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「あからさまな敵意は向けぬと思っておったが…」


いやはや、どうして


「思いっきり敵意丸出しじゃったのお」


そういいながらレノールはゆったりとソファにもたれかかり、苦笑を交えグラスに入った深紅のワインを傾ける。

明日からカルオスがルアの師となるが…


「どちらにせよ、あやつはルアをどうにかしたくともできんじゃろうな」


兄の護りがあるのはもちろんじゃが、


「兄、直々の命じゃからのお」


魔王命のあやつのことじゃ、必ず兄の期待に応えようと粉骨砕身するであろう。

問題はカルオスよりも…


「フィルオーネのほうじゃな」


カルオスの妹であるフィルオーネは激情家で(魔王)を心より慕っている。

ルアの存在を誰よりも疎ましく感じているに違いない。今はまだ姿を見せていないが


「注意せねばなるまいな」


心配は山ほどあるが、とりあえずは魔力を制御できるようになってもらわねば……

ルアには大変な思いをさせてしまうやもしれぬが、ここは頑張ってもらわなければならぬ。

自身の内にある魔力を制御できなければ、なんらかの拍子に暴発してしまう危険性がある。


「それは、避けねばならぬ。二度同じ過ちは繰り返さぬ」


その呟きは誰に聞かれる事もなく、静かに響き渡った―――。




―――時を同じくして……

魔王専用の豪華な食堂に、魔王ヴィスラヌとルアは大きなテーブルの前で対峙し座っていた。

テーブルには所狭しと豪勢な夕食が並んでいる。

後ろの方にはリーシャとラナーシャが控えている。朝とは違って、二人とも静かに佇んでいた。


(とても同一人物とは思えない……)


と、若干失礼なことが頭をよぎる。


(それに、この食事も朝よりもっとすごい……)


あまりの量に圧倒される。どうみても10人前はありそうだ。

それよりもなによりも


(わ、私テーブルマナーとかよくわからないんだけどっっ)


ちらりとヴィスの方を見ると優雅に、しかし決して遅くないスピードで料理を平らげている。

しばらくその様子に見惚れていると、不意に顔を上げたヴィスと視線が重なる。

その瞳を見た瞬間、朝の事を思い出し胸がドキッと高鳴る。


(なななな、なんで今思い出すのよっ)


「どうした、食べないのか?それとも料理が口にあわないか?」


急に話しかけられ、ますます心臓が跳ねる。

うまく言葉が紡ぎだせずにいると、それを肯ととったのか指を鳴らすと


「そうか、分かった。リーシャ、料理長を消せ。それとラナーシャお前は新たな料理長を探してこい」


と物騒なセリフを淡々と命じた。


なっなななっ!


「「は~い、畏まりました~」」


二人はあっさり(!?)頷くと、魔王の命に応じるべく、部屋を後にしようとする。その様子を見て慌てて二人を止める。


「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待って!ち、違うのっっ!!料理があまりにもすごくて圧倒されてただけなのっ!!どれも美味しそうで迷っちゃって!!」


汗が噴き出るのを感じながらも、顔が引き攣るのを感じながら咄嗟に言う。

クビじゃなくて『消す』…『消す』って…

改めて目の前にいる人が恐ろしい魔王様だという事を認識する。


「む、そうか。ならば消さずともよいか?」


よい、よいですっ!と首を必死で縦に振る。


「そうか、ならお前達、料理長は生かしておけ」


「「は~い」」


「「でもざんね~ん、せっかく私たちも食事できると思ったのに~」」とリーシャとラナーシャの呟いた声が耳に入った。うん、そのセリフは聞かなかったことにする!


(あ、危うく、まったく関係ない人が命を落とす所だった……)


冷や汗が頬を伝う。

テーブルマナー云々を気にしている場合ではない。取り合えず手を付けねば!と両端に置いてあるナイフとフォークを取り、料理に挑む。

四苦八苦しながら目の前の肉を何とか切り分け、口に運ぶ。緊張もあり、味はよく分からなかった。せっかく初めて食べるような食事だったのに…残念。


「そういえば…」


ふいにヴィスが口を開く。


「今日は城を回ったらしいな、どうだ、何か面白いものはあったか?」


そう言われ、レノールにお城を案内された事を思い返す。

お城は5つの塔からなっていて、四方と真ん中、それぞれがつながって建立している。床は大理石のようにピカピカで、壁は汚れ一つなく真っ白だった。まるで歴史を感じさせない面持ちは先日建てられたばかりではないかと疑うほどだ。

柱や扉にも一つ一つ細かい細工がなされており、初めて魔界に降り立った部屋を思い出す。

結局、休憩しながらも半分しか見れなかった。


「まだ全部は見れてないのだけど、面白い、というか今まで住んでた世界には無いものがたくさんありました。…じゃなくって、あった、かな?」


思わず敬語になったのをヴィスに見咎められ、慌てて言い直す。

うぅ…少しくらいは赦して欲しい…そう思わずにはいられない。


「ほう、例えば?」


興味深く尋ねられる。そういえばヴィスは私が住んでいた世界がどんな所か知ってるのかな?多分、父や母から聞いてるとは思うんだけど。

そしてレノールに案内された魔界の城には色々なものがいた。蝙蝠のような羽根で空を飛んでいる人(厳密には人ではないのだが)、しゃべる植物(油断すると食べられるらしい)に、忙しなく何かを造っている小人。他にもいっぱい珍しいものがあったが、それよりも何よりも一番びっくりしたのが…


