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クロヱ  作者: teti
11/18

11話

2部構成となっております(笑)

@@@


閼伽子あかねは、重い体と瞼をようやく持ち上げた。と、同時に驚愕した表情になる。それは彼も同じだった。本から出てきた彼は、何者にも戦かずにいたが、今回はその表情に焦りを表していた。

「面白いですねぇ……君」

俺はそれが自分に言われているものだとは思わなかった。彼の目線は俺のポケットの中にある札に向けられていたからだ。

 今は消えたが、彼の攻撃をポケットに入っていた札が光って止めた……のだろう。燈明とうみょうが言うには勝手に札が護ってくれるらしいし、じゃあ何で閼伽子はあんなに驚いた顔をしているのだろうか。

「彼女と同じ? ふむ……」

彼がブッチョに少し目線をズラすと、またどこからか取り出したティーカップで紅茶を啜る。

「クロヱ!!」

閼伽子が叫ぶ。

「あいつの本体は、あのティーカップ!! それを壊して!!」

それを遮ろうとするように、閼伽子の前に彼が、まるで瞬間移動をしたように現れる。それに上手く反応できずにワンテンポ遅れて閼伽子の刃が彼の咽を狙う。

「ダメですよ。種明しは、それにそんな事をしたら服がダメになってしまうでしょう?」

咽に刺さっているはずの刃に、何の抵抗も覚えずに、彼が流暢な日本語で喋る。閼伽子はそのまま頭を両断するように刀を切り抜く。おっと、と笑いながら彼が頭を抑える。

「割けちゃったらどうするんですか?」

「割けないっ―――でしょっ!!」

そのまま閼伽子のラッシュ。刀と一緒に蹴りも交えての猛攻撃だが、彼は紙一重で交わして……おらずに閼伽子のラッシュにあわせるように後ろに下がるだけで、攻撃は全くの意味を成していない。

「なめてるの!? 反撃しなさいよ!!」

「嫌ですねぇ、こっちもメチャクチャ痛いんですよ? 一方的に痛めつけて楽しいのですか? フフフ」

攻撃を止めバックステップで閼伽子が距離をとる。

「クロヱ、話は後にしておくわ。機構共有って言って!!」

「え、でもブッチョを―――「それは後!! まずはコイツを!!」

後ろからで閼伽子の表情は見えなかったが、必死に押さえ込んだような声だった。刀は少しだけ震えている。ブッチョのほうを見たが、安否はわからない。それでも、だからこそ俺は頷いた。

「機構共有!!」

彼は余裕綽々な様子で紅茶を啜ってニマニマしている。新しい、興味深い、ゲームの発売日を待つような目線で。早くしてくれよ、そう言っている様だった。

「よし……クロヱは千代ちゃんと理高あやたかの方に逃げてて!!」

 待ち侘びたよ、と目で言う彼。アンティークなテーブルとイス。更には茶菓子まで取り出して紅茶を啜っていた。

「終わりました? そうそう、これいい紅茶なんですよ? 飲みます?」

いるか、と言って閼伽子が飛ぶ。彼はHmm...と唸り髭をモシャモシャと弄くる。一度鞘に収めた刀を抜き出し、そのまま彼へ向かわせる、居合い。体を通り抜けると知っているのに閼伽子はそれをやろうとする。意味がない、と叫ぼうとしたら、鈍い衝突音が図書館に響く。

「これは……ほぉ」

彼がテーブルを片手に持って刀を受け止めていた。閼伽子はやはり、と笑い、今度は突く。テーブルを掻き分け、出てきた刃を、今度は茶菓子を載せていた皿で受け止める彼。その少し落ち着かない彼の表情を見て直感した、いけるんじゃないか。

「おっとと……不味いね……」

皿にも亀裂が生じてきて、彼が力負けして、押されてきた。閼伽子が笑い、一気に刀を引く。閼伽子は前のめりになった彼に、引いた回転を加え一気に彼を斬る。

「うっ!! これ高かったのに!!」

 背中を斬られ、その場に倒れこんだはずの彼が俺の目の前に出てきた。俺のことなんて全く気にしていないようすでタキシードに頬擦りする彼。

「全く、君のせいですよ?」

タキシードから出来てきた彼の顔はもの凄い怒気を感じられた。それだけで倒されしまうのではないかというくらいの眼力は、僅かに意識のある燈明、ブッチョをも捕らえ、二人も俺と同じようにガクガクと震わせる。

