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私の防御魔法は万能です。

作者: 紫ヶ丘


 「バーバラ、こちらは準備万端よ」


 お母様が頼もしく頷いた。


 「大丈夫。何があっても私達は味方だよ」


 お兄様がぎゅっと抱きしめてくれる。


 「バーバラ。お前には辛い思いをさせるかもしれない。逃げたくなることもあるだろう。けれど私達家族を信じてどうか耐えて欲しい。お前に全てを伝えることができないのが口惜しいよ」


 お父様が泣きそうな顔で頭を撫ぜてくれる。


 まるで戦場にでも送り出されるかのような見送りだけど、そうではない。

 私は今日、第二王子の婚約者選びを兼ねたお茶会に出席するのだ。

 まぁ貴族社会のドロドロさはお母様から多少聞いているので、戦場というのはあながち間違いでもないかもしれない。

 何故なら、公爵令嬢や、本命候補と名高い侯爵令嬢を差し置いて、伯爵令嬢の私が選ばれることが内定しているから。


 両親は我が家は王子妃の実家として相応しくないと何度も断ったが、わざわざ第一側妃がお忍びでやって来て、どうか息子と婚約して欲しいと頭を下げた事で引き受けざるを得なくなった。


 あれから三ヶ月。

 お母様の言った通りこちらは準備万端だ。

 後は私が出席するだけ。

 我が家には付き添いが禁止という通達が来たが、恐らく他家は親が付き添っているはず。

 王家の思惑通りに動くつもりはないが、ある程度踊らされてやらなければならないだろう。


 深呼吸して馬車に乗り込む。

 お茶会の後、陛下と第一側妃、第二王子と軽く会談し、明日から始まる学園の寮にそのまま直行することになっている。

 しばらく会えない家族に手を振り、明日からの困難に打ち勝てるようぎゅっと拳を握りしめた。


 案の定私以外は親が付き添っていた。

 昨今家族の絆が希薄になっているらしいが、我が家は表立ってベタベタしないだけで仲が良いと知らない者たちには、私が冷遇されているように見えるのだろう。

 彼らもまた王家に踊らされるのだ。

 そう思うと自然に笑みが浮かんでくる。

 これからの数年は劇団員になったとでも思おう。

 自分は壮大な茶番劇の登場人物だと割り切ると、多少気が楽になった。


 私が婚約者に選ばれると茶会は騒然となった。

 公爵令嬢と侯爵令嬢に罵詈雑言とお茶をかけられたため、陛下達との会談はなくなり、そのまま学園の寮に直行した。


 お父様の尽力により一人部屋を勝ち取れたのは大きい。

 防御魔法やら何やらをかけまくって自衛に努める。

 ここは私の城なのだ。

 モットーは専守防衛、難攻不落。

 さぁ、来るなら来い!


 ……よくもまあここまで暗殺者が居るものだと呆れるくらい、ほぼ毎晩刺客が来た。


 皆さんドアを蹴破ろうとしたり、窓を突き破ろうとしたり、あらゆる手を尽くして押し入ろうとしたが、私の防御魔法に跳ね返された。


 私の防御魔法は特殊で、かなりの応用が利く。

 たとえば攻撃性や敵対心等を感知すると、一定の距離以上は近付けなくしたり、悪質なものは神殿に強制送還したり出来るのだ。


 事前に細やかな術式を組み込まなければならないので、慣れるまでは大変だったけれど、防御魔法の特殊性に気付いて改良を手伝ってくれたお父様とお兄様と一緒に日々訓練を重ねたお陰で、今私の安眠は守られている。


 今ごろ神殿側は頭を抱えているだろう。

 ただの社交辞令で、困ったことがあればいつでも頼って欲しいと言ったがために、毎日刺客が贈られてくるのだから。


 刺客達には、首からバーバラ嬢の寮のドアを蹴破ろうとしました、毒霧で殺そうとしました等の木札を下げさせ、ダメ押しに人が近づくと犯行の一部始終が音声付きの映像で流れる親切設計を施した。


