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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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魔法少女仮免許

作者: Crosis
掲載日:2026/09/03

「お嬢!! 行ってらっしゃいませっ!!」

「「「「行ってらっしゃいませっ!!」」」」

「…………行ってきます」


 スーツを着た屈強な男性たちが玄関から門までずらっと並んで挨拶をしてくる。

 そして門の前には黒塗りの高級車が止まっており、運転手がドアを開けて待っている。

 これだけで私が由緒ある魔法少女の家系、氷室家の娘であることが分かるだろう。

 

 嫌になるし、ただただ恥ずかしい。


 なんで私は魔法少女、それも四大魔法少女の一つである家に生まれたのだろうか。

 小学生時代は友達もいたのだが、私が有名な魔法少女の娘という意味を理解できる年齢になるにつれて友達は一人、また一人と少なくなってきて中学校を卒業する頃には一人もいなくなった。


 市民をスレット(化け物)たちから護って来たお母さんは確かに立派で尊敬しているけど、だからといって私が魔法少女を継がなければならないみたいな空気感も嫌いだ。

 

 だから私は、私の事がまだ知られていない遠くにある高校へ通う事にするのだが、毎回黒塗りの車で送られてしまっては意味がないではないか。

 因みに今通っている高校は実家から来るまで四時間なのだが、離れの別荘が近くにある為に選んだ。


 今現在高校二年生、まだ魔法少女の娘だとバレてはいないが、上流階級のお嬢様だと勘違いされてしまっている。

 四大魔法少女の娘だと思われるのよりかはマシだが、それでもベクトルが違うだけで近寄りがたい存在であることには変わりない。


 私だって、人並みに友達と遊びたいし、人並みに恋だってしたい。

 なんなら今好きな異性が居ない事もないのだが、それを身内の前で言ってしまったらどうなる事か、想像するだけで恐ろしい。


 四大魔法少女の娘の場合は『腫れ物に触る』『機嫌を損ねたらいけない』などという感情も含まれているのだが、金持ちの娘であれば『金持ちの一般人』として対応してくれるので、同じように見えて全然空気感が違って過ごしやすい。

 なので私は出来るだけ彼ら彼女らの理想像を壊さないために日々お金持ちの令嬢としての皮を被って生活しているのだ。

 

「あっ! 山城様よっ!!」

「今日はなんていい日なんでしょうっ!」

「山城様とお会いする事が出来るだなんてっ!」

 

 そんな事を考えていると私の思い人である山城君斗真が私に続いて校舎の門をくぐるではないか。

 これは、私がもう少し歩む速さを緩めれば疑似的に『一緒に登校している』という雰囲気を味わえるのでは? と思うものの思うだけにとどめる。

 そのせいで変な噂が流れてしまっては山城君に迷惑をかけてしまったりしたら申し訳なさで顔を向けれなくなってしまうから。


 それに、私は卒業するまで魔法少女の娘だと隠し通すと決めているのだから自分から正体がばれてしまうような事をするわけにもいなかい。

 しかも噂によると山城君は魔法少女が嫌いらしいので猶更である。

 私が彼に興味を持ったきっかけは単純で、ある日河川敷に捨てられた子犬を抱いて拾って帰ったのを見た時からである。

 あれ程容姿に恵まれて文武両道で性格まで良いという、そんな完璧超人がこの世界に存在するのかと、衝撃を受けた事を今でも覚えている。

 

 同時に私とは住む世界が違う人なのだろうと思った。

 だからこそ私の恋は高校で終わり、見るだけの恋。

 

 既に私はこないだの試験を無事に終え、魔法少女仮免許を手に入れている。

 次の試験を合格したら無事国家魔法少女となるだろう……。


 高校時代は魔法少女である事を隠せても卒業後まで隠しきる事はできないだろうから……。





 そう思っていたのだけれど、何で私は今山城君くんと一緒に買い物をしているのだろうか?


「ごめんね? 氷室さん。 俺の買い物に着き合わせちゃって。それに迎えの人も心配するんじゃ……」

「大丈夫よ、気にしないで。それにこの後何も予定はないもの。それに、迎えの人にはお迎えの時間の変更を伝えたわ」


 嘘である。

 迎えの者達は今私を雑な変装で尾行しているし、このあと家に帰ってドラマ難波のドンスペシャルを生で見る予定だったのだけど、これら山城君くんとの買い物と比べたら些末なものでしかない。

 比べるのも烏滸がましいという奴だ。

 それが例え生徒会の買い出しの手伝いだったとしても。


「そう? でも助かったよ。ちょっと一人だと荷物が多すぎて二回に分けて行こうか迷ってたんだ」

「ふふ、この程度であればいつでも呼んでくれて良いわよ?」


 えぇ、本当に。いつでも呼んでもらって良いし、何も無くても呼んでも良い。

 だけど、そう思うだけで魔法少女の娘の私は思うだけに留め、この感情を制御しなければ、万が一付き合えるような間柄になったとしてもお互い不幸になる未来しかない。


「お嬢……」

「くっ、あの野郎! 俺たちのお嬢に色目使いやがってっ!


