番外編2:凋落の円舞曲(ワルツ)
クライスハイト王国の、今はもう使われなくなった離宮の一室。エドワードは、安物のエールを呷っていた。王族の身分を剥奪され、わずかな年金で細々と暮らす日々。彼の手元には、プライドだけが残っていた。
「くそっ……! なぜだ! なぜ、あの女が……!」
アリーシャ公国の繁栄を伝える噂を聞くたびに、彼はグラスを壁に叩きつけたくなる。すべては、あの女を追放した日から狂い始めた。いや、違う。すべては、あの偽物の聖女に惑わされたせいだ。
コンコン、とドアがノックされる。入ってきたのは、一人の修道女だった。見習いの、やつれた女。
「……何の用だ」
「エドワード様。リリアナ様が、あなたにお話を、と」
修道女の背後から、やつれ果てたリリアナが姿を現した。聖女と呼ばれた頃の輝きは見る影もなく、その瞳には淀んだ光が浮かんでいる。彼女は修道院での暮らしに耐えきれず、時折こうしてエドワードの元を訪れるのだ。
「エドワード様。私は、あなたのせいでこんな目に……!」
「黙れ! お前こそ、偽りの奇跡で私とこの国を騙した張本人ではないか!」
二人は、会うたびにこうして互いを罵り合った。かつて愛を囁き合ったことなど、遠い昔の夢物語のようだ。
「アリーシャがいれば……! あいつさえいれば、こんなことには!」
「そうよ! あんな有能な女を追放した、あなたのせいよ!」
彼らは、決して認めない。自分たちの愚かさが、すべての原因であったことを。失ったものの大きさを噛みしめながら、互いを傷つけ、惨めさを慰め合う。
救いのない二人の円舞曲は、凋落した王国の片隅で、誰に知られることもなく、静かに、延々と続いていくのだった。