 刺客達は言い逃れはできないし、神殿側もこれ以上送ってこないでくれとは言えない。

 断れば第二王子の婚約者を見捨てることになるからだ。

 こう見えて私、準王族扱いされる立場なのだ。


 現在神殿の牢屋は、裁判を待つ罪人で満杯らしい。

 何人か神官の手引きで逃げたらしいが、常に犯行の一部始終が流れるので、人目につかない田舎暮らしを余儀なくされる。

 勘違いされることが多いけれど、これは呪いではなく防御魔法なので解呪魔法は効かないのだ。


 防御魔法は王宮内でも使用が認められている。

 だからそれを非難してきた相手に、では貴方の防御魔法が発動しないようにして差し上げましょうか?と尋ねたら尻尾を巻いて逃げていった。


 のうのうと通学してくる私を見た令嬢の中には、歯ぎしりのし過ぎで奥歯が砕けた子もいるらしい。

 そんな事で神官の癒しの力を使うなんてお金持ってるなぁとしか思わないけど。


 第二王子は事ある事に突っかかってくる。


 「私はお前を婚約者とは認めない!」


 (はい、私も同じ気持ちです)


 「お前が無理を言って結ばれた婚約などいつでも破棄できるのだからな!」


 (貴女の母が無理を言って結ばれた婚約ですし、婚約破棄出来るなら今すぐにでもどうぞ)


 「お前のような辛気臭い女、誰が相手してやるものか!」


 (はい、貴方のような不誠実な男を相手する気はありません)


 反論は全て心に留め、周りからは暴言に耐えて俯く令嬢に見えるよう振る舞う。

 私は劇団員、茶番劇の登場人物なのだ。

 演じていても常に冷静でいなければ。


 一つ困ったのは、令嬢の高笑いだ。

 遠くからでも聞こえるキンキン声を毎日聞かされると、頭が痛くなるのだ。

 防御魔法で防げなくはないけれど、完全防音にすると必要な情報を逃しかねないため、軽度の防音に留めている。


 言い寄ってきたり、手籠めにしようとする男達もいたけれど、学園なら職員室に、学園外なら神殿にそれぞれ刺客同様の処置をして送ってあげた。

 いくつかの婚約がなくなったらしいけれど、自業自得だと思う。


 実家との手紙のやり取りは、王家やら何やらに検閲されるので控えているのだけれど、久しぶりに来た手紙には我が家にお詫び金が振り込まれたと書かれていた。

 多分慰謝料にすると大げさになるので、子どもの悪ふざけの範疇に収めたいのだと思う。


 私、一応第二王子の婚約者で準王族扱いされる立場なんだけどね?

 悪ふざけで済ませる気なんだ?

 それがまかり通るのだから笑える。


 しかも罰の中には鉱山送りや、退学処分、停学処分、休学処分だけでなく、自主停学処分という謎の罰もあった。

 どうやら高位貴族限定の罰のようで、それって停学というか、普通に休んだだけでしょ?と思ってしまった。

 本当に軽んじられすぎてて笑えるわ。


 私が形だけの第二王子の婚約者や、王家の権力を笠に着て周りを見下す勘違い令嬢などと、口さがなく言われるようになった頃、第二王子は運命的な出会いをしたらしい。


 小動物じみた、小柄で前か後ろかわからない体形に、クリクリとした大きな目の伯爵令嬢。

 長い髪は邪魔にならないように、まとめなければならないのに、校則違反のハーフアップをやめないところを見るに、ずいぶん我が強いようだ。


 髪型の決まりが追加されたのは、陛下が学生時代に王妃とは別に仲の良かった令嬢がハーフアップをしていて、ポーション作りの授業で、陛下に名前を呼ばれて振り返った際に、なびいた髪が実験道具を薙ぎ倒し、大惨事を起こした為だとされているが、実際に制定されたのは王妃が現在の身分を手に入れてからなので時差がある。


 未だに王妃はハーフアップをしないし、王家の主催のパーティーでも暗黙の了解でハーフアップが遠慮されているのだから、女の嫉妬は恐ろしい。


 彼女は第二王子の母は第一側妃なので問題ないと思っているのだろうか?