 そんな事を思っていると、何か雑音が聞こえてくるのでスマホで『うるさい。邪魔するな』と送る。


 まったく、私が氷室家の娘だからといって過保護すぎるのよ。



◆犯罪者組織side



「今日は作戦結構の日だからテンション上がるぜ」

「お前は作戦だとか関係なく人を殴れれば何でも良いんだろう?」

「ちがいねぇっ!!」


 とあるビルの中で複数人の男性が装備を手入れしたりしながら会話をしている。

 その空間は、ピリついてはいるもののどちらかと言えば祭りの前日と言うような雰囲気さえある。


「何人殺そうかな?」

「殺すなとは言わないが、あまり殺すんじゃないぞ? 殺すんじゃなくて足を折る程度にしろと言われているだろう?」

「はいはい。怪我している人間の数だけ助けなければならないから相手の動きが鈍くなるってやつだろう? 分かってるって」

「だと良いんだがな」


 そんな感じで賊共が話していたのだが、何かを察したのか急に話すのを辞めて静かになる。

 そこには先ほどまであった祭りの前日のような空気感はなく、ミス一つで死んでしまうかのような緊張感かつ鉛のような重い空気へと変わる。


「「「「お疲れ様です」」」」


 そして次の瞬間、部屋のドアが開かれると一人の男性が無いって来る。


「良いか? お前ら。 ついに明日魔法少女どもに復讐を、そして日本を牛耳る時だ。気張っていけよっ!!」

 

 するとその男性は入って来ると賊共を見渡した後、そう叫ぶように話すと周囲にいた賊共が呼応するように雄叫びを上げるのであった。



◆氷室side


 

 山城君とショッピングモールで買い物をしていると、なんだか周囲の空気がピリついて来ているのが伝わってくる。

 客の中に、変に緊張し散るよな者が異様に覆い気がしてならない。


「どうしたの? 氷室さん」

「な、何でもないわっ!!」


 そう思ったのだが私の悪い癖、魔法少女として辺に周囲を気にする癖が出てしまったようだ。

 今は折角山城君とデート(っぽい買い出し)中なのだ。

 魔法少女としてではなく一人の女子高生として山城君との時間に集中するべきだろう。

 そう思ってみたものの、意識すればするほど緊張して何を話せば良いか分からなくなる。

 先ほどまではあんなに話せていたのに、意識しただけで急に話せなくなる私はいくらなんでもコミュニケーション能力低すぎるだろ……。


「あ、あのっ!! 山城君っ!!」

「どうしたの?」

「山城君は魔法少女についてどう思うっ!?」


 って、私は何か言わなきゃとテンパった結果最悪な会話ネタカードを使ってしまたっわっ!! わたしは馬鹿なのかしらっ!?


 そう激しく後悔するも言ってしまった手前無かったことにするのはできない。

 ただ審判の時を待つだけだ。


「魔法少女……ね。そうだな──」

「あ。興味無かったら全然!! 全然全然答えなくていいからっ!!」


 魔法少女と発した声音で直感的に理解した。

 だが、山城君は続けて話す。


「──街を守ってくれているのは感謝してるけど、ちょっと怖いかもな」


 あぁ、だから私は魔法少女を隠したいんだ。

 中学生の頃の感情、今の高校を選んだあの時の感情がフラッシュバックする。


「ははは……そ、そうだよね……」


 ここ最近は今の、私の事を誰も知らない環境に慣れ過ぎて忘れかけていた感情が私を襲う。

 私が魔法少女を諦めようかとさえ悩んでいる理由。


「きゃぁっ!! スレットが何でこんな場所にいるのっ!?」

「うわぁぁああっ!!」

「くははははははっ!! 逃げ惑え愚民共っ!! お前たちの恐怖心がエネルギーの糧となりスレットは強くなるのだっ!!」


 そんな事を思っていると、どこかでスレットが現れたのか周囲の人たちがパニック状態になり、大人たちの悲鳴や子供たちの鳴き声、逃げ惑う人々によってまさに阿鼻叫喚な光景が広がっていた。

 そして、そんな人たちをあざ笑う、スレットを召喚したであろうテロ組織集団の笑い声。

 アイツ等は、お母さんが潰した悪の組織の一つだたはず……。まさか残党が残っていたなんて。


「そ、そうだっ!! や、山城君はっ!!」


 急な展開に山城君の存在を忘れていた事を思い出し、周囲を見渡すと、そこには足が折れてへたり込んでいる山城君の姿が目に入ってくる。

 近くに勤務している魔法少女が駆けつけてくれるまでの猶予は……っ!? 

 足が折れた山城君を担いで逃げるにはどうすればっ!?


