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「ほんとに何も覚えておらなんだの」


レノールが、眠りについたルアをみつめ、寂しそうに呟いた。


「ああ、でも、もういい。そんなこと気にならない」


私はルアを見つめ微笑みながらそう言った。


「ほんっと現金なヤツじゃのぉ。名前を呼ばれたくらいでコロっと絆されおって。さきほどまでルアの事を『お前』などと呼んで冷たくしておったくせに…」


そう言って呆れながら、半目で私を見る。

確かに、ルアの『断る』という科白を聞いて一瞬我を忘れた。初め、久しぶりに会えた時は覚えて無くても構わないと思ったが、実際その態度と科白を聞いたら頭が真っ白になった。

自分でもそこまでショックを受けるとは思っていなかった。『血の契約』を結んだ頃、ルアは2、3歳と幼かったし、覚えてないのも無理はないと思っていたからだ。ほんとは『お前』なんて冷たい言葉でルアを呼びたくはなかった。ルアに嫌われるような真似は少しでもしたくなかった。

だから、きっとそのままでは眠れないであろうルアに睡眠を促す魔法を施したあと、眠い意識の中、私の名を呼んでくれた時は歓喜で身が震えた。自分の名前を呼ばれたくらいでこれほどまで嬉しいことはなかった。



「煩い。あとルアの前でやたら兄を足蹴にするな。私の威厳が損なわれる」


「ハッ、キサマの威厳など在りはせぬっ!我を忘れて妾のルアに飛びついてからに…。あのルアの怯えた表情…むしろ防いだことによってルアに嫌われずすんだことを妾に感謝するがよいわっ!!」


ふんっ、と腰に手を踏ん反り返る。くっ、我が妹ながら生意気な口をききおって…。しかし、早まった真似をしてルアに嫌われずにすんだのは幸いだ。最初抱きしめた時も悲鳴を上げていたし、慣れるまではあまり抱きしめたりとかそういった類は控えたほうがよさそうだ。…残念なことこのうえない。



「誰がお前に礼など言うか。それにしても、まったくルアの両親は…」


「なーんにも話してはいない様子じゃったのぉ~。まあ、あの二人…じゃから、なんとなく予想はついておったが…」


あの二人…ルアの両親はむかしっから、どこかズレていてマイペースを崩さない似たもの夫婦だった。


「はあ…完全に失念していた…私の落ち度だ。まあ、一番の被害者は…ルアだな」


「…じゃのぉ」


そう言ってちらりとルアを見やると、二人でため息をつき、部屋を後にした。

明日から私とルアの生活が始まる―――。







「…………んっ」


眩しい…。瞼の裏に光を感じ、眩しさから身を捩り、布団をかぶる。


「もう、流亜ってば。いつまで寝ているの?もうとっくに朝ごはんの時間よ」


「うぅ~ん、あと5分…」


「だ~め、そう言っていつも起きないんだからっ!さっ、さっさと起きて魔王様に挨拶にいくわよっ」



……うん?


魔王様?


挨拶?


「まったく、魔界生活1日目でお寝坊さんだなんてっ!未来の旦那様を待たせるんじゃないの」


魔界?


未来の旦那様!?


そしてこの声は……


「お母さん!!??」


「ようやく起きたわね。おはよう流亜、今日も良い天気よ」


がばっと布団から起きあがり窓の方を見ると、母がいつもと変わらぬ笑顔でカーテンを開けている所だった。

ただ、いつもと決定的に違うことがあった。それは…


「お、お、お母さん!?な、なんでそんなドレスみたいなの着てるの!?あとなんでここにいるの!!?」


「まぁまぁ、流亜ったら朝からそんなに大きな声をだして…血圧あがっちゃうわよ。あと『ドレスみたい』じゃなくてこれは立派なドレスよ。どう?素敵でしょ」


そう言ってクルンと回る。たしかに薄いパープルの色合いのドレスは母によく似合っていった。だが、しかし、質問には答えてもらっていない。


「確かに素敵だけど…そうじゃなくって!な・ん・でここにいるの!?」


「もう、流亜ってば怒りっぽいんだから…ここにいるのは魔王様に呼ばれたからよぉ~」


「魔王様に…?」


そう言えば今日私の両親が来るってレノールさんが言ってたっけ…って……


「そうだ!ねえ、お母さんとお父さんも魔族って本当なの?あと私も…」


「ええ、そうよ。もちろん流亜も魔族よ。当たり前じゃない~」


あっさりと何事もないように肯定された。しかも当たり前とまで言われた。

私は脱力して布団に突っ伏す。


「あらあら、どうしたの?」


「私、知らなかった。ずっと人間だと思ってた」


布団に顔を埋めたまま呟く。


「あらら、そうだったの~。でも魔族でも人間でもあまり変わらないわよ~。まぁ、ちょっと魔法が使えてー、ちょっと人よりも長生きできるけど」


問題ナシっと母は言う。魔法が使えるってだけでも人間とかなりかけ離れてる気がする…。


「はぁ~、そんな事だからルアが戸惑うことになるんだ」


突然聞こえた声にパッと顔をあげて声のした方へ向くと、開け放たれたドアにもたれかかる魔王様の姿があった。その後ろに申し訳なさそうに佇む父の姿があった。


「魔王様…と、お父さん!?」


「おはようルア。それと魔王様じゃない、昨日のようにヴィスと呼べ」


「おはよう流亜~。いい朝だね~」


そういいながら父は魔王様の後ろに隠れている。私に怒られる事を勘付いているようだ。それにしても…


「あ、の…、名前は昨日勝手に口からでちゃって…慣れないので魔王様でも…」

「ヴィスだ」


「はい、ヴィス」


有無を言わせぬ威圧感に思わず返事をしてしまった。その答えに魔王様…もといヴィスはうんうん、と満足そうに頷く。


そして私は昨夜からの苛立ちとストレスを父にぶつけるべく、笑顔で父を呼ぶ。


「それはそうと、お・と・う・さ~ん?」



「ひぃいいいっ!流亜、め、目が笑ってないぞっ」


「当たり前よっ!まともに説明もないまま、ここに飛ばされて…挙句、私が人間じゃなかったなんて!!!急にそんなこと言われる私の身にもなってみてよっ」


「い、いや、その、悪かった!スマンっ流亜!」


「ごめんなさいね、流亜。あなたがそんなに怒るだなんて思わなくて…パパもママも悪気があったわけじゃないのよ」


分かっている。悪気が無い事くらい。ただそれを聞いて、そうですか。と赦せるほど私もまだ大人じゃない。


「どうして、全部、ちゃんと説明してくれなかったの?」


「どうしてって…なぁ?」


「どうしてといわれても…ねぇ?」


「「ちゃんと説明した気でいたから??」」


ずこーーーーっ



二人でハモって二人で疑問符…。

ほんっとうにうちの親は…


「ほんと相変わらずのマイペースだな。二人とも。これではルアも苦労するはずだ」


ヴィスもそんな二人をみて私に同情する。よかった、分かってくれる人がここにもいた。なんだかそれだけで救われた気がするのだった……。


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