 王妃に喧嘩を売るなんて、流石不貞をものともしないだけあるなと思った。


 所構わずいちゃつく二人を見たことで、私の婚約が解消されるのは間近とみた令嬢達の団結力は凄かった。

 ああ、冤罪ってこう作られるんだと納得した。

 まあ私は音声付きの映像があるので無罪確定。

 貶めようとした令嬢達は悪質なものは退学、次いで停学、休学、自主停学となった。


 だから自主停学って何なの?

 学園長に聞いたら言葉を濁されてしまった。

 そして今回も我が家には結構な慰謝料とお詫び金が振り込まれた。


 流石に私の防御魔法が知れ渡ると少し大人しくなったけれど、陰口は相変わらずだった。

 最高学年になると第二王子は私を無視しだした。


 否、元から交流は皆無なのだけれど、公務見習いで孤児院の視察に行くときのエスコートさえ放棄しだしたのだ。


 これ第二王子の公務なんですけど?

 視察に来たのが付き添いのはずの私だけって周りからどう見られるか分からないのかな?

 放蕩王子の二つ名は伊達じゃないわね。


 粛々とこなしてお仕事終了。

 王子が不在のため歓待は辞退した。

 食材が無駄にならないよう、予め第二王子が訪問できないかもしれないと伝えていたので、サボってくれてありがとうと内心思った。


 やはりいくら心がこもっていようとも、美味しくないものは美味しくないのだ。

 我慢して食べるのは料理人に対しても食材に対しても失礼なので、寄付金に色を付けることで許してもらえたらいいと思う。

 私と第二王子の不仲は孤児院側も知っているので、全く引き留められなかったのも笑える。


 同時期に、第二王子の執務が意図的に混ぜられ始めた事で防御魔法に術式を追加した。

 王宮の一角に与えられた私の部屋に入室する前に、私の執務以外のものはしかるべき場所に送られるようにしたのだ。


 これも防御魔法の裏技だ。

 他人の執務をしたくない、不快だと言う思いを込めれば、見事に発動してくれた。


 大量の書類を運んできたはずが、入室下と同時に書類が消える現象が続出。

 第二王子が乗り込んできたが、防御魔法の前には無力だ。

 入室すら出来ない。


 「防御魔法が発動するなんて、まさか婚約者である私に敵対心を持たれているのですか?」と尋ねてやると顔を真っ赤にして去っていった。

 罵詈雑言の置き土産をして。


 私に執務が任せられないと悟った第二王子は、婚約解消に動き出した。

 ようやくね。

 卒業までに終わらせて欲しいものだわ。


 それにしても書類の仕分けが面倒だからと、私の防御魔法を利用するものが現れたのには笑えた。

 そうよね、効率重視でいきましょう。


 第二王子のお気に入りの絶壁令嬢が絡んでくるようになったが、やはり防御魔法にはじかれた。

 近づくこともできないのに飽きずに毎日王子との仲の深め具合を自慢してくる。


 そんな暇があるなら勉強すればいいのに。

 王子に近づくために選択した魔術理論と外国語が足を引っ張って留年の危機だと聞いたのだけれど、知らされていないのだろうか?

