表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽聖女だからと婚約破棄され、国外追放された私ですが、実は唯一神の愛し子でした  作者: jnkjnk


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/8

偽聖女の末路〜「私がヒロインよ!」と信じていたのに、気づけば汚い地下牢で、王子様ではなくネズミとお喋りしていました〜

シャンデリアの光が、私の可愛さを引き立てるために輝いている。

今日の主役は、誰が何と言おうと私、ミア・キャンベルだ。

王宮の大広間、煌びやかなドレスに身を包んだ貴族たち。

その誰もが、王太子フレデリック様の腕に抱かれた私を、羨望の眼差しで見つめている。


「ふふっ、最高の気分……」


私はフレデリック様の胸に顔を埋め、上目遣いで彼を見つめる。

彼は私の頭を優しく撫でてくれた。

この甘いマスク、王族という地位、そして私を何よりも優先してくれる従順さ。

合格よ。

私のパートナーにふさわしいわ。


それに比べて、あそこに突っ立っている「元」婚約者は何なの?

公爵令嬢のエリーゼ様。

地味で、暗くて、愛想笑いひとつできない陰気な女。

「聖女」なんて呼ばれているけれど、ただ祈ってるだけでしょ?

私みたいに可愛くもないし、殿下を癒す言葉もかけられない。

そんな女が王太子の婚約者だなんて、物語の配役ミスもいいところだわ。


「エリーゼ・フォン・アイゼン! 前へ出ろ!」


フレデリック様の凛々しい声が響く。

さあ、ショータイムの始まりよ。

私は震える演技をして、殿下の袖をぎゅっと掴んだ。


「で、殿下……私、怖いですぅ。エリーゼ様にまた睨まれたら……」

「大丈夫だよ、ミア。私がついている。あの悪女は今日で終わりだ」


ちょろい。

本当にちょろいわ、この男。

私が「エリーゼ様にいじめられた」って嘘泣きするだけで、証拠も確認せずに信じ込むんだもの。

教科書を隠したのも、ドレスを破ったのも、全部私が自分でやったことなのに。


「貴様との婚約を破棄する! ミアこそが真の聖女だ!」


殿下の宣言に、会場が沸く。

私は心の中でピースサインをした。

勝った。

泥臭い努力なんてしなくても、可愛さと涙だけで、私はこの国の頂点に立ったのよ。


エリーゼ様は、最後まで可愛げのない女だった。

泣いて許しを請えば、メイドくらいにはしてあげてもよかったのに。

彼女は「後悔なさいませんね?」なんて負け惜しみを言って、さっさと出て行ってしまった。

ふん、強がっちゃって。

明日から野垂れ死ぬ運命のくせに。


「ミア、愛しているよ。君こそが私の光だ」

「私もですぅ、殿下ぁ」


私は満面の笑みで抱きついた。

これで邪魔者は消えた。

これからは、私が聖女として崇められ、贅沢三昧の日々が始まるのだ。

そう信じていた。

この世の春が、たった三日で終わるなんて思いもせずに。


***


エリーゼ様を追放してから、三日が経った。

その三日間は、まさに夢のような時間だった。


王宮のシェフが作る最高級のスイーツを食べ放題。

お抱えのデザイナーを呼んで、新しいドレスを作り放題。

公務? 祈り?

そんな面倒なこと、私がするわけないじゃない。

私はただ、ニコニコ笑って手を振っていればいいの。

だって私は「真の聖女」なんだから。


「ミア様、少しは聖女の業務を……」

「うるさいわねぇ! 私が笑顔でいれば、国民も元気になるでしょ? それが私の仕事よ!」


小言を言う神官を一喝して追い返す。

本当に、どいつもこいつも堅苦しいんだから。

エリーゼ様がいなくなって、お城の空気も美味しくなった気がするわ。


そう思いながら、私は王宮のテラスで優雅なティータイムを楽しんでいた。

目の前には、フレデリック様。

テーブルには、色とりどりのフルーツタルトと、香り高い紅茶。

美しい薔薇の花瓶。

完璧な午後。


「ミア、今日の君も輝いているね」

「うふふ、殿下ったら。もっと褒めてくださいな」


私がフォークで苺を口に運ぼうとした、その時だった。


グジュッ。


嫌な感触がした。

見ると、フォークの先にある苺が、ドロドロに溶けて崩れている。

え? なにこれ?

