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「さて、今後のことだが……」


きゅるるるるるぅぅぅ


ヴィスが改めて口を開くと同時に私のお腹の虫が盛大になった。

みんなの視線が私に集中する。うぅ…そういえば昨日の夜から何も食べてなかった…。恥ずかしすぎる…。私は居た堪れなくなって真っ赤な顔を布団で隠した。

その様子をみてみんながクスクスと笑う。


「そういえば、ルアは昨夜食事をしていなかったな。気づかなくてすまない。起きぬけでもあるし、ここに食事を運ばせよう。お前達も一緒に食べていくか?」


「お心遣い痛み入ります。ですが、我らは門番の仕事がありますが故、あまりあちらを空けておくことはできません。またの機会にお願いします」


「ありがとうございます、魔王様。またゆっくり食事を致しましょう。流亜をよろしくお願いしますね」


そう言ってやんわりとヴィスの申し出を断る父と母の姿はいつもと違う人のようだ。そして父の言葉に引っ掛かる。


「門番?」


私が尋ねると父の肩が跳ね上がる。


「あ、ああ。そうか流亜は知らなかった…かな?」

「知らない」


即座に言うと父はアハハハと乾いた笑いをしてごまかし、そして…逃げた。


「それでは魔王様!我らは仕事に戻ります!流亜のこと…あ、あと説明もお願いします~」


「それでは魔王様、ごきげんよう。流亜も新しい生活がんばるのよ~」


そう言うと、二人の足元に私が飛ばされた時と同じような魔方陣が浮かびあがるとそのまま吸い込まれるように消えてしまった。

突然いなくなってしまった両親に多少驚きはするものの、昨日から信じられないことの連続で、もう驚く感覚が麻痺してしまっている。


「な…なんなのよ…もうっ」


結局、両親からまともな答えは何一つ返ってきていない。むしろ常に気になるワードだけ残していってる気がする…。


「さて、ルアも気になる事があるとは思うが、先に食事にしよう。隣の部屋に運ばせた。メイドを呼んであるから身支度がすんだら来るがいい」


そういってヴィスと入れ替わりに数人のメイドさんがやってきて、あれよあれよという間に着替えさせられ、身支度が終了した。

服は胸元に大きなリボンのある桃色のワンピースでひざ丈まである。後ろは紐で編み上げられており、足元はドレスと同じ色のシンプルなパンプスを履いた。そのシンプルな装いに母が着ていたようなドレスじゃなくて内心ホッとする。そして食事をするべく隣室へ向かう。

私がいる部屋は寝室で、隣にリビングと思われる部屋があるようだ。朝、ヴィスと父が入ってきたドアを開けると、朝ごはんのいい香りが漂う。


きゅるるるるる


その匂いを嗅いで私の空腹が刺激され、またしてもお腹がなってしまった。


「はう……」


恥ずかしい、穴があったら入りたい。

ヴィスがこちらをみて微笑む。


「準備が整ったようだな。うむ、その服よく似合っているぞ。さあ、食事にしよう」


「あ、ありがとうございます。わあぁ、美味しそう…」


さらりと言われた世辞に頬を赤く染めながらも、空腹から意識はすぐに料理に向いた。サンドイッチやスープ、サラダ。メニューとしてはよくある朝ごはんだか、飾り切りされた野菜や、色とりどりな料理は見目を楽しませた。


「遠慮なく食べるがいい」


「はいっ、いただきます!!」


私は満面の笑みで手を合わせると目の前の御馳走に手を伸ばした。


「おいしいぃぃぃ~~」


空腹は料理の最大のスパイスとも言うが、今まで食べてきた料理で一番おいしいと感じた。トマトも瑞々しく、甘みが口いっぱいに広がる。まるでフルーツのようだ。


「そうか、そうか。ルアに喜んでもらえて私も嬉しいぞ」


笑顔でヴィスがうんうん頷く。ヴィスは楽しそうに私が食べている姿を見つめているが自分はまだ食事に手をつけていない。


「えっと、魔…じゃなかった、ヴィスは食べないんですか?」


「ああ、私はもう食べてしまったからな。それは全部ルアの分だ。あと敬語はいらない。先ほど両親に話していたように話せ」


なんと、この量全部私のだったのか。とても一人前とは思えない。小さめのテーブルとはいえ、所狭しと展開されている料理はゆうに2人前は超えていた。

それにしても…


「さ、、、さすがに両親と話すようには…ヴィスは魔王様で一番偉い人なんですよね?」


とてもじゃないけど恐れ多いです!そう思ってサンドイッチを片手に汗をかく。


「ああ、そうだ。だから私が敬語はいいといっているのだからそうしろ」


有無を言わせぬ返答。悲しいかな、日本人の習性で思わず「はい」と言ってしまう。厳密にいえば私は日本人じゃ、もとい人間ではなかったわけだけど。

でもその物言いは決して反発したくなるような押さえつける物ではなかった。もしかして緊張を解してくれようとしてるのかな?そう思いつつ片手に持っていたサンドイッチを口に頬張った。

ヴィスはそんな私の様子を頬杖しながら微笑ましそうに見ている。なんだか居た堪れない。その状況を少しでも早く脱しようと、私は目の前の料理に没頭した。


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