 あまりにも危機感がなさすぎる。


 第二王子と結婚したいのなら留年は出来ない。

 この国の法により、留年した者は王家に嫁ぐ資格を失うのだ。

 過去一度、ごく短期間女王の時代があったのだけれど、留年した恋人は王配に相応しくないと引き離されたという劇もあるくらいだ。

 まあ王子が婿入りするなら結婚はできるけど。


 噂話は面白い。

 意外な所に真実が潜んでいるからだ。


 「……王子達は卒業パーティーでやらかすつもりなのね。二人揃って留年が確定して、会場に入ることが出来ないのに、どうするのかしら?」


 疑問はすぐに晴れた。

 卒業パーティー前の予行練習として、急遽ガーデンパーティーが開催される事になったのだ。

 主催者は第二王子である。

 恐らく私がいることで卒業パーティー会場に入れないことに気付いたのか、周りに教えられたのだろう。


 そしてついに待ちに待った日がやってきた。



 「バーバラ!お前との婚約を破棄する!婚約者としての務めを放棄し、私を支えることもしないお前は婚約者として相応しくない!」


 「かしこまりました。御前失礼します」


 「待て!この婚約破棄の用紙に記入しろ!」


 「第二王子殿下、私達の婚約は第一側妃殿下たっての願いによりなされたものです。破棄するにしても第一側妃殿下のサインが必要になりますが」


 「戯言を言うな!お前が私との婚約を願ったくせに!お前に言われずとも既に母上のサインはいただいている!」


 「まあ!ありがとうございます!これで王家側の有責で婚約破棄できますわ!我が家への慰謝料が多額になりますが、伯爵家に婿入りする殿下ならば資産のすべてを差し出せますものね。まあ足りない分は第一側妃殿下が払ってくれるでしょうし、本当に感謝しかありませんわ」


 「は?何を言っている?お前の有責での婚約破棄にきまってるだろう!」


 「いいえ。婚約を結ぶ際にいくつかの決まり事をしていましたの。第一側妃殿下がどうしても第二王子殿下と婚約して欲しいと頭を下げた事で仕方なく引き受けざるを得なかったのですが、婚約を結ぶにあたってこちらからも条件を出したのです。不貞をしない、殿下が婚約者の義務を果たさなければこちらも婚約者の義務を果たさなくても構わない、婚約者予算の凍結──他にもありますが、万が一約定を違えた場合、違反した側の有責で婚約を破棄、もしくは解消し、多額の慰謝料を支払うことになるとお伝えしたのですが、妃殿下は全てを承諾されました。ああ、ご安心ください。第一側妃殿下は陛下の名代として来訪されましたので、陛下も承諾したことになっています。……お分かりですか?この場合、不貞を犯した第二王子殿下の有責で婚約破棄されることが」


 「この悪女め!そこまでして私の婚約者でいたいのか!」


 「──殿下、もしや私の名前だけを書かせろと呪術師から言われていませんか?この書類に名前を書くと呪いにかかるようですが、記入された第一側妃殿下はご無事でしょうか?命を脅かす呪いですので一刻も早く手を打たないとお亡くなりになりますよ?」


 「なんだと?母上が体調を崩されたのはこれが原因なのか?」


 「第二王子殿下は私を呪い殺すおつもりでしたのね?呪術師本人に頼めば解呪が可能かもしれませんが、この種の呪いは術者本人の命を捧げるものですので無理でしょうね」


 「お前の魔法でなんとかならないのか!?」


 「さあどうでしょう?先ずは全額慰謝料をお支払いください。話はそれからです。……では私は両親に婚約破棄されたと伝えねばらないので失礼いたします」


 「待て!母上を見捨てるのか!」


 「嫌ですわ。無能な勘違い令嬢の私になにができるのです?噂の出所が第二王子殿下だと知っておりますのよ?」




 家に直帰した私は家族に盛大に迎えられた。


 「バーバラ、会いたかったわ!本当にお疲れ様。見事大役を果たしたわね」


 お母様がぎゅっと抱きしめてくれる。

 ああ、この温もりが恋しかったの。


 「バーバラ、先ずはゆっくりしてくれ。報告は受けているから、細かいところは夕食の時にでも話してくれればいい」


 お父様が涙ぐみながら私の頭を撫ぜる。

 心地の良い声が実家に帰ってきたのだという実感を与えてくれる。


 「はい、誕生日プレゼント。夏季休暇で帰省したら渡そうと思っていたのに、在学中は帰宅禁止とか王家は何を考えてるんだろうな。でも思っていたより元気そうでよかった。バーバラ、おかえり。よく頑張ったね」