腐ってる?


「きゃっ! 何これ、気持ち悪い!」


私が皿を突き放すと、タルトのクリームに青カビがモコモコと生えていくのが見えた。

まるで早回しの映像を見ているみたいに。

それだけじゃない。

テーブルに飾られた美しい深紅の薔薇が、一瞬にして茶色く変色し、花弁がボロボロと崩れ落ちた。

腐った卵のような強烈な悪臭が鼻を突く。


「くさっ! なに!? 誰か、生ゴミなんて持ってきたの!?」

「で、殿下! 空を! 空をご覧ください!」


護衛の騎士が、狂ったように空を指差して叫んでいる。

うるさいわね、何よ。

私は不機嫌になりながら空を見上げた。


言葉を失った。

さっきまで真っ青だった空が、インクをぶちまけたように真っ黒に染まっていた。

太陽がない。

昼間なのに、夜よりも暗い、不気味な紫色が渦巻いている。


パリーンッ!!


遠くで、何かが割れる音がした。

ガラス? 鏡?

いいえ、もっと巨大な、世界そのものが割れるような音。


「け、結界が……消えた……?」


フレデリック様が呆然と呟く。

結界?

ああ、なんかエリーゼ様がやってたアレ?

そんなの、あってもなくても変わらないでしょ。

だって今まで、魔物なんて見たことないし。


「キシャアアアアッ!!」


その考えが甘かったことを、私はすぐに思い知らされた。

空を覆う黒い雲の中から、コウモリの羽を生やした悪魔のような怪物が、無数に飛び出してきたのだ。

ガーゴイル。

本でしか見たことのない、伝説の魔獣。


「う、嘘……何あれ……キモい……」

「ま、魔物だぁぁぁッ!! 城内に入ってくるぞ! 総員、戦闘準備!」


騎士たちが剣を抜いて走り回る。

悲鳴。怒号。

優雅なティータイムは、一瞬にして地獄絵図に変わった。

ガーゴイルの一匹が、テラスの手すりに舞い降りる。

石のような皮膚、血走った目、鋭い爪。

その目が、私を捉えた。


「ヒッ……!」

「ミア! 聖女の力を使え!」


腰を抜かした私を、フレデリック様が揺さぶった。

その顔は必死で、いつもの優しさなんて欠片もない。


「は、はい……?」

「結界だ! お前の光で魔物を追い払うんだ! お前は真の聖女だろう!?」


え?

何を言ってるの、この人。

戦うなんて無理に決まってるじゃない。

服が汚れちゃうし、汗かきたくないし。


「む、無理ですぅ……私、怖くて……」

「甘えている場合か! 今すぐやれ! 光を出せ!」


フレデリック様の怒鳴り声に、私はビクリと体を震わせた。

こんな怖い顔、見たことない。

仕方ない、ちょっとだけポーズをとってあげましょうか。


私は震える手を前に突き出した。

イメージするのは、私を一番可愛く見せる、淡いピンク色の光。


「え、えいっ……!」


私の手のひらから、蛍のような小さな光がポッと灯る。

ほら、綺麗でしょ?

これで満足?


