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錬金術?いいえ、材料工学です。授かったスキルで海洋国家の覇者になります!  作者: 秋澄しえる


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第19話「加工研究」

 ビアージョの工房。


 ルカは作業台の前で、自分の両手をじっと見つめていた。


「…やっぱり、変わってる」


 ルカはグーパーと手を握りしめ、確信めいた独り言を漏らした。


 昨日の「ウルトラマリン」の精製。あれは自分でも驚くほどスムーズだった。


 以前なら、原子の選別にはもっと時間がかかったし、脳が焼き切れるような疲労感があったはずだ。


 それが今は、まるで顕微鏡の倍率を上げたように、対象の構造が鮮明に見え、指先一つで原子をつまみ出せるような感覚がある。


「あの船の改造工事…。『スパッカ・テンペスタ』での数百回のスキル行使が、何かを変えたのかもなあ」


 三日三晩、不眠不休で繰り返した「粉砕」と「圧縮」。


 あの極限状態での連打が、ルカの脳とスキルの回路を焼き繋げ、アップグレードさせたのかもしれない。


「もしかして、ゲームみたいに『レベルアップ』とか『熟練度』みたいな概念があるのかな?ステータス画面なんて見えないけど…明らかに以前より細かいイメージ伝達が可能になってる」


 ルカはニヤリと笑った。


「ということは、このスキルを使えば使うほど、経験値を積めば積むほど、僕はもっとすごいことができるようになるってことだ!」


 自分の可能性に武者震いしていると、背後からドスッ!と重い音がした。


「おい小僧。自分の手に見惚れてる暇があったら、こいつを何とかしやがれ」


 ビアージョが鉄床の上に、銀色に輝く延べ棒を放り投げた。


 以前作った「純鉄のインゴット」だ。


「タガネのおかげで『削る』ことはできるようになった。だがな、『曲げる』とか『伸ばす』のが無理なんだよ!」


 ビアージョがハンマーでインゴットを叩く。


 ガィン!と硬質な音がするだけで、鉄は微動だにしない。


「普通の鉄なら、炉に入れて赤く熱せば飴みてぇに柔らかくなる。だが、こいつは純度が高すぎて、ウチの炉じゃビクともしねぇ。…これじゃあ、剣も鎧も作れねぇぞ」


 鍛造の壁だ。


 削り出しだけでは、作れる形状に限界がある。


 強靭な道具を作るには、熱して叩き、鍛える工程が不可欠なのだ。


「温度が足りないなら、上げればいい…と言いたいところだけど」


 ルカは工房のコークス炉を見た。


 あれが今の設備の限界だ。


 送風機を強化しても、純鉄が溶ける1538度には届かないだろう。


「…炉を使わずに、鉄を熱くする方法」


 ルカは腕組みをして考え込んだ。


 そして、ふと、圧縮時の「失敗」を思い出した。


 最初の実験で、圧縮を一気にやりすぎて空気が爆発した、あの現象。


「…あ」


 ルカの脳内で、新たな回路が繋がった。


 レベルアップした今のスキルなら、あれを「制御」できるかもしれない。


「マエストロ!ハンマーを構えてください!」


「あぁ?冷たいまま叩いても意味ねぇぞ」


「いいから!僕が合図したら、全力で叩いてください!」


 ルカはインゴットに右手をかざした。


 イメージするのは「圧縮」ではない。


 「振動」と「摩擦」だ。


 鉄の原子そのものを揺さぶり、無理やり熱エネルギーを発生させる。


 電子レンジの原理に近いが、それを圧力操作で行う力技。


「…いくよ!『圧縮』!」


 ルカが叫び、右手に全神経を集中させた。


 ブォン!と空気が震える。


 次の瞬間、銀色のインゴットが、内側からボッと発光した。


「なっ…!?」


 ビアージョが目を見開く。


 冷たかった鉄が、数秒でオレンジ色に、そして白熱した色へと変わっていく。炉に入れてもいないのに!


「今だっ!叩いて!!」


「お、おうッ!!」


 職人の本能が反応した。ビアージョは渾身の力でハンマーを振り下ろした。


 ドォォォン!!


 重い衝撃音と共に、火花が散る。


 白熱した純鉄が、ハンマーの一撃でぐにゃりと形を変えた。


「曲がった…!柔らかくなってやがる!」


「続けて!僕が熱し続けるから、その間に形を作って!」


「ガハハハハ!上等だ!人間ふいごか、お前は!」


 ビアージョが笑いながらハンマーを振るう。


 カン!カン!カン!


 ルカが圧縮することで加熱し、ビアージョが鎚を振るう。


 科学と筋力のセッション。


 二人の息が合うたびに、ただの延べ棒が、徐々に鋭利な形状へと姿を変えていく。


「温度よし!伸びよし!…いい鉄だ、これなら折れねぇ!」


 ビアージョの額から汗が飛び散る。


 ルカも汗だくだが、その顔には笑みがあった。


 レベルアップしたスキルのおかげで、熱量のコントロールも完璧だ。


「よし、最後だ!焼き入れするぞ!」


 ビアージョが真っ赤な鉄を水桶に突っ込む。


 ジュワァァァァッ!!


 猛烈な蒸気が上がり、工房が白く染まる。


 やがて、ビアージョが水の中から「それ」を引き上げた。


 小刀だ。


 だが、ただの小刀ではない。


 青白く透き通るような光沢を放ち、波紋一つない滑らかな刀身。


 純度100%の鉄を鍛え上げた「純鉄鍛造ナイフ」。


「…化け物だな」


 ビアージョが指で刃を弾くと、キィィィン…と澄んだ音が長く長く響いた。


「剃刀みてぇな切れ味と、バネみてぇな粘り強さ。…こんな刃物、見たことねぇ」


「やったね!これで証明できた。僕たちは『炉』がなくても、どんな金属でも加工できる!」


 ルカはその場にへたり込んだ。


 疲れてフラフラだが、心地よい疲労感だ。


「へっ、とんでもねぇ相棒を持っちまったもんだ」


 ビアージョは呆れつつも、ルカに水筒を放って寄越した。


 こうして、「加工不能」と言われた純鉄の問題はクリアされた。


 だが、このナイフの完成は、ビアージョにある「欲」を抱かせることになった。


「なぁ小僧。…この鉄を使って、俺の『ハンマー』を作り直さねぇか?」


「ハンマー?」


「ああ。今の道具じゃ、お前の素材に負けちまう。俺もレベルアップしねぇとな」


 職人の目は燃えていた。


 より強い道具を。よりすごい素材を。


 「ものづくり」の連鎖は止まらない。


 ビアージョ専用「最強ハンマー」の制作が始まる。



(第19話「加工研究」終わり)



◆◇◆次回予告◆◇◆


「純鉄の加工に成功したのはいいけど、ビアージョさんが『道具が持たねぇ』って言い出した。確かに、僕の素材を叩くたびにハンマーが凹んでたら仕事にならないよね。…よし、わかった!純鉄と炭化タングステンを組み合わせて、絶対に壊れない『最強のハンマー』を作ろう!でも、それを作るためのハンマーがないよ!?」


「次回、『最強の金槌』。鶏が先か、卵が先か!」

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