 胸がいっぱいになりながらお兄様から誕生日プレゼントを受け取る。

 駄目ね、涙で皆が見えないわ。

 でもちゃんと伝えないと。


 「ええ、ありがとう。皆と会えて本当にうれしい。やっと帰ってこれたんだって実感できたわ。それとお兄様、我が家の家訓の一つにご飯はしっかり食べるってあるでしょう?だから、食欲がなくても出来るだけ食べるようにしていたの。……少し汗を流してきてもいいかしら?はしたなくならない程度に急いだから着替えもしたいし、目を冷やさないと明日が大変だわ」


 おどけて見せると皆が笑う。


 「もちろんだ。バーバラの成人を祝ってとっておきのワインを開けるから料理ともども楽しみにしてくれ。皆張り切っているからな」


 楽しみだわ。

 我が家のシェフの料理が一番だもの。

 室内用ドレスに着替えて食堂に行くと、大量のクローシュが乗ったワゴンの列が続々入っていくのが見えた。


 シェフが目の前でクローシュを開けてくれる瞬間が好きなのよね。

 香りが広がって食欲をかきたててくれるの。


 食事とワインを楽しみながら、この三年間の学園生活や第二王子と不貞相手の留年確定、急遽開かれたガーデンパーティーでの婚約破棄騒動を報告する。

 長々と話してしまったけれど、第二王子側のやらかしが多すぎて上手くまとめきれなかったわ。


 音声付きの映像が原因で、私を攻めあぐねた黒幕達が、家族を確保しようとこちらにもかなりの刺客を送って来たようだが、全て神殿送りにしたらしい。


 実は私の防御魔法はお母様譲りなのだ。

 だから私に出来ることは、大抵お母様も出来るのである。


 私に防御魔法を受け継がせてくれたお母様、一緒に術式を考えてくれたり組み込み方を教えてくれたお父様とお兄様。

 家族の絆によって悪意を跳ね返す事が出来たと言っても過言ではない。


 向こうは途中で領民に狙いを変えたそうだけど、領地を覆う結界に阻まれて断念。

 暗殺業を廃業に追いやられた者も多いようだ。


 お父様が金庫に保管していた第二王子との婚約の際に結んだ魔法契約書の写しを改めて見直し、王家の有責で間違いないとの意見で一致。

 卒業生だけでなく他学年も参加していたガーデンパーティーでの発言を撤回するのはまず無理だ。

 王命を出せば可能かもしれないけれど、恥の上塗りになるから、まともな判断ができるのならば出せないだろう。


 契約書に暴言を吐かれたら暴言を言い返すことができるという一文があってよかった。

 実はうろ覚えだったのよ。

 だから相手が婚約破棄と口にするまでだんまりを決め込んでいたの。

 不敬罪に問われたら面倒な事になるから。


 執事長が王家からの使者が来たが、馬以外は門にたどり着けずに帰ったと告げた時は皆で笑った。

 御者まで敵対心を持っているなんて、と。


 もう皆の心は一つだった。

 お父様がワイングラスを掲げて「決別するものはグラスを掲げよ」と言った瞬間、私達だけでなく使用人達もグラスを掲げる仕草をしてまた笑った。


 ああ、帰ってきた。

 帰ってこれたんだと実感してまた泣いた。

 本当に皆大好きよ。







 今回の騒動は、元凶であるバーバラ・アチーブ伯爵令嬢をはじめ、アチーブ伯爵家が爵位を返上し、使用人共々伯爵夫人の実家であるムービング王国に亡命したことで終息した。


 第一側妃殿下に掛けられた呪いを解呪する代わりに、婚約時に結んだ魔法契約に基づいた多額の慰謝料の支払いと爵位の返上を認めさせたのだ。


 辛酸を嘗めさせられた形になった王家だが、流石に臣下からのムービング王国へ宣戦布告すべきだという意見は退けたようだ。


 先代国王陛下が苦労の末に締結した平和条約を破棄するのは近隣国の信頼も失うことになると、苦渋の決断をしたらしいが、国民としては王家の面子よりも平和を優先して欲しいというのが本音である。

