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(こ…怖いっ)


側に仕えていたリーシャとラナーシャの二人も手を取り合って「「ひえぇぇ~」」と慄いている。


(でもでも、私だって当事者の一人なんだから、きちんと知っておかないと。負けるな流亜!!)


自分を奮い立たせ、その空気に負けない様、じっとヴィスを見つめる。


「それを知ってどうする。血の契約をなんとかしたいと言うのか?以前、破棄できぬといった筈だが?」


冷たい声色のまま、そう言い放つ。これは、あれだ。カルオスさんより100倍怖いっ


(でっでも、負けないもんっ)


「破棄とかそういうことじゃなくって、『血の契約』がどんな物かを知りたいの。それに他にも魔界のことや…そのヴィスの事も……」


「私のこと……?」


幾分か空気が柔らかくなり、それにホッと息をつく。

そしてヴィスの言葉にコクンと頷くと言葉を続ける。


「ここでは…ここではみんな私の事を知っているの。私の幼い頃の事を。でも私は覚えていない。魔界のことも、ヴィスのことも…他の人達のことも」


ヴィスはその言葉を黙って聞いている。


「レノールやデュラハンたちも私が魔界に馴染めるように色々としてくれてる。だから私も自分からみんなを知っていきたいって思ったの」


「それならば何故、血の契約を知りたいのだ。私たちの事だけ聞けばよかろう?」


その問いに私は自分の心の中にあった想いを話す。



「それは……怖いから」


「………怖い?」



「私は…昨日まで人間だって思ってた。当たり前にあちらの世界で生活してて……。でも…それは違った―――」


私は力なく自分の両手をみつめる。人間と同じそれに見える。


「でも私は人間じゃない…」


ぽつりと呟く。


「ルア……」


頭をあげた私はきっと今にも泣きそうな顔をしていることだろう。

ヴィスが纏っていた冷たい空気は今や鳴りを潜め、私を痛ましそうに見ている。

そして、苦しそうに口を開き、


「ルアは―――…ルアは人間界に戻りたいのか?そして以前の様に生活、したいのか?」


と、問いただす。


―――還りたい。


「昨日なら、そう言っていたかもしれない。でも…」


ふと窓の外を見る。

窓の外は昼間の青空とは対照的で今は闇に包まれ、月明かりだけが照らしている。

優しい光だな、そう思った。


「不思議と…還りたいと、思わない。そして昨日の今日でそう思っている自分が分からないの。私が魔族で魔界が生まれ育った所だからなのか、それとも…」


外を見つめながら話す。顔を見て、ヴィスの表情見て話すことができなかった。だってきっと―――


「血の契約があるからなのか……―――」


――きっと、ヴィスは傷ついた表情をしている。


私は窓から視線を戻し、そっと瞳を閉じる。

なぜか私は、ヴィスの傷ついた顔を見ると、自分も苦しく、悲しい想いに駆られる。

その時、ふわり、と背中から温もりを感じ、同時に耳元でヴィスの優しく、労わるような声色が聞こえる。


「すまないルア。お前に…そんな表情をさせるつもりはなかった―――」


そして私を抱きしめる腕に力が込められる。


「私もきっと怖い…のだろう。ルアが私から離れてしまうことに…。否、離れずともそう思うだけで私は自分を押さえきれなくなる」


私はなんと言っていいか分からず、黙ってヴィスの話を聞く。


「『血の契約』は、ルアが思っている以上に…深く、濃く、影響している。しかし今はまだすべてを知るべき時ではない」


「………」


「だが、これだけは言っておこう。『血の契約』はルアにも影響は少なからずともある。しかし、心に、感情に係わる事はない」


力強く、キッパリと言い切られる。

きっと、本当の事だろう。ヴィスは私に嘘は吐かない。なぜかそれは確信できた。


「魔界に馴染むのが早いのは、もちろんルアが魔族という事もあるが、一番は『血』だな」


「『血』?」


「ああ、ルアに流れている『血』だ。自分自身に流れている血が魔界(ここ)をあるべき場所と認識したのだろう。まあ、本能みたいなものだな」


あるべき場所…本能

私に流れる、『血』


言われたことを考えていると頭からフッと微かに笑う声が聞こえる。


「どちらにせよ、他に還る場所があろうがなかろうが、ルアの居場所は私の傍(ここ)、だ」


そして、頭のてっぺんに柔らかい感触がすると「チュッ」といって離れていく。

急な感触に思考がストップする。


こ、これって…これって!!?


突然の事に驚き、頭を押さえながら勢いよく後ろを振り向く。

と、そこにはもう、ヴィスの姿はなかった。

すると、食堂内にヴィスの声が響く。


《ルア、今宵は楽しい食事だった。明日もまた、楽しみにしているぞ。それでは良い夢を―――》


「~~~~~っっ!!」


そして声は聞こえなくなり、食堂内は静寂に包まれる。


私は頭に手を置いたまま、フルフルと震える。

それをリーシャとラナーシャが顔を見合わせ、見つめる。


「………ヵ」


「「か??」」


「ヴィスの…ヴィスのバカーーーーー!!」



そう叫ぶルアの顔は真っ赤に染まっていた。

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