「殺すぞォ?」

芸人が、ネタで言うような感じのトーンで首を傾げる彼。右手を振り上げ、俺たちに狙いを定める。

 彼の攻撃に反応するかのように、俺のポケットに入った札が光る。そこから壁が飛び出たかのように、彼が吹き飛び、周りの本棚と本も飛ぶ。

「ッッッッッッッ!!!! このクソ餓鬼!! ぶっ殺してやる!!」

ナイスミドルを軸に漂わせていた魅惑のフェロモンは、悪鬼羅刹の怒声へと変わり、紅茶を少々嗜んでいます、なんて微塵も感じさせない拳からは握りすぎて爪が食い込んだのか、血がボタボタと垂れている。

 此の世の物の限界を感じさせる叫び声と共に彼が走ってくる。もう終わった。そう思ったときだった。

「待ちなさい、馬鹿」

ズダダダと本を掻き分け彼がヘッドスライディングでボーリングをしたように大袈裟に転ぶ。俺と、ブッチョは唖然とした。

 何が起こったのか、いまだにその状況がわからずに、え? え? とリアルに言ってしまう俺たち。すると、俺の後ろにいた燈明がプププと、次第に我慢できなくなってきたかのようにボリュームを上げ、仕舞いにはブワッハッハッハと腹を抱えて笑った。

「え? え? どういう……」

「いやぁ、そうだ、そうだよなぁブッチョ。そりゃあ驚くわ」

燈明が、何事もなかったのように立ち上がり、彼の背中に座り込む。よく見ると、彼の足元には閼伽子が立っていた。


+++

 

 俺たちは第二司書室で紅茶を啜っていた。人数は先程より少ない五人だが、知らない、というよりはよく分からない奴が一人。

「で、どういうことだよ。閼伽子」

まだ腹を抱えて大声で笑っている燈明とうみょうを無視して閼伽子を問い詰める。

「そうね。結果を言うと、これは模擬戦でした、ってことね」

「模擬戦?」

「最初に私が言ったことは? 千代ちゃん」

「あ……えっと、人外のものに慣れる?」

「そう。でも私は、あのケムリとかを出すとは言ってないわよ、ね?」

「それで?」

「クロヱはセッカチねぇ。……それで彼の出番ってこと」

閼伽子がナイスミドルを指差した。彼がそれに気付いてこっちに歩いてくる。

「この人は―――」

厳兵衛げんべえと言います。宜しく」

爽やかな笑顔と共に握手をする厳兵衛。英国紳士みたいな容姿に負ける、至ってまともな、数世代前の日本名だ。ギャップで笑いそうになる俺と、すでに爆笑するブッチョ。

「厳兵衛って、名前負けやばいって!!!! アッハッハッハ」

止めようとする閼伽子を往なす厳兵衛。

「確かにそうだねぇ。でもこれは本名じゃあないから安心して」

「アッハッハ……ふぇ?」

閼伽子が割り込んで話す。

「話はそれるけど、人外に慣れてもらうって事で、今回参加してもらった厳兵衛だけど、彼が私達、「夜衛」の頭目よ」

「頭目? ボスってこと?」

「そう、ちなみに厳兵衛ってのはこの夜衛の頭目に与えられる、まぁ称号みたいなものですね。私のことはチャーリーやらマクガイヤーとでも呼んでくださって結構です」

「で、その厳兵衛ってのが何で必要なんだよ」

「それは、お前達が禍と対峙するのにはまだ早いからだ」

そういって部屋に入ってきたのは渓原だった。

「やあ、渓原。ご苦労様です。……何が? 今回のミッションの発案者は渓原なんですよ。いやぁ、学生に優しいというか、なんと言うか。おぉ、渓原、そんな怖い顔をしないで」