「……それだけか?」


フレデリック様の声が低い。


「え? だって、いつも『綺麗だ』って褒めてくれたじゃないですかぁ」

「馬鹿を言うな! そんな豆電球みたいな光で、どうやって国を守るんだ! もっとこう、バーッとした凄い力はないのか!?」

「な、ないですけどぉ……! 私、光魔法なんてこれしか使えないし……」


私の言葉に、フレデリック様が絶句する。

え、何その顔。

まるで詐欺師を見るような目。


「き、貴様……。エリーゼより強い魔力があると言ったのは、嘘だったのか?」

「嘘じゃないもん! みんなが『聖女様だ』って言うから、そうなんだって思っただけだもん! 殿下だって、私のこと信じてくれたじゃないですかぁ!」


そうよ、私は悪くない。

周りが勝手に勘違いして、勝手に持ち上げただけ。

私はただ、可愛く振る舞っていただけなのに。


「ふざけるな……! 貴様のせいで、エリーゼを追放してしまったんだぞ!」

「ひどいっ! 殿下が自分で決めたくせに! もう知らない、私、お部屋に帰る!」


私が逃げ出そうとした時、宰相が血相を変えて飛び込んできた。


「殿下! 水が! 王都の井戸水が枯れました! 水源が腐って泥水になっています!」

「なんだと……!?」


水がない?

じゃあ、お風呂はどうするの?

紅茶は?

私の喉を潤す綺麗な水は?


「まさか、あの女……エリーゼが……?」


フレデリック様が青ざめる。

そういえば、あの陰気な女、なんか言ってたっけ。

『加護を回収する』とか何とか。

まさか、本当に?

あの地味な女が、この国のすべてを支えていたとでも言うの?

ありえない。

あんなの、ただの雑用係じゃない。


「通信だ! エリーゼに連絡しろ!」


フレデリック様が叫ぶ。

水晶玉が運ばれてきて、空中に映像が浮かび上がる。

そこに映っていたのは、信じられない光景だった。


豪華な部屋。

ふかふかのソファ。

そして、まるで女神のように美しく着飾ったエリーゼ様。

その隣には、この世のものとは思えないほど美形で、強そうな男の人。

北の皇帝、カイザー陛下だ。


「な……なんで……?」


私は思わず声を漏らした。

だって、おかしいじゃない。

追放されたのは彼女よ?

ボロボロになって、泣きながら野垂れ死ぬはずだったのに。

どうして私よりいい服を着て、私よりいい男に抱かれているの?


「ごきげんよう、皆様」


エリーゼ様の声は、優雅で、そして冷酷だった。

彼女は紅茶を一口飲むと、私たちを見下すように微笑んだ。


「ずいぶんと賑やかそうですわね。……あら、ミア様。顔色が優れませんわよ?」


私を見た。

あの目が嫌い。

何もかも見透かしているような、あの静かな瞳が。


「あんた……! 何したのよ! 水を返しなさいよ! 魔物を消しなさいよ!」


私は金切り声を上げた。

私が主役なのよ。

あんたは悪役として退場したはずでしょ?

なんでまた出てくるのよ!


「お断りします」


エリーゼ様は、私のヒステリーなんて聞こえていないかのように、あっさりと切り捨てた。

そして、フレデリック様の「戻ってきてくれ」という懇願も、ゴミを見るような目で拒絶した。


「ミア様が真の聖女なのでしょう? 頑張ってくださいませ。……もっとも、その微弱な魔力では、王都の街灯一つ灯すのが限界でしょうけれど」


「ひっ……!」


図星を突かれて、私は息が詰まった。

知っていたのね。

私がただのハリボテだってこと、最初から知っていて、泳がせていたのね。


「それでは、永遠にごきげんよう」


ブツン。

通信が切れた。

部屋に残されたのは、絶望的な沈黙と、近づいてくる魔物の咆哮だけ。


「……おい、偽聖女」


フレデリック様が振り返る。

その目は、もう私を愛してなんかいなかった。

憎悪。殺意。

かつてエリーゼ様に向けられていたものが、今は私に向けられている。


「ち、違いますぅ……殿下……」

「貴様のせいだ! 貴様が俺をたぶらかしたから!」


フレデリック様が私に掴みかかる。

痛い。

ドレスが破れる。

助けて。誰か助けて。

私はヒロインなのよ。

ピンチの時には、颯爽と王子様が現れて助けてくれるはずでしょう?


