序章
ボクは小学5年生――やんちゃな盛りの都会の小学生。
都会といっても、今のそれとは違う。
あの頃、都庁がまだ丸の内にあり、上野動物園にはパンダを一目見ようと長蛇の列を成していた時代。僕の住んでいた町は、東京の山の手と下町のちょうど中間あたり。ボクらの遊び場所は、町の公園、お寺や神社の裏手、アパートの屋上、時には休日の町工場なんかに忍び込み、ささやかな悪事を働いたこともあった。
小学5年生という時期は、子供から少年そして青年と成長してゆく過程において『出発点』或いは『分岐点』みたいなものかもしれない。少なくともワタシにとっては、そういう時期だった。
まじめに働く両親の下で育ち、どこに行くにも着いて来る2歳下の弟がいた。「長男としての責任感みたいなものを感じ始めたのは、妹ができてからだったな」と、酒の席で弟と話したのは、ワタシの結婚式の前日だったか。ワタシが小学2年のとき、体が弱かった母が、無理をして生んだ妹が『赤ん坊』という人の手を借りなければ生きていけない状態で我が家に訪れたとき、しっかししなきゃいけないと思ったし、小学5年の頃には、妹を保育園まで迎えにいったこともあった。
学校の成績は『普通』であり、特に担任の先生に心配をかけることもなければ、期待をかけられるようなこともなかった。学級委員の下の副委員という役職は、そういう存在の象徴のようなものかもしれない。
ごく周辺の大人たちの期待に、表向きは応えながらも、いたずら好き、冒険好きの少年らしさ、子供らしさを持て余す5年生。学校で頭が上がらないのは最上級生の6年生。だけど『最上級生である』という責任感がない分、小学校生活の6年間で『最高に自由な時期』である。
『自分が何をしたい』ということと『何ができて、何ができないか』と『何が許され、何が許されないか』ということの区別がつきながらも、少年の心は、いつも自由で、わがままで、遠慮がなかった。
それが『小学5年』だろう。