6. 王都レントへ
灰の林を抜けると、視界は一気に開けた。
広大な草原の向こう――
巨大な城壁が太陽を反射して輝いている。
アレンは初めて見るその光景に、思わず息を飲んだ。
「……すごい……」
リリアが胸を張って言う。
「でしょ? 王都レントは、この世界で一番の文明都市だよ!」
オルフェンも感慨深げに城壁を見つめる。
「文明障壁〈エルド・リング〉……。
千年前の文明を元に、王族の力で維持されている。
人が作った文明と、世界の力が混ざり合った奇跡の都市よ」
城壁の上には、半透明の青い膜がゆらゆらと揺れていた。
これが“文明障壁”だ。
アレンの胸のパネルが反応する。
【文明値フィールド:高密度領域】
【文明障壁と連動:不明な信号を検知】
(不明な信号……?)
だが今は気にしている余裕はない。
三人は城門へ向かった。
***
王都の門は並外れて巨大だった。
近づくと、その壮大さにさらに圧倒される。
門の前には長い列ができており、
旅人、商人、軍人、魔法使い――
様々な種族の人々が集まっている。
リリアが説明する。
「王都は警備が厳しいんだ。
文明遺物の不正取引もあるし、禁忌文明の侵入を防ぐためでもあるの」
列に並んでいたとき、
アレンたちの目の前で短髪の青年が話しかけてきた。
「おい君たち、こっち側に来れるよ」
軽い口調だが、身につけている装備は明らかに質が高い。
胸には王都シンボル“金翼”の紋章。
オルフェンが眉を上げる。
「王立警護団……!」
青年はにこりと笑う。
「俺は王立警護団第三隊のルーク。
文明測定士オルフェン殿で間違いない?
王都で君たちを迎えるよう言われてる」
アレンとリリアは驚き、オルフェンを見る。
「心当たり……?」
「昨日、石碑を調べた際に王都へ連絡しておいたのだ。
文明値9999の少年が現れた、と」
アレンは少し気まずくなる。
「そんな……目立つことを……」
「当然だろ。文明値9999なんて、世界の歴史に二度と出ないかもしれない特例だ」
ルークは軽く肩をすくめた。
「それに、王都は今、禁忌文明が活発になって困ってる。
君みたいな規格外は、歓迎されるさ。
“利用価値がある”からね」
最後の一言に含まれた意味が重い。
リリアが不安げにアレンを見るが、
アレンは小さく頷いた。
(俺は……この世界のために動くって決めたんだ)
ルークが列を外れて案内する。
「特別通行許可が出てる。
こっちへどうぞ」
門兵が敬礼し、巨大な門がゆっくりと開いていく。
陽光を受けて、
青い文明障壁が波紋のように揺れた――。
***
王都レントの内部は、アレンの想像を遥かに超えていた。
石畳の大通り。
上空には文明値で浮かぶ輸送舟が滑っている。
巨大な塔がいくつも立ち並び、
塔の中では文明光が螺旋状に走る。
人々は文明道具を使いこなし、
街全体が“文明の鼓動”で動いているようだった。
アレンは思わず言葉を失った。
「ここ……本当に同じ世界なのか……」
リリアも目を輝かせている。
「ね? すごいでしょ!」
オルフェンは鼻を鳴らした。
「この都市は“文明アカデミア”を中心に作られておる。
知識と情報が集まる場所だ。
この世界の秘密も、ほとんどここに集まっている」
ルークが振り返る。
「じゃあまずは“文明アカデミア”に案内するよ。
君たちは王都に来た瞬間から、半ば研究対象だからね」
アレンは笑うしかない。
(研究対象……か)
だが、胸の奥で何かがざわついていた。
パネルが微かに警告を出している。
【不明な文明値の追跡を確認】
【王都内部に異常文明波】
アレンは足を止める。
(……追跡?
誰かが、俺の文明値を……?)
そのとき、大通りに轟音が響いた。
ドォォォン!!
周囲の人々が悲鳴を上げる。
「きゃあっ!」
「何だ!? 爆発?!」
「文明障壁が揺れたぞ!」
アレンたちは振り返る。
空に、黒い裂け目が開いていた。
灰のような粒が舞い、黒い触手のような文明値が垂れ下がっている。
オルフェンが絶叫する。
「禁忌文明……!
王都の内部に侵入したのか!!」
ルークは剣を抜く。
「最悪のタイミングだな……!
市街戦になるぞ!!」
リリアはアレンを振り返り、目を見開く。
「アレン……!」
アレンは息を飲み、胸のパネルに手を当てた。
【文明値9999:防衛反応発動】
胸から光が溢れ、
大通りが一瞬だけ昼の太陽のように照らされる。
アレンは言った。
「行くしかない……!」
王都到着のその瞬間――
街は禁忌文明の“影”に襲われた。
アレンたちの運命は、
静かに、しかし確実に加速していく。




