはあるかと思われる巨大な身体に甲冑を纏い、…これにいたっては首がなかった。



…私は一体どうなるのだろうか。

いや、そもそも、これは現実なんかじゃない。きっと夢をみているんだ。

次、目を覚ませば私はきっと自分のベットの上で、朝ごはんを食べて両親に行ってきますって言って普通に学校に行くんだ。そうだ、そうに違いない。

そして私の意識はそこで完全にブラックアウトするのだったーーーー。



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