ママ
「ママ、もうお昼よ、ごはんはまだかしら」
「そこにあるでしょう」
くさい。女になればつく匂いってやつかしら。自宅を指すにはちょっとおかしいけれど、割と小奇麗なこの家になんでこの女が住んでいるのか、もう何年も謎のまま。
「またわたしにこんなものを食べさせるつもりなの?」
「うるさいわね、クソガキ」
「親らしくしなさいよ」
お皿にゴトンと固い麺を落として熱湯に浸す。この女がほんとうにわたしのママなのかわからない。だけど毎週変わるパパに比べたらよくこの家にいるから、まあママなんだろう。最近知り合って、性格もあわなくて、下品で媚しか売れない。わたしは、そんな女じゃないから、この女がどうして今までわたしを放っておいて今さらここへ帰ってきたのかわからない。でもたぶんお婆ちゃんが死んでしまったからだろうと、そんな気もする。身内はお婆ちゃんしか知らなかった。その人がわたしの家族だった。
「親らしくってねえ」
「シャワー浴びてよ、あの男の匂いがする」
「今更親なんてなれないでしょう、あたしのも作って」
だるそうに息を吐きながら言った女はソファから起き上がって浴室へ行った。もうひとつ、カップ麺をつくる。わたしがいつでも、ふつうの十七歳でいられるママが欲しい。