5. 王都への道
夜明け前の空が白み始めたころ、アレンは村の入口に立っていた。
背中には旅用の小さな荷物。
文明値パネルはまだ胸の奥で微かな震えを残している。
「……行くんだね」
リリアが並んで立つ。
彼女の腰には“文明刃ハルシオン”が収まっていた。
昨夜の一件以来、剣の表面には薄い文様のような光が浮かんでいる。
アレンは深く息を吐いた。
「行かなきゃ。俺の文明値9999が、この世界と関わってるなら……知りたい」
リリアは拳を握り、笑った。
「じゃあ決まりだね。あたしも一緒に行くから!」
少し後ろで、文明測定士オルフェンが杖をつきながら歩いてくる。
「王都レントまでは二日の道のり。
途中には文明遺物の多い“灰の林”がある。
禁忌文明の痕跡も濃い……気をつけねばならん」
アレンとリリアは頷いた。
「行こう」
村人たちは早朝にもかかわらず三人を見送りに集まっていた。
「アレン、気をつけてね!」
「リリアちゃん、変な化け物には近づくなよ!」
「オルフェン先生、お体を……!」
その声に背中を押されるように、三人は村を後にした。
***
森に入ると、空気がひんやりと変わる。
木々は黒ずんだ灰をまとい、地面には古い文明遺物の破片が散らばっていた。
オルフェンが説明する。
「灰の林は百年前の文明崩壊の名残だ。
文明値が暴走し、発火し、森ごと焼き尽くしたと言われている。
この灰には、今でも微弱な文明値が残っているのだ」
リリアが剣に手を触れる。
「たしかに……剣が反応してる」
アレンの胸のパネルも光を増している。
【文明値共鳴:1.2%】
【周囲の文明値を検知】
アレンは目を細めた。
(文明が……ここに残ってる……?)
道を進んでいると、突然、風が止んだ。
森の奥に空間の“歪み”のような黒い靄が渦巻いている。
「……来るぞ」
オルフェンが警戒の声を出す。
靄の中から、聞き慣れない音が響いた。
金属と肉を無理やり組み合わせたような、
不気味な“軋む”音――。
リリアが剣を抜く。
「この感じ……禁忌文明だ!」
黒い靄が弾け、怪物が現れた。
頭部らしき部分には歪んだレンズのようなもの。
腕は刃のように鋭く、脚は節が多すぎる。
文明喰らい(Devourer)だ。
アレンは反射的に前に出ようとするが、オルフェンが止める。
「まだだ、少年。あれは文明値を食おうと寄ってくる!」
怪物のレンズがアレンを捉えた。
その瞬間――
アレンの胸に強烈な痛みが走る。
【警告:文明値9999が狙われています】
【防衛反応:発動します】
パネルから黄金の光が溢れ出す。
アレンは苦悶しながらも叫んだ。
「くっ……! リリア……!」
リリアが剣を握り直し、前へ躍り出る。
「任せて!」
文明刃が光を帯び、青白い線を描く。
オルフェンが驚いた声を上げる。
「剣が……進化しかけておる!?
少年の文明値に反応して!」
怪物が腕の刃を振り下ろしてくる。
リリアは地面を蹴り、がら空きの懐へ飛び込む。
「はあっ!!」
文明刃の一撃が、怪物の胸部に深く突き刺さる。
青い光の裂け目が走り、怪物が歪んだ悲鳴を上げた。
『――――!!!』
アレンは衝撃で膝をつきながらも、その光景を見つめた。
(リリア……すごい……!)
だが、怪物は一撃で倒れなかった。
胸の裂け目から黒い煙のような文明値が漏れ、
怪物は逆に膨れあがっていく。
オルフェンが叫ぶ。
「悪い! 吸収しておる!
完全に倒しきらねばリリアが危ない!」
アレンは歯を食いしばり、
胸のパネルに手を置く。
「俺の文明値……やれるよな……!」
【文明値使用:可能】
【リリアと武器のリンク:接続】
光が走る。
リリアの剣が一瞬だけ形状を変えた。
刃の表面に古代文明の文様が浮かび、
光がうねりを上げる。
リリアが声を上げる。
「……アレン、これ……!」
「いけ!!」
リリアは全身の力を込めて剣を叩き込んだ。
青い光の軌跡が怪物の胴を貫き、
次の瞬間、怪物は白い光となって弾け飛んだ。
静寂が戻る。
リリアは剣を下ろし、大きく息をついた。
「……勝った……」
アレンは胸を押さえながら立ち上がる。
「ありがとう……リリア」
オルフェンが近寄り、怪物の残骸を調べる。
「文明喰らいがこれほど強化されているとは……
禁忌文明の動きが早い。
アレン、お前の“文明値9999”は、すでに奴らの標的になっておる」
アレンは拳を握る。
「だったらなおさら……王都に行かないと」
リリアが横に並び、笑った。
「大丈夫。あたしたちなら行けるよ」
オルフェンが立ち上がり、二人を見る。
「王都レントはもうすぐだ。
そこでお前たちは……世界の真実の一端を知ることになるだろう」
森の出口が見えた。
その先には大地が広がり、遠くに巨大な城壁都市の影が見える。
アレンは目を細めた。
「行こう――王都へ」
こうして三人は、“文明の原点”へと続く第一の都市を目指す。




