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錬金術?いいえ、材料工学です。授かったスキルで海洋国家の覇者になります!  作者: 秋澄しえる


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第55話「結果発表」

 長い、長い審議の時間が終わった。


 ドージェ、フランチェスコ・グリマーニが壇上に立ち、静かに口を開いた。


「厳正なる審査の結果…北の鉱山の採掘・交易権は、コルナーロ家に与える」


 えっ…?


 僕たちは顔を見合わせた。


 会場からも「なぜだ?」「マルチェッロじゃないのか?」という声が上がる。


 ダンテたちが歓声を上げ、ヴィットーリオが傲慢な笑みを浮かべた。


 やはり、政治力か。


 既存の権力構造と、これまでの実績。最後の最後で、そこを崩すことはできなかったのか。


 悔しさで視界が滲む。


 アディが僕の袖をギュッと掴んだ。


 だが、ドージェは手を挙げて静粛を求めた。


「ただし」


 その一言で、会場が再び静まり返る。


「マルチェッロ家の提案した『反射鏡』の技術は、我が国の海運にとって革命的なものである。これを埋もれさせることは、国家的な損失であると判断した」


 ドージェは僕たちの方を向き、穏やかに微笑んだ。


「よって、マルチェッロ家には、共和国の『技術顧問』の地位を与える」


「技術…顧問?」


 僕が呆然と復唱すると、ドージェは力強く続けた。


「コルナーロ家は、マルチェッロ家の技術指導の下、灯台網の整備および鉱山開発を行うこと。…その対価として、ミョウバン利益の一定割合と、灯台設置に関する特許料を、永続的にマルチェッロ家に支払うものとする!」


 …え?


 それって…。


 ロレンツォ兄さんが、僕の肩を掴んで耳打ちした。


「おいルカ、聞いたか?…実質、こっちの勝ちだ」


「えっ?」


「採掘権を持てば、現場の管理や事故のリスクを全部背負わなきゃならねぇ。でも『技術顧問』なら、ノウハウを提供するだけで、利益の上澄みだけをずっと吸い上げられる…!一番オイシイところ取りだ!」


