第4話:『聖女の力、3人の願い』
「ここが、これから俺たちが住む家……」
このガルティア王国に入ってきて、これまで見てきた家に比べれば少し大きいだろうか……?
いや、それよりも気になるのは、
「なんか、雰囲気が雰囲気……だよな」
家の外まで漂ってくる気配には、そういう経験のないヒラやレイにすら感じ取れるほど濃いものになっていた。
「母さん、ここって普通の家……なんだよな?」
「えぇ、家自体は普通の家よ」
母さんはキッパリと何も無いとは言わずに、どこか含みのある言い回しをした。
「家自体はって……?」
「この家、昔にちょーっと事件があったらしくてね。それ以来不審な出来事が相次いでいるとか……」
なんとなく母さんに全てを任せてしまった自分が間違っていたのかもしれない。
当然まだ小さな子供のヒラとレイは「おばけ……」と足がすくんでいたが、父さんだけは呼吸も乱れず落ち着いていた。
「まぁまぁ、4人とも、母さんの力はすごいんだぞぉ。イリスもそんなにシイラの後ろに隠れなくて大丈夫だ」
そこで初めて気がついたが、俺の両隣にはヒラとレイが居て、後ろにはイリスが居た。
それにしても……母さんの力ってなんなのだろうか?
父さんと母さんに育ててもらってから、このかた一度も聞いたことがない。
「眩しかったら目を瞑りなさいよ」
そう一言忠告した母さんは1歩前に出て、両手を前に突き出す。
その時、その両手から黄金の光が一斉に溢れ出す。
「これは……浄化……?」
浄化とは、主にアンデッドの魔物や魔獣を一気に葬り去ることができる聖女の固有スキルだ。
しかし、固有スキルを持つものは世界でも稀で、その中でも聖女は1、2を争うほど少ない。
──パァァアァ
そんな固有スキルを今、目の前で母さんは使っていた。過去に1人だけ、聖女持ちの人と会ったことがある。
だからこそ分かる。その人が使っていた浄化と母さんのこの力は全く同じもの。
つまり……
「母さんが……聖女持ち?」
「……そうだ」
マジか……
家の“浄化”が終わって「入ろう〜」と1人で子供みたいにタッタッと走ってしまう母さん。
その母さんが持っている力が“国家最重要スキル”なんて……夢にも思っていなかったな。
◇◇◇
「結構広いな……」
王宮までとはいかなくとも、執事やメイドの居ない4人で暮らすだけなら普通よりも広い家だった。
それに、なぜだか分からないが家具も1式揃っている。
「お兄ちゃん見て見て!」
「ヒラ、どうしたんだ?」
ヒラが「こっち〜」と言いながら進む方向について行くと、「秘密基地みたい!」と言いながら屋根裏部屋を指さした。
「ここも綺麗だ……これも“浄化”の効果なのか?」
一般的にこの世界では家を買ったらかなり高めの家でなければ自分で掃除をして、自分で家具を買わなければならない。
家具は前の家主のまま……という感じがするが、部屋がどこも綺麗なのはおそらく母さんのおかげなのだろう。
家の中を走り回る人を見ながら、イリスは「冒険みたいですね」とふわっと笑う。
「冒険……か、冒険者になるのも楽しそうだな」
「兄上、冒険者とはなんですか?」
「冒険者は、強い魔物や魔獣を倒したり、街のお手伝いをするお仕事なんだ。俺も冒険者の人と一緒に依頼を受けてたりしてたんだぞ〜」
そう話しながら、シイラはレイの頭をわしゃわしゃと撫でる。それを聞いたレイは、目を大きく開いて
「冒険者……僕もなってみたいです!」
冒険者の話に興味を持ったレイは、シイラにそう言葉を吐く。それに続いて屋根裏部屋を覗いていたヒラも「レイ兄がなるなら私もなる!」とやる気に満ちた目を据える。
「ダメだ。冒険者は時に命を懸けて戦う。まともな訓練を受けていない2人を責任なく冒険者にさせることはできない」
少し言い方が厳しかったかもしれないが、命を1番大事にしなければいけないのは事実だ。
俺に「ダメだ」と言われた2人は、見るからに肩を落として落ち込んでしまった。
ただ、俯いた顔を上げたレイは、シイラに1つお願いをする。
「兄上……それなら、僕を鍛えてください!
王宮に居た頃、1度騎士の方に訓練のお願いをしたことがあるんです。
その時、騎士の方はせっかくなら私より強いシイラさんに教わるべきだ。と言っていたのです。」
だから俺に「僕を鍛えてくれ」ということか……。
正直なところ、レイのことが心配だから冒険者にさせたくない気持ちがある。
ただ、レイの目を見れば分かる。レイにとって冒険者は今の夢なんだ。
弟の夢を応援しない兄は居ないだろう。
「分かった……ただ、途中で諦めるのは無しだからな」
「はい……これからお願いします、兄上!」
「レイ兄だけズルい!私もお兄ちゃんに教わる!」
「ふ、2人がやるなら私も!」
立て続けにヒラとイリスも懇願してくる。
……どうしてこうなったんだ?
「はぁ……分かったよ。ただ2人も、やるなら最後までやりきることが約束だからな」
その忠告に2人は快い返事をする。
そうして、3人は長く続く冒険者になるための訓練を幕開けたのだった──────
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