思い出し、ふふっと笑みが零れる。


ヴィスはルアのその表情に軽く目を細める


「どうした?何か面白いことでも?」


そう言われ、ヴィスに昼間あったことを説明する。


「いえ、昨日いた首無し騎士…デュラハンに出会ったのだけど、私また気を失ってしまって…。そうしたら後で、オークとミノタウロスの3人で来られて。その時、みんな私が怖がらないようにと、被り物をしてきてくれたんです」


その時の事を思い出すと自然と顔が綻ぶ。



『―――いやいや、先ほどはルア様を再び驚かしてしまい申し訳ない。しかし、このデュラハン!ルア様に驚かれぬ様、策を用いて再び参上いたしました。後ろのこやつらもルア様と挨拶をしたいという事で連れて参りましたぞ』


そう言うデュラハンさんの頭には白く丸いボールが乗っており、それにはヨレヨレの線でかろうじて分かる、目、鼻、口が書いてある。これは……また別の意味の怖さがある。

しかし、レノールが事前に教えてくれ、きちんと紹介されたので幾分冷静にいることができた。


『はじめまして、といっても昨日お会いしましたが、その際は驚かせてしまい申し訳ありません。自分はミノタウロスと言います』


『オ、オレはオークなんだな。き、きのうは驚かせてご、ごめんなさい』


二人は口々にそう言い、昨日の事を謝った。それにしてもこの二人も私を驚かせないようにだろう。紙袋を被って、目の部分だけ開いている。うまく前が見えないせいかふらふらしている。


その姿に思わず噴き出してしまう。私が何故笑ったか分からない3人はキョトンとお互いの顔を見合わせる。

私は3人の心使いが嬉しかった。ここまでしてもらっているのに、怖がり続けるのは失礼だ。


『笑ってしまってごめんなさい。みんなが私の為に色々してくれたのが嬉しかったんです。それじゃあ改めて…私は流亜と言います。こちらこそ昨日は気を失ってしまってごめんなさい。デュラハンさんにいたっては、今朝もまた驚いてしまって…ごめんなさい』


そういって頭を下げる。

逆に謝られると思っていなかった3人はあからさまに動揺した。


『そ、そんなルア様に謝られるなんて、こ、こまるんだなっ』


『さ、然様。どうぞ顔を上げられて下さい。我らのような魔物の端くれに謝罪など不要』


3人はあたふたしながらそう言うと、今までルア傍らで佇んでいたレノールが口を開いた。


『その通りじゃルア、こやつらは名を持たぬ魔物の端くれ。魔族間では上下関係が最も厳しいとされている。上位の魔族であるルアに頭を下げられ困るのはこ奴らじゃ』


『でも…』


『それでも気になるのならば、こやつらの真の姿を見よ。謝罪などよりも、そちらのほうが実、嬉しいだろうよ』


『その通りです。今はまだ、慣れることはできないかもしれませんが、いずれ自分たちの姿を見ても大丈夫になって頂けると喜ばしいです』


ミノタウロスさんがそう言って頷いた。他の二人も頷いている。

確かに、謝罪よりもそちらのほうをみんな望んでいるみたいだ。ならば自分は……――――



「ほう、それで?」


ヴィスが片肘をつき手に顎をのせ楽しそうに聞いてくる。


「結局みんなに素顔を見せてもらって、再度自己紹介をしたの」


そしてその際、『さん』付けをやめるようにとも言われた。敬称は自分よりも格上の魔族に対して使うらしい。ならばヴィスとレノールには使うべきじゃないのと聞くと、本人が敬称を使うなと言っているので問題ないということ。

あとデュラハンやオーク、ミノタウロスといった呼び名も名前と思いきや、種族名らしい。魔族より下の魔物には名前がなく、付けるとしたら自分の隷属化におくか、自分の血を分け与え、魔族に位を上げるしかない。


(血を分け与える…もしかしてそれが血の契約?)


ふと、そんなことが頭をよぎる。


「あの、ヴィス?ちょっと聞きたいことがあるのだけど…」


「ん?なんだ?なんでも答えてやるぞ」


ヴィスは嬉しそうにニコニコしている。

前にその話が出た時はすごく気まずい雰囲気になったから、あまり話をだしたくないのだけど…


(でも、いつまでも知らないままじゃいけないし!流されるままじゃなくて自分で切り開かないとっ!!)


血の契約―――それがある為、私は元の世界にも帰れず、ヴィスとの婚約を解消することができない。

しかし、血の契約を無かったことにし、前の生活に戻りたいかと言われれば……


(すぐに頷くことができない……なんでだろう)


あちらには友人もいたのに。私って案外、薄情者…?

色々な思いが駆け巡る。

そこで、一向に口を開かない私をヴィスは怪訝な表情で


「どうした?聞かないのか?」


と、問いかける。


そうだった!自分から話しかけといて、何も言わずに考えこんじゃうなんて!

慌てて聞きたかった事を恐る恐る口に乗せる。


「えっと、血の、契約について…なんだけど…」


「ほう?」


その言葉を聞くや否や今まで温かかった部屋の雰囲気が一気に変化する。

『絶対零度』

その言葉がしっくりくるくらいヴィスの周りの空気は冷たいものになった。


や・・・やっぱり聞くべきじゃなかった!?


しかし、後悔してももう遅いのだった……

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