「俺は見た通り足手まといになるから……氷室さんだけでも逃げてくれ……っ」


 山城君は私を見つめ真剣な表情でそう言う。


「ごめんさない、山城君。それは出来ないわ」


 頭でどうすれば良いかごちゃごちゃ考えていた事が、山城君の言葉で全て吹き飛んで行った。

 

「……な、何でっ!?」

「今まで隠して来てごめんなさい。わたし、魔法少女仮免許を持っているの」


 本当は魔法少女なんかなりたくない。

 友達に距離を置かれ見えない壁ができるのが嫌だった。

 歴史だとか代々魔法少女の家系だとか母親が有名な魔法少女だったから等『魔法少女になるべくして生まれた』という外圧もうんざりしていた。


「氷室さんが……魔法少女……っ」

「そう。っていってもまだ仮免許だけどね。本当は、魔法少女目指すの止めようかなって思っていたんだけど……」


 私はここで一度言葉を止めて山城君を見つめる。

 

「好きな人を救える力を持っているのに、私だけ逃げるような人間にだけはなりたくないの……っ!!」


 そう言いながら私はスマホを取り出して魔法少女アプリを開き認証コードとフェイスIDでパスをアンロックする。

 するとスマホが仮免許を認証して画面から私の魔法の杖が出てきてそれを手にして変身をする。


 あーあ、魔法少女が苦手な山城君にこの姿見られちゃったな……。

 きっと、この恋の可能性は無くなっただろう。

 だけど、心は何故かスッキリしている。


「氷室さん……っ」

「今まで騙していてごめんなさ──」

「違うっ!! 違うんだっ!! じ、実は俺魔法少女が大好きなんだっ!」


 山城君はそう言うと鞄の中から私のお母さんのグッズを複取り出して私に見せる。


「だけど、男で魔法少女が好きだとか、良い歳して魔法少女がすきだとか中学時代からかわれたのが嫌で、誰も知り合いがいない高校に行って、自分を騙して皆を騙していただけだなんだっ!! だから、その……俺の方こそごめんなさいっ!!」

「…………」

「だから、俺が言える立場じゃないけど……氷室さんのカッコいい魔法少女の姿を目に焼き付けさせて欲しいんだっ!!」

「……任せてっ!!」


 好きな人にここまで言われて力が出ない訳がない。

 今日は、私史上一番絶好調だと断言できる!!


「ほうほう、これはついてるな。まさか魔法少女仮免許のガキが混じっていたとは。お前をスレットの養分にしてくれるわっ!!」

「恋する乙女を……舐めないで欲しいわね……っ!! 宇宙の星屑となりなさい!!必☆殺!!【A feast of glittering stars(きらめく星々の宴)】っ!!」

「は? え? あぎゃぁぁあああああっ!!!!」


 私の必殺技を喰らったスレットは爆発し、その爆風でテロ組織の男性は断末魔を上げながら吹き飛んでいく。

 まだ私が対処できるレベルまでにしかスレットが成長していなくて良かった……。

 




 あれから一時間、私は現場に来た警察と魔法少女たちから現場の状況を聞かれやっと解放された。

 事情聴取を受けている間、私に感謝してくる者達や、安堵の表情をする者、嬉しそうに抱き合う者達の姿を見て、私と同じ環境に生まれたお母さんやおばあちゃんたち、そのまた先祖たちが何故代々魔法少女になる事をえらんできたのか、何となく分かった気がした。


 私はあの人たちの笑顔を守れたのだ。

 そして私の大好きな人も。


 そこでわたしは気付く。


 え? わ、わわわわわわ、私……勢いで山城君に告白してしまったっ!!

 どどどどど、どうしようっ!?


 因みに山城君は救急車で運ばれており、既にこの場にはいない。

 今この場にいたらと思うと想像しただけで恥ずかしくて悶えてしまいそうになるので、いなくて良かったと思うのであった。



◆



「おはようっ!! まさか氷室さんが魔法少女だったなんてねっ!!」

「今日のSNS、昨日のニュースで大盛り上がりだよっ!!」

 

 正体がバレた私は、きっとまたせっかくできた友たちとも距離を置かれるのだろうと思っていたのだけれど、そんな私の悩みなど杞憂だと言わんばかりに友達たちは大盛り上がりである。

 その点については杞憂に終わって良かったのだけれど、私にはもう一つの不安の種があった。


「あ、山城君だっ!!」


 その不安の種が、教室に入ってきたのか友達の一人が私の思い人の名前を呼び、心臓が跳ね上がる。


「お、おはよう……山城君」

「氷室さんっ!! まさか氷室さんのお母さんがまさかあの伝説の魔法少女だった氷帝の魔女だったなんてっ!! 俺大ファンなんだよっ!! も、ももももしよかったら家に行って良いかなっ!? あ、急に異性にこんな事を言われてキモイよねっ!? そ、それが無理ならさ、サインとか──」


 どんな表情で会えば良いのだろうか? どんな会話を、そもそも何事も無かったかのようにすれば良いのか?

 などなど考えていた私の事などお構いなしに山城君は松葉杖を使って私の所まで一直線にやって来ると矢継ぎ早に話しかけてくるではないか。


 鞄をみると私のお母さんの缶バッジがびっしりと付けられているのが見える。

 正直言ってドン引きである。


「……もう、自分の好きを偽るのを止めたんだ。氷室さんのお陰だ。ありがとう」


 私の視線に気付いたのか、山城君はそう言いい笑う。


「……ど、どういたしまして」


 それに私はぎこちなくそれに返す。


 取り敢えず、次に倒すべき敵はお母さんのようだと、打倒母親を心に誓うのであった。


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