 なるほど。


 ドージェは、コルナーロ家の顔(名誉)を立てつつ、実利と権限をマルチェッロ家に与えるという、政治的な離れ業を使ったのだ。


「…なんてことだ」


 状況を理解したヴィットーリオが、顔を真っ赤にして崩れ落ちる。


 ダンテは、信じられないものを見る目で僕を見ていた。


 勝ったのに、負けている。


 その屈辱に、彼は言葉を失っていた。


「やりましたな、マルチェッロ殿!」


「…ああ。おかげさまで。エンリコさん…ありがとうございました」


 ロレンツォ兄さんがエンリコさんの手を強く握り返した。


 会場の興奮はまだ冷めやらず、多くの商人たちがマルチェッロ家を取り囲もうと押し寄せている。


 借金は帳消し。技術顧問料という安定収入の確保。


 そして銀行家エンリコとの強力な提携。


 マルチェッロ商会は今この瞬間、完全復活を遂げたのだ。


 その喧騒の中、父ジョヴァンニが静かに歩み出た。


 彼は満足げに、しかしどこか憑き物が落ちたような穏やかな目で、僕たち兄弟を見つめた。


「…ロレンツォ、ルカ」


「お父様?」


 お父様は、僕たちの肩に手を置いた。その手は、昔よりも少し小さく、けれど温かく感じられた。


「見事だった。…お前たちの戦いぶり、この目に焼き付けたぞ」


「へっ、当たり前だろ。俺たちは親父の息子だぜ?」


「ああ、そうだとも」


 お父様は深く頷き、そして宣言した。


「お前たちに、商会の実権を譲る。…父さんはもう、隠居だ」


「えっ…?」


「なっ、親父!?」


 僕とロレンツォ兄さんは驚いて声を上げた。


 お父様は首を横に振った。


「今回の勝利は、お前たちの力で勝ち取ったものだ。ロレンツォの商才と胆力、ルカの知識と技術。…今の商会に必要なのは、私のような古い船乗りではなく、新しい風だ」


 お父様の決意は固かった。


 それは諦めではない。


 息子たちの成長を認め、未来を託すという、父親としての最後の仕事だった。


「…分かったよ、親父」


 ロレンツォ兄さんが、真剣な顔で頭を下げた。


「親父が守ってきたマルチェッロ商会、俺たちがもっとデカくしてやる。…安心して見てな」


「僕も…頑張ります。お父様が誇れるような技術を、もっとたくさん作ります」


 僕も深く頭を下げた。


 お父様が、くしゃっと僕たちの頭を撫でる。


 そして、ロレンツォ兄さんが、僕と、横にいたアディを引き寄せ、三人で抱き合うように肩を組んだ。


「よし!これからは俺たちの時代だ!行くぞルカ、アディ!」


「もう、兄さん苦しいよ!」


「あはは、ロレンツォ兄さん嬉しすぎ!」


 揉みくちゃにされる僕たちを見て、お父様がふと思い出したように言った。


「そういえば…今日は特別な日だったな」


「え?」


「忘れていたのか?今日は十一月二十二日。…ルカとアディの誕生日だ」


 その言葉に、僕とアディは顔を見合わせ、目を丸くした。


 怒涛の一ヶ月。


 生きるか死ぬかの瀬戸際で、日付の感覚すら消し飛んでいた。


「あ…!」


「そっか…今日だ!」


 僕たちは思わず笑い出した。


 人生で一番過酷で、一番最高な誕生日だ。


「ルカ、十三歳おめでとう!」


「アディ、十二歳おめでとう!」


 港の風の中で、僕たちは互いに祝い合った。


 十三歳と、十二歳。


 この世界に来て、もうそんなになるのか。


 周囲の喧騒が、ふと遠くに感じられた。


 僕はアディの手を握った。


 彼女の大きな瞳が、僕を真っ直ぐに見つめている。


 今しかない。


 この勝利の熱気の中で、伝えなきゃいけないことがある。


「…アディ」


「ん?」


 僕は深呼吸をした。


 コンペのプレゼンよりも緊張する。


 心臓が口から飛び出しそうだ。


「僕…早く大人になりたい」


「ふふ、何急に?ルカはもう十分大人みたいだよ?」


「そうじゃなくて…」


 僕は勇気を振り絞った。


「僕が十六歳になって、アディが十五歳になったら…」


 言葉が詰まる。でも、言わなきゃ。


「…結婚、しよう」


 アディの目が大きく見開かれた。


 時が止まったような静寂。


 波の音だけが聞こえる。


 やがて、アディの頬が林檎のように赤く染まり、瞳が潤んだ。


「…うん」


 消え入りそうな、でも確かな声。


「約束だよ、ルカ」


 彼女はそっと僕の手を握り返した。


 その手の温もりが、僕の心を満たしていく。


 技術で世界を変えること。


 そして、大切な人を守り抜くこと。


 僕の新しい人生は、まだ始まったばかりだ。



◆◇◆◇◆



 その頃。


 熱気に包まれる会場から離れた、港の桟橋。


 人影のないその場所に、一人の男の姿があった。


 ジェンティーレ共和国の外交官、パオロだ。


 彼は出航準備中の商船のタラップに足をかけ、振り返ってコンペ会場の方向を見つめた。


 その目には、冷徹な光が宿っていた。


「…恐るべしだな、セレニアの技術は」


 パオロは低く呟いた。


「あの反射鏡…軍事転用されれば脅威となる。それに、あの少年…ルカ・マルチェッロの知識は、明らかに異常だ」


 彼は懐から手帳を取り出し、走り書きをした。


「本国に報告せねばなるまい。…世界の均衡を崩す『特異点』が現れた、とな」


 パオロは黒い外套を翻し、船内へと姿を消した。


 新たな波乱の予感を残して、船は静かに港を離れていった。



(第55話「結果発表」終わり)



◆◇◆次回予告◆◇◆


「雰囲気って怖い。勢いでプロポーズしちゃった…。一夜明けて冷静になると、恥ずかしくて死にそうだよ!アディの顔が見られない!そんな僕のもとに、ロレンツォ兄さんがすごいニュースを持ってきた。銀行家たちが手を組んで『ギルド内ギルド』を作っただって?これで借金どころか、潤沢な資金が手に入るかも!?公私ともに激変の予感!」


「次回、『赤面』。その顔の赤さは、恋か金か!」

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