ドガァンッ!!


扉が破られた。

入ってきたのは、魔物……ではなく、暴徒と化した国民たちだった。

彼らの手には農具や石が握られている。

その目は、魔物よりもずっと怖かった。


「いたぞ! 偽聖女だ!」

「こいつのせいで水がなくなったんだ!」

「俺たちの家族を返せ! 殺せ!」


「いやぁぁぁッ! 来ないで! 私は悪くない! 私は可愛いのよ!?」


私は叫んだ。

でも、誰も聞いてくれなかった。

私の自慢の髪が掴まれ、引きずり回される。

顔を殴られる。

ドレスが泥にまみれる。


痛い、痛い、痛い!

なんで? どうして?

私は選ばれた特別な女の子のはずなのに!


***


ここはどこだろう。

暗い。寒い。臭い。

ああ、ネズミさんがいる。

こんにちは、ネズミさん。

あなたも私のパーティーに来てくれたの?


王城の地下牢。

私がここに放り込まれてから、どれくらい経ったのかしら。

一週間? 一ヶ月? 一年?

もう分からない。


喉が渇いた。

お腹が空いた。

綺麗な水が飲みたい。甘いケーキが食べたい。

でも、看守さんが投げ入れてくれるのは、カビの生えたパンと、泥水だけ。

それすら、最近は来なくなった。


隣の牢には、フレデリック様がいるみたい。

最初は「出せ! 俺は王だ!」って叫んでいたけど、最近はずっとブツブツ独り言を言っている。

「エリーゼ……すまない……」って。

まだあの女の名前を呼んでいるの?

本当に未練がましい男ね。

あんな女、最初からいなかったことにすればいいのに。


そうよ、きっとこれは悪い夢。

目が覚めれば、またあの煌びやかな大広間にいて、みんなが私を褒め称えてくれるはず。

だって、私はヒロインなんだから。

物語の最後は、ハッピーエンドって決まっているのよ。


「見て、殿下。光よ……」


私は暗闇の中で手を振ってみる。

もう魔力なんて残っていないけれど、私には見えるの。

キラキラ輝く、ピンク色のスポットライトが。

私を照らしているわ。

観客が拍手をしているわ。


「ありがとう、ありがとう! アンコールにお応えして、歌います!」


私は喉が渇いて掠れた声で、歌い始める。

誰もいない、冷たい石の床の上で。

観客は、足元を這い回るネズミとゴキブリだけ。


「聖女様、万歳! ミア様、万歳!」


幻聴が聞こえる。

気持ちいい。

やっぱり私は特別なの。


あ、扉が開いた。

きっと王子様が迎えに来てくれたのね。

違うわ、フレデリック様みたいな偽物じゃなくて、もっと強くて、もっと素敵な……。

そう、あの通信機に映っていた、皇帝陛下みたいな人が。


「……生きてるか? 死体処理に来たんだが」


入ってきたのは、ボロボロの服を着た男の人だった。

手には大きな袋を持っている。

ああ、そうか。

新しいドレスを持ってきてくれたのね。

白い、袋状のドレス。


「うふふ……着せて……王子様……」


私は手を伸ばす。

でも、体が動かない。

指先から感覚がなくなっていく。

寒い。

スポットライトが消えていく。


ねえ、どうして?

どうして幕が下りるの?

まだ私の見せ場は終わっていないのに。

私はヒロインなのに。

私は……私は……。


(……ただの、可愛いだけの女の子だったのに)


最期に頭をよぎったのは、悔しさでも憎しみでもなく、幼い頃に夢見たおとぎ話の結末との、あまりに大きな違いへの困惑だった。


暗闇が私を飲み込む。

さようなら、私のステージ。

でも大丈夫。

きっと次は、もっと素敵な役が回ってくるはずだから。


……ねえ、そうでしょ?

神様?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