1話
PIXIVで絵をかいてます。
この小説のイラストとかも書いているんで、良かったら見てください。
http://www.pixiv.net/member.php?id=2617648
やっぱり、こう、思う。
とりあえず聞いてほしい。
聞いて下さいよ。
序文
本書は護身から殺法までの大変幅の広い科学についての教科書、参考書として記されたものである。
我々が陰陽道を学ぶ目的は、自然に対しての科学的な見方、考えを身につけると同時に人としての道、存在を知り、並びに学ぶ為の基礎を築き、養うことである。
現代は科学技術の時代といわれるが、この考えはこの本の初版、即ち1039年当時には定着していなかった考えで、その考えは幕末前後と考えられている。
この科学は物質を通して霊魂、気、脈を反応させ技術発展に貢献するものである。新しい知識は、新たな技術と結びつき、新たな技術は、新たな反応を見出す。
将来、この道を歩む者は、どのような分野を進むのであれ、科学技術により見出された方法に接して、そして各種プロセスに関わる限り、根底五行科学としての陰陽道の知識は必須である。従って、本書の陰陽道の内容は現世での単なる教養の科学以上のものでなければならないと考える。
このたび大黒出版の申請もあり、現世で実際に陰陽を教えている多数の先生方のご協力により、一般大衆対象の最適で、最新の内容を含む陰陽教科書を上梓できたことはまことに幸いである。
本書の編集にさいしては、多数の先生方のご意見、ご要望と、環境省超自然対策本部直轄対策指南方法改善専門委員会陰陽道部会の報告書の提言をできる限りに考慮をし、反映をさせたつもりである。即ち、一般大衆検定教科書の内容を骨子として網羅した上で、超自然物質分析、新術法、国外超自然対策術法などの最近の技術の進歩を紹介する章を設け、更に幽子構造や、霊体力学などに関する少し程度の高い内容を参考として小活字て平明に記述した。また、大衆が陰陽に興味を持つように各章のはじめに簡単な行なえ、教育効果に大きいと思われる演示実験を記載した。
読者諸君等が、本書を通して技術者として必要な陰陽の知識の基礎を修得し、また陰陽の面白さ、重要さ、並びに日々の生活を安全に過ごせるようになっていただく事を願っている。
平成4月1日
監修者 土 御 門 双 厳
* * *
はじめはやっぱり冗談だと思った。
「手の込んだ悪戯だなぁ」
と、開口一番には言った。それと同時に吹いた。
誰だって学校の図書館の最奥の棚の一番上から2番目、したから13番目、右から1冊目、左から……とりあえず沢山目の本が『新編 現代の陰陽道 第803版』と書いてあったら目を引くだろう。
そして手にとってその内容を読むことであろう。
そして一通り目を通したら最初の1ページ目を読んで先程述べた文章があったら、少なくとも疑うだろう。
だって四月一日ですよ?
エイプリルフール、直訳で四月馬鹿ですよ? 場所が場所なだけになまじリアルだし。
これは騙す気があるのかすらも疑いたくなる。裏の裏を書いて実は裏。え、実は表だったんですか? と、みーせーかーけーてー実はー……って『実は』って何度言ってんだよ、ってすかさずタイミングを逃して正解は騙さずこれはリアルなんだよって可能性もゼロじゃあない。
「でも……陰陽師だよね」
時刻は夕方5時。適度に夕陽らしさを醸し出してるオレンジ色の日差しが広大な図書室を包み込んでいる。
この図書室の中に人は多分、ギリで2桁。図書委員である俺等が4人。
放課後のステキイベントに期待してなのか、もしくはそれを諦めているのか、物好きな本大好きっ子共がポツポツ。人口密度はカナダとタイマンが張れる程だ。
こんな中で、凄いものを見つけたんだ見てくれ、『新編 現代の陰陽道 第803版』だ!! と、ナイステンションで真正面からぶつかれる程に友人度が高い奴は、この図書室にはいない。そこで俺はこの本を借りることにした。しかしここでトラブルが起こった。背表紙にある赤いシール。貸し出し禁止を意味する印である。
