13
半年以上あきましたが次話投稿です<(_ _)>
「話がひと段落ついたところで…ぬしの今後の事じゃが…」
そうだ、なんだか色々あってすっかり忘れていたが、私が魔界に来たのは魔王様と結婚しなければいけないということで飛ばされてきたはず…
「わ、私、まだ結婚は…」
心の準備もできていないし、ヴィスも魔界の事もほとんどといっていいほど知らない。
「うむ、みなまでいわずともわかっておる。安心せい、結婚はまだ先のことじゃ。まあ、兄上はさっさとしてしまいたいようだが。とりあえず、当面は魔界に慣れてもらうことじゃな。ぬしが住んでいた世界とは違う形の生物や植物がたくさんいるからの。あとは自分の魔力を制御し、使えるようになってもらうぞ」
「私の魔力?」
「ルアは魔力とは無縁の場所におったから、今はよくわからんかもしれぬが、学べば自然と身に着くものじゃ。ゆっくり習得していけばよい」
自然と身に着く…魔法とか使えるようになるのだろうか。時々読んだファンタジー小説を思い出し、ちょっとわくわくする。
「学ぶのは学校とか、本を読んで?」
「いや、窮屈かもしれぬが、専属の指導者をつける。本当は妾が教えたいところなのじゃが、力加減ができぬゆえ、兄上に止められてしまった…残念じゃ」
心底残念そうに、肩で大きくため息をついている。私としても、レノールに教えてもらえれば心強いと思ったのだが、力加減ができないというのは恐ろしい。
「今日は城を案内する予定であるから、魔力の授業は明日からじゃ。指導者についても明日、一緒に紹介するゆえ、楽しみにしておるがよい」
どうやら私が魔法を使うのを楽しみにしているのが分かったらしい。悪戯そうに微笑むと私に軽くウィンクした。
「あとは…そうじゃな、ルア付きのメイドを紹介しようかの。リーシャ、ラナーシャ、こちらへ」
「「はぁ~ぃ、レノール様。およびですかぁ?」」
私専用のメイド!?
驚いていると、呼ばれたメイドが私が先ほど寝ていた寝室側の壁からニョキっと出てきた。
ひっ!
思ってもみないところから出てきてさらに驚く。
うう…これが魔界の常識なのかもしれないけど、ドアがあるならドアからでてきてほしい……。と思わずにはいられない。
声を合わせて出てきたメイドは二人ともそっくりで、唯一違うといえば、髪型がポニーテールとツインテールの違いくらいだ。
よく見れば、先ほど私の身支度を整えてくれたメイドの中に二人の姿を見た。
「うむ、お前達をルアに紹介しようと思っての。ルア、こちらのポニーテールの方がリーシャで、ツインテールがラナーシャじゃ。二人は双子の姉妹でサキュバスになる」
「はじめまして~。姉のリーシャで~す」
「妹のラナーシャで~す。よろしくおねがいしま~す」
(リーシャさんがお姉さんで、ポニーテール、妹がラナーシャさんでツインテール…)
きちんと覚えれるように頭のなかで復唱する。
ちゃんと見分けれるようになりたいけど、最初は髪型で見分けるしかなさそうだ。
二人とも気さくな雰囲気で始終ニコニコしている。歳も近そうだし、仲良くなれそうだ。ホッと息をつく。
正直、自分はメイドをつけてもらうような人間ではないと思うし、恐れ多いが、知らないことが多いこの世界で、側にいてくれる人がいるというのは心強い。
「はじめまして。土屋流亜です。魔界はまだ慣れてないので、色々迷惑かけるかもしれませんが、よろしくおねがいします」
ぺこりとお辞儀をして、二人に微笑む。
すると、二人は顔を見合わせ、少し間をおくと…
「「いや~んっ、噂通り~!かっわいぃ~~っ!!オスじゃないけど喰っちゃいた~い」」
二人に挟まれ頬ずりされる。なんだろう、魔界の人たちはみんなスキンシップ過多な気がする…
女の人なので叫んだりはしないが、なんか今、すごく不吉な言葉が聞こえた気がする。喰っちゃいたいとかなんとか…
「これこれ、二人とも。ルアが恐れておるぞ。あまり驚かすでない」
「レノール様、違います~。これはルア様を愛でてるんです~」
「あっ、ルア様安心してくださいね。私たちはオスしか糧にならないので…でもちょっとだけ味見してみたいなぁ~」
リーシャとラナーシャが口ぐちに言う。それにしても…
「糧?味見…?二人はヒトを食べるんですか…?」
恐る恐る二人に尋ねる。
それを聞いた二人は顔を見合わせ、キョトンとした顔をする。
「ああ、ルアはサキュバスを知らなんだな。サキュバスと言うのはオスの精を糧にする生き物じゃ。逆に、メスの精を糧とするインキュバスというのもおる」
(精……って…精!?)
