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第7話:『1つの意識、幸せな家族』

「うっ……まだ……!!」

セリアが倒れ込み、完全に勝敗はついたと思った。

だが、セリアは立ち上がり、まだ消えていない炎を目に宿しながら剣を向ける。


「っ……!1発ぐらいは……!!」

勝敗よりも、1発食らわせることにチェンジしたセリアは、太刀筋を変え、より強く、そしてより早く剣を突き刺しにくる。


やがて……


「はぁ……はぁ……どうして……!?」


セリアの体力の限界が先にやってきた。

あれ以来、シイラからは一度も攻撃をしていない。

ただその圧倒的な実力差の前では、弱者は跪くことしか出来なかった。


──チャキッ

「もういいだろう、俺の勝ちだ」

そう言葉を吐き出した俺は、セイラの額に剣先を当てる。


「……私の、負けよ」

圧倒的な実力差を感じて尚、まだ諦めきれてはいないような気持ちを言葉に含めながら、セリアは負けを認める。


「最後に、助言をしておこう」

「……助言?」


「セリア……お前は、()()を向けすぎだ。

そんなに敵意を含みながら繰り出す技なんて、俺からすれば答えが配られているテストかと思った。」


どこか煽りながら、俺はそう口にする。

ただ、この例が本人にとって1番分かりやすいだろうから、俺は言う。

それはきっと、セリアにも伝わっているだろう。だから、何も言い返さない。


「レイ、ヒラ、イリス」

「………………!はい!」

決闘の余韻でボーッとしていた3人は、シイラの呼びかけで我に返る。


「依頼を受けに行くんだろ。依頼探しに行くぞ」

『はい!』

大きな声で返事をした3人を連れ、上へと続く階段に足を乗っけた。


◇◇◇


敗北、無様、そんな感情を自分に抱いたのは、いつぶりだっただろうか。

私はたった今、同年代の男性に負けた。

それも完膚なきまでに。


この人には勝てない、戦いの途中でそう気がついた。

勝てる勝てないじゃない、そう思うかもしれないが、圧倒的な実力差を感じると、人間は生きることさえ諦める時もある。


……先程の私も、そうだった。

勝てないと分かった時、私は彼に一撃を食らわせるということに目標を変えた。

だから、短期決戦に持ち込もうと型を変え、速度も威力も上げた。


それなのに、たったの一度すら彼には攻撃は通らなかったのだ。

完璧な自爆……無様と言うには、充分すぎた。


完璧な敗北。私になんて目もくれていないよう。

ただ彼は助言をくれた。


『敵意を向けすぎだ』

初めて言われた言葉だ。

戦う相手には、必ず敵意を向けるものだろう、それにと関わらず、彼はそう私に助言をした。


……いや、本当にそうなのかもしれない。

私は先程の戦いを振り返る。


私の攻撃は、ことごとく避けられ、防がれた。

逆に一度彼が攻撃してきた時には、私は何も()()()()()()


「それが、敵意を向けないこと……」

彼の言っていた言葉の真意が、分かったかもしれない。その言葉のおかげで、私は更に強くなることが出来る。


もう彼は依頼を受け、このギルドを出ただろう。

「今度このギルドで会った時に、お礼を言わなければならないわね……」


そう独り言を呟いたセリアは、決闘に負けたはずなのに、清々しい顔をしていた。


◇◇◇


「採取依頼……こんなのがいいんじゃないか?」

そう3人に語りかけるシイラは、回復草の採取依頼を指さした。

ギルドの依頼ほ難易度は10段階別に分けられ、

★1(簡単)~★10(国家的な重要依頼)となっている。


この採取依頼なら★2だし、駆け出し冒険者の俺らには丁度いい依頼だろう。


「はい、依頼の雰囲気を確かめるためにも、それくらいが丁度いいと思います」

了承してくれたイリスに続くように、ヒラとレイも「その依頼が良い!」と言ってくれた。


俺らはその依頼をパーティとして受け、回復草のある場所へと向かい始めた。


その後、決闘場から戻ってきたボロボロのセリアの、胸元の鉄製の胴着に大きな凹みがあり、

それに対する驚きとA()()()()()()()()()()()という事実に対する驚きでギルド内は騒然とした空気になったそうだが……それはまた別のお話だ。


◇◇◇


「兄上……」

「どうした?レイ」


ギルドから依頼場所に向かう道中、レイが何の突拍子も無く真面目な様子で話しかけて来た。


「兄上はなぜそんなに強いのですか?」

そんな哲学のような質問を繰り出してきた。


「なぜ……か。俺は元々、王国騎士団団長だったから、国のため、守る対象のため、かな。

ただ1番は、孤児の俺を拾ってくれた家族に対する恩返し、になっちゃうけどな」


そう言う兄上の顔は、素晴らしいほどに雲一つない空のような笑顔だった。

1つの目標のため、命に代えてでも守りたい人がいる、その強い気持ちが兄上を強くしたのだ……と思う。


「やっぱり、僕の兄上は誰よりも勇敢で素晴らしい人です」


突然そんな言葉を放つレイに、俺は少し感極まって涙が出てしまった。

その涙が乾くよりも先に、ヒラとイリスも「私達の、だけどね」と訂正し、俺の目を余計に潤わせるばかりだった。


俺からすれば、この家族の方が世界で1番幸せな家族だと思う。

この国に来てから俺らを支えるために働いてくれる父さん母さん、家族思いの弟妹。


「こんなに幸せな家族をつくって尚、悪いことが起きないなんて……バランスが壊れてしまってないか?神様」


神様がいるであろう空に、その言葉を投げ出す。

ただ、バランスを戻そうとする出来事は、今現在も、過去も、この先の未来も、たった1回ですら起きることは無かった──────


この作品を読んでいただきありがとうございます!

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