 国力を理解していれば、ムービング王国に噛みつくのは自殺行為そのものだからだ。


 話は変わるが、性悪勘違い令嬢の二つ名で有名だったバーバラ・アチーブ元伯爵令嬢は、今やムービング王国の公爵令嬢である。

 何と母親がムービング王国の第三王女であったのだ。

 身分を隠してアチーブ元伯爵と結婚したが、結婚後も家族仲は良好で、公爵位を与えられていたらしい。


 今回この記事を書くと決めたのは、綿密な調査の結果、元アチーブ伯爵家は、バーバラ元伯爵令嬢が第二王子の婚約者に選ばれた直後からムービング王国への亡命準備を始めていた事が明らかになったからだ。


 当初王家は侯爵令嬢を婚約者にするつもりだったが、公爵家を差し置いての婚約は令嬢の身を危険にさらすということで、生贄としてバーバラ嬢を指名したという話も出てきた。


 アチーブ元伯爵夫人が防御魔法の使い手で、先代国王陛下を暴漢からお守りしたことは有名である。

 バーバラ元伯爵令嬢も防御魔法を使えると知った王家が利用しようと考えたのだろう。


 王家にとって誤算だったのは、バーバラ元伯爵令嬢の防御魔法が規格外だったこと。


 おとぎ話の存在でしかなかった王家の影が現存し、第二王子殿下の婚約者で準王族であるバーバラ元伯爵令嬢の暗殺未遂で処刑されたことは国民にも大きな衝撃を与えた。


 一度ならず五度も犯行を行ったことで王家も庇えなくなったのだろう。

 公開処刑された被告の状態は見るも無残だった。

 拷問を受けたのではなく、呪い返しによる症状だったらしいが、処刑はある種の救いだったのかもしれないと思うくらい、悲惨だった。


 騒動の元凶である第二王子殿下だが、近日中に臣籍降下し、学園で仲を深めた伯爵令嬢の家に婿入りする事が決まったようだ。

 伯爵令嬢側の親族によると、取り潰しで一族郎党処刑されるか、第二王子殿下を受け入れるかの二択を突きつけられたと恐怖に戦いていた。


 さて、再び話は変わるが、皆様はご存じだろうか?

 今月末に迫る第四王子殿下の王太子就任式の真実を。

 長らく虚弱体質で表舞台に出てこなかった第四王子殿下が、兄二人、姉一人を差し置いて王太子に選ばれたのは、能力や実家の力ではなく、単に消去法で彼しかいなくなったからだという。


 第一王子殿下と、第二側妃殿下が第四王子殿下に毒を盛っていたこと、第三王子殿下も呪物を第一王子殿下、第二王子殿下、第四王子殿下の部屋に潜ませていたこと、王妃殿下の実家を継いだ弟が呪い返しにあって亡くなったことなど、様々な要因により、第四王子殿下以外は王位継承権を喪失したらしいのだ。


 ちなみに第一王女は数多の不貞を理由に近々婚約破棄され、王家の財政難の改善のため高く売られることが決まっている。


 現存する王家で初のオークションにかけられる王女ということで、注目が集まっているが、当然参加できる者は大金持ちだけなので、我々は結末を待つだけだ。

 地に落ちかけている王家の威信をかけて、是非とも高額落札されて欲しいものである。




 ※本誌はゴシップ専門誌であり、真相の裏取りはしておりません。

 話半分でお読みください。

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あらすじと本文が一致していないのですが。
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