説明されたことの意味を思い至り、一気に顔が熱くなる。
「ルア様ったら魔族なのに純情ー!顔真っ赤ですよ~。まあ、私たちにとっては食事の行為ですけど、ルア様たちで言うとこのセッ…もごっ」
「もう~、ラナーシャってばっ!ごめんなさいね、ルア様~。悪気はないんですけど、思った事口にしちゃう娘なので~」
リーシャがラナーシャの口を押さえながら申し訳なさそうに言う。ラナーシャは姉に押さえこまれてモゴモゴと苦しそうだ。
「い、いえ…その、大丈夫です」
対する私は一層顔を赤くして首を横にふる。あまり免疫のない私でも二人の言った事はわかる。
(それにしても『魔族なのに』…か)
魔族は純情が少ないかどうかは置いといて、自分自身が魔族ということを昨日知ったばかりで、まだ完全に受け入れきれていない。
第三者から改めて『魔族』をつきつけられるとなんだか自分が自分じゃないみたいで気分が沈んでしまう。
無意識に溜息が零れる。
「!? ほらっ!ラナーシャがそんなこと言うからルア様に呆れられちゃったじゃない!!初日から嫌われちゃったらどうするのよっ!」
「!? えぇええ~!!それは困ります~。ルア様私たち嫌いにならないですよねっ、ね?」
私の溜息を勘違いした二人は涙目になりながら私に詰め寄り、訴える。
もちろん溜息の理由は別のことなので、あわてて二人の誤解を解く。
「あ、呆れていたわけじゃないですっ。ちょっと環境の変化に戸惑っちゃって……。もちろん嫌いになんてならないです!!」
そういうやいなやリーシャとラナーシャは二人で手を握り合い、安堵のため息を吐く。
「まあ、安心せえ。少し騒がしいが、こやつらは仕事もできる。それにルアには兄の護りもある故、他の奴らはルアに手出しはできん」
ヴィスの…護り?
「「私たちも、もちろんルア様に手を出せないなので、基本的に安全です~。きちんとお仕えさせていただきま~す」」
「そういうことじゃ」
なんか微妙に言葉にひっかかる部分はある気もするけど、そこは気にするのはやめよう。
とりあえず私はヴィスのなんらかの力に護られて安全らしい。あとで会ったらお礼をいっておこう。なんだかこちらに来て至れり尽くせりな気がする。やはりそれは『魔王の婚約者』だからだろうか。自分自身の気持ちがまだハッキリしていないのに、ここまでされるのは気が引けてしまう。でも慣れない魔界で、右も左も分からない状態だし、慣れるまではこのまま甘えさせてもらうしかない。今度、私にもできる事を探そう。できるだけ早くこちらの生活になじめたらいいな、と思う。
少しづつ、だが確実に魔界を受け入れつつある自分。きっとそのうち魔族ということも受け入れれる時がくるのだろう。
相変わらず混乱はしているが、こんなに早く受け入れれるのは、自分が魔族で、幼い頃魔界にいたことがあるからだろうか。それともこれが『血の契約』の効果なのだろうか……―――。
色々と巡る思考の中、ふと窓を見る。
窓から見る景色は雲一つない快晴で…
あぁ、空は一緒なんだな、と少し嬉しくなった。