いつもならここで諦めるはずだった。だが、なぜが引くに引けない。
めっちゃネタになる。
そう考えていたのだろうか、この本がまるで土砂降りの雨の中でずぶ濡れになった目力抜群のチワワのようだった。……なんか、気になる。ほっとけない。
どっかのコマーシャルメッセージのバックグラウンドミュージック、略してどっかのCMのBGMが頭の中で3回リピートした頃だった。
「あ……そだ」
俺の中で悪魔の計画が発生した。
こっそり、お借りしようと考えた。
ポン、と肩を叩かれた音がした。瞬時にビクゥッ、と首が消えるほど肩を上げ驚く。情けない声も上げてしまった。後ろを振り返ると同じ図書委員長の冨士原が立っていた。
「しー、デカイ声出しちゃダメだ。どうした仕事は、クロヱ」
人差し指を口元に添え、可愛らしい小さな口を、めいいっぱい横に広げ注意する彼女は超可愛い。
「あ、すんません、ブッチョ」
ちなみにブッチョというのは彼女のあだ名だ。決して仏頂面からブッチョと連想されているのでもなく、彼女は図書委員会の委員長をしてるだけでなく、郷土歴史研究部の部長もしているので、部長から、彼女の名前の千代と混ぜ合わせてブッチョ。
イッチョと悩んだが、彼女が、かの黒い魔術師ことアブドーラ・ザ・ブッチャーの大ファンから、彼女の要望からもブッチョに落ち着いたわけである。勿論彼女の好きな曲はピンクフロイドの吹けよ風、呼べよ嵐である。この曲を聴いていたときの彼女テンションの高さときたら……言葉じゃ足りない。
「あれ、その本。珍しいね、クロヱが学校の本に興味を持つなんて」
ブッチョが気付き唇にあった人差し指を本に向ける。
「あぁ、そうそうさっき隅っこで見つけたんだよ。妙に気になってね」
「ふーん、でもそれ、貸し出し禁止だよね?」
「そうなんだよね。それでどうしようか悩んでたんだよ」
「って、そこで悩まないでよ。貸出禁止なんだから」
「あ、ばれた?」
「ばれた。ってかバレバレよ」
「うーん。ここで読もうって選択肢が無い俺はどこで選択ミスったんだろう?」
「たぶん、産婆さんの選択からでしょうね」
「最近は基本、産婦人科の方々だろ。産婆ってなんだよ」
「あたしは産婆派よ? 知らないの? 人の運勢は産婆で決まるのよ? 産婦人科なんて、産婆の
マジカルパワーに比べたら……クロヱの運勢ダダ下がりね」
「おめぇ、産婦人科に謝れや。なんだよその迷信」
「クロヱの持ってるその本だって迷信感マックスじゃない」
『新編 現代の陰陽道 第803版』がブッチョに引っ手繰られた。本の内容はどうあれ、落ち着いた感じの美少女で、いかにも図書委員という感じの彼女には、夕焼けに染まった図書室で読書をする光景は様になっていた。これが推理小説やら、エッセイなどならもっとこの光景は素晴らしいものになるのだろうが、これがオカルト本で、ましてや彼女も真顔で読んでいるので、なんというか……シュールだ。
数ページをペラペラめくって、パタンと音を立てて本を閉じるブッチョ。
「なかなか……面白いわね。これってエイプリルフール?」
ブッチョが笑う。バカにするような笑いじゃなくして、面白いものに出会ったときに浮かべる笑みだ。そこらの男子学生ならこの笑顔で恋をしるのだろうが、幼少の頃からの腐れ縁であり、彼女の素顔を知る俺個人の意見では、まだ惚れない。まだまだ惚れない。
「どーだかまだわかんねぇんだよな。なんか……微妙にマジっぽいし」
すると、あー、とブッチョも頷く。なにか思い当たる節があるようだ。すると、また不敵な笑みを浮かべるブッチョ。こういうときはブッチョに限らずに、約9割の人類はNGな考えをしているときにする表情だ。
「んだよ。その顔……」
「じゃあさ、その本、貸し出そうか?」
「え……いいの? ってか、怖いんだけど」
もちろん、条件はあるよ? と、彼女が言った。気が付くと図書室には誰も人がいなかった。
なんで、あの時この本を借りたのだろうか。そうすればあんな事にならなかったのに。
あの時の俺の右手には『新編 現代の陰陽道 第803版』と、ちょっとの不安と、いっぱいの期待が握り締められていた。