番外編1:騎士は泥と太陽に恋をした(カイン視点)
俺の人生は、灰色だった。かつて仕えた主君を守れず、騎士の誇りを失った俺は、魔の森に近いこの辺境で、ただ死んだように息をしていた。明日が来ることも、朝日が昇ることも、どうでもよかった。
そんな俺の前に、そいつは現れた。
アリーシャ・フォン・クライスハイト。王都から追放されてきたという、公爵令嬢。やつれた罪人の顔をしているかと思えば、その女は、まるでピクニックにでも来たかのように、きらきらした目でこの荒れ地を見ていた。
狂っている、と思った。
次の日から、女は本当に狂ったような行動を始めた。貴族令嬢が、シャベルを手に、泥だらけになって石ころだらけの土地を耕しているのだ。村の連中は気味悪がって遠巻きにしていたが、俺はなぜか、その姿から目が離せなかった。
泥にまみれ、汗を流しながらも、その顔は不思議と輝いていた。まるで、太陽のように。
二度も魔物から助けてやった礼だと言って、家に招かれた。どうせ王都の気取った料理でも出てくるのかと思いきや、差し出されたのは、白い米を握り固めただけの、奇妙な塊だった。
「おにぎり」とか言ったか。
半信半疑で口に入れた瞬間、俺の世界は変わった。
うまい。ただ、ひたすらに、うまかった。米の甘みと塩だけの、素朴な味。だが、それは俺が今まで食べたどんなご馳走よりも、俺の乾いた心を、温かいもので満たしてくれた。
その日からだ。俺が、彼女の作る食事の虜になったのは。そして、いつしか俺は、食事だけでなく、それを作る彼女自身に惹かれていた。
ひたむきに畑に向かう姿。子供たちに優しく微笑む顔。収穫した野菜を手に、太陽のように笑う彼女。そのすべてが、俺の灰色の世界に、鮮やかな色を与えてくれた。
この人を守りたい。この人の笑顔を、曇らせるものは、俺がすべて斬り捨てよう。
泥だらけで笑う太陽。俺は、そんな君に恋をしたのだ。そして、その太陽と共に生きていける今の俺は、間違いなく、世界一の幸せ者だ。