渓原が真赤な顔で厳兵衛の胸倉を掴む。

「煩い。こいつらに死なれたら研究がパァになる。それが防ぎたいがタメだ」

「サッスガ、ツンデレオヤジノタニハラセンセイハワタシタチニデキナイコトヲヘイゼントヤッテノケルソコニシビレルキモチワルイ!! うぉっ、そんな怖い顔しないで」

閼伽子が後ろから茶々を入れるが渓原の拳骨が額に飛ぶ。目尻に涙をためて、額をさする閼伽子。渓原の顔はまだ真赤だ。

「うぅ……それで、模擬的な戦いをしたってこと、厳兵衛の得意技は幻覚を見せることだから、それが丁度いいのよ」

「へぇ……」

「ちなみに、厳兵衛には専用の面があるのだよ。普通の、功徳くどく君達が持ってる模様入りの面とは違い、真白な面をね」

「面には、個人の力を増幅させるほかに、生命維持や防護をこなす力がある。お前達のような餓鬼にはぴったりだ」

そういって、渓原は懐から二枚の面を取り出した。

「これは……」

「お前等の面だ。任務があるときは着けとけぇ? 渓原先生のお手製だぞ? 愛情たっぷりのな」

燈明とうみょうが笑ったところで、丁度渓原の堪忍袋の緒が切れたようで燈明の顔面に、見事な渓原のライトストレートが入る。そして、テンカウント。渓原ってみんなが言うようにツンデレキャラ?

「渓原……アリガト……」

空気を読めるのか否か、ブッチョが小声でぼそりと言った。フン、と言って部屋を出た渓原の後姿は妙に軽やかで、扉が閉まって十秒後位に、いやっほおおおおおおうっっ!! と叫び声が聞こえたのは多分気のせいに違いない。

 それじゃあ、クロヱ達はもう帰ってなさい、と閼伽子に言われ、俺たちは帰路についていた。ブッチョが厳兵衛にやられたはずの傷は厳兵衛の幻覚らしく、街頭の明かりでだが、見た感じは、行くときの格好と変わりなかった。

「……なんか、アタシたち、凄いことに巻き込まれてない?」

途中で買った缶入りの炭酸飲料をシャカシャカ振りながらブッチョが言った。

「……おう」

炭酸飲料から発せられる恐怖感からか、俺は曖昧な受け答えしかできなかった。それを聞いてブッチョはムカついたのか、プルタブを開け、簡易水鉄砲で俺に中身を当てる。

「うぉおっ!! 冷てっ!! なにするんだよ!? ……って」

街頭の光の下で、中身がブッチョにもかかったのか、ブッチョも顔がビチャビチャになっていた。

「クロヱ……クロヱが責任感じなくていいんだよ? 元々はアタシが無理に言ったからなのに」

「あ……あの、そうじゃ……」

沈黙が数秒ほど続いた。パンツの中にまで入った炭酸のシュワシュワなんて、全く持ってどーでもいいくらいに。

「クロヱ」

「え? はいっ!!」

思わず、はい、なんて言ってしまった。それを訂正しようかアタフタ考えている俺を見て、ブッチョはクスリと笑い

「はぁ、言う気失せたわ」

「はぁ?! 最後まで言えよブッチョ」

「もーいいの!! そんな事より、久々に一緒にご飯食べよ」

そう言って、ブッチョは俺の手を引っ張った。夜の月は微かだが、精一杯に光っているんだと思う。

 閼伽子は、厳兵衛と共に第二司書室にいた。月明かりは届かないくらいに部屋は明るかった。

「やっぱり、機構共有なんて嘘だったのだね。功徳君」

「はい。ですが、クロヱの機構は私の刀に入り込んでいたかと」

「ふむ。未知の力。六ツ目ということですか。金の元素ということは?」

「今のところは断定は難しいですね。共有をしていなくても、アレだけの距離を超えて他に影響を及ぼすのですから……」

「そうですね。私のアレといい、君も刀といい……それにあの本。瘴気を具現化というのも……」

「ケムリと関係が……?」

「それこそ、不明瞭でしょう。我々のスペシャリテじゃ無い。あとは『新編 現代の陰陽道 第803版』さえ見つかれば……」

「それは、門番に捜索させて降ります」

冨士原ふじわら君から原書を取り出せられればいいのですけどね」

「厳兵衛は同じ経験をされているのでしょう? できるのでは?」

「……考えておきましょう。それでは、紅茶なんていかがですか?」

はい、と閼伽子が紅茶を啜る。彼女の鼻が、懐かしい香りを思い出す。

「それじゃあ、任務へ向かいましょう」

 彼等は面をつけ、闇夜へと駆ける。夜を衛るために。

「クロヱ……か」

http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=18601721 この話の絵を書きました。

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