第10章:独立という選択肢
数日後、ヴァイスの街に、シルベスタ王国の正式な使節団が到着した。私は領主として、レオニール王とその側近たちを、街で一番大きな会議室に迎えた。
厳かな雰囲気の中、レオニール王は単刀直入に本題を切り出した。
「アリーシャ殿。私はあなたに、驚くべき提案をしに来ました」
彼は地図を広げ、ヴァイス辺境領と、クライスハイト王国、そしてシルベスタ王国の位置関係を示す。
「あなたの領地は、もはやクライスハイト王国の一地方と呼ぶには、あまりに豊かで、強大になりすぎた。しかし、立場は依然として曖昧で、不安定だ。腐敗したクライスハイト王国が、いつまでもあなた方の富を黙って見ているとは思えない」
レオニール王の言葉は、私が密かに抱いていた懸念そのものだった。
「そこで、提案です。ヴァイス辺境領は、クライスハイト王国から完全に独立し、新たな国家を築くのです。そして、その独立を、我がシルベスタ王国が全面的に支援する。いかがでしょうか」
「……独立、ですか」
あまりにスケールの大きな話に、私は息を呑んだ。隣に座るマルコも、カインも、固唾を飲んで王の言葉に耳を傾けている。
レオニール王は続けた。
「もちろん、ただ独立を煽るのではありません。シルベスタ王国は、あなたの新しい国と対等な友好条約を結びたい。軍事的な庇護を約束し、安定した交易路を確保する。私たちは、互いにとって最高のパートナーになれると確信しています」
それは、破格の提案だった。ヴァイスが国家として歩む上で、最大の障害となる軍事面と経済面の不安を、一度に解消してくれるというのだ。レオニール王は、私とこの土地の未来に、それだけの価値を見出してくれている。
「……少し、お時間をいただけますか」
私はレオニール王にそう告げ、その日の会談を終えた。
その夜、私は街の広場に、すべての住民を集めた。カイン、マルコをはじめ、初期の頃から私を支えてくれた村の長老たち、そして、この街を新たな故郷として選んだ移住者たち。その全員に、私はレオニール王からの提案を、ありのままに話した。
「独立は、大きな挑戦です。もしかしたら、クライスハイト王国との戦争になるかもしれない。困難な道になる可能性もあります。だから、私一人では決められません。皆の意見を聞かせてほしいのです」
私の言葉に、広場は一瞬、水を打ったように静まり返った。やがて、一人の農夫が声を張り上げた。
「俺たちは、アリーシャ様のおかげで、腹一杯飯が食えるようになったんだ!」
それに続くように、鍛冶屋の親方が叫んだ。
「そうだ! この街は、俺たちの誇りだ!」
「クライスハイト王国なんかに、渡してたまるか!」
「俺たちは、アリーシャ様についていくぞ!」
その声は、あっという間に大きなうねりとなった。広場のあちこちから、私を支持する声が上がる。彼らの瞳は、決意と希望に燃えていた。
私は、込み上げてくる熱いものをこらえきれなかった。涙で滲む視界の中、私を信じてくれる人々の顔を見渡す。そして、隣に立つカインとマルコに視線を送った。二人は、力強く頷いてくれた。
覚悟は、決まった。
私は、マイク代わりの拡声器を握りしめ、高らかに宣言した。
「ありがとう、みんな! 私たちは、私たちの国を、この手で創りましょう!」
割れんばかりの歓声が、ヴァイスの夜空に響き渡った。




