第6章:豊穣の地と、飢える王国
マルコとのビジネスが成功し、ヴァイス辺境領にはかつてないほどの資金が流入した。私はその資金を、ただ人々に分配するのではなく、未来への投資に使うことにした。
まず着手したのは、水路の整備だ。川から畑まで安定して水を引けるように、石と漆喰で頑丈な水路を建設した。これにより、天候に左右されずに作物を育てられるようになり、収穫量は飛躍的に増大した。
次に、村の若者たちを集めて自警団を組織した。指揮官には、当然のようにカインが就任した。元騎士である彼の指導のもと、若者たちは日に日にたくましくなっていった。魔物が出現しても、今では村人たちだけで撃退できる。辺境の安全は、確固たるものになった。
さらに、学校や診療所も建設した。王都から教師や医師を高い給金で雇い、子供たちには教育の機会を、人々には安心できる医療を提供した。
噂は噂を呼び、「ヴァイス辺境領は、希望に満ちた豊かな土地だ」という評判が、王国中に広まっていった。仕事を失った者、貧困に喘ぐ者、新しい人生を始めたい者。多くの人々が、この地に希望を求めて移住してきた。
かつては数十人しかいなかった小さな村は、数年のうちに、数千人が暮らす活気あふれる街へと変貌を遂げていた。私は、領主として彼らの生活を支え、街の発展計画を立てる日々に、大きなやりがいを感じていた。スローライフとは少し違ってきてしまったけれど、これもまた、悪くない。
一方、その頃。私を追放したクライスハイト王国では、暗い影が忍び寄っていた。
王太子エドワードが寵愛する聖女リリアナ。彼女の「奇跡の力」によって、豊作が約束されていたはずだった。しかし、私が追放された翌年から、その力は急速に失われ始めたのだ。
原因不明の長雨、日照り、病害虫の大量発生。王国中の農地は深刻な不作に見舞われ、食料価格は日に日に高騰していった。貴族たちは備蓄でしのげても、民衆は日々のパンにも事欠くようになっていく。
飢えは、人々の心を荒ませる。各地で暴動が頻発し、その不満の矛先は、無策な王太子エドワードへと向かい始めていた。
「聖女様はいったいどうしたんだ!」
「俺たちを見捨てるのか!」
「すべては、アリーシャ様を追い出した王太子のせいだ!」
かつて私を嘲笑した民衆が、今度は私の名を、まるで救世主のように呼び始めていた。皮肉なものだ。
王国が飢えと混乱に沈んでいく中、ヴァイス辺境領だけは、豊かな食料と人々の笑顔に満ち溢れていた。
二つの地の運命は、あまりにも対照的に、その明暗を分けていた。




