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好きな人に告白する寸前で失恋しましたが、そのおかげで思いがけない再会があり幸せになれました!  作者: 四折 柊


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3.初恋の始まり

 私とエドガーがはじめて会ったのは、私がサナトリウムから退院して元気になり、ある侯爵令嬢主催のお茶会に招かれたときだった。

 招待状を受け取った私は飛び上がって喜んだ。だって子供ながらに社交に憧れがあった。だけどそのお茶会には姉は呼ばれておらず私だけだった。


「リーゼ。はじめてのお茶会は私と一緒に呼んでくださるお屋敷に行きましょう」

「え、でもせっかく私に招待状をくれたのです。ひとりでも大丈夫だから行きたいです」

「リーゼ……」


 心細さはあったが好奇心が勝った。退院してから淑女教育を受けている。その成果を見せるチャンスが来たと思った。

 だけど姉はなぜか今回のお茶会は断ろうと私を説得した。私はどうしても行きたくて我を通し、心配する家族をよそに浮かれて出掛けて行った。

 私の想像するお茶会は、お花を愛でて美味しいお菓子とお茶を頂いて楽しいお話をするものだと思っていた。社交場に不慣れな私を招待してくれた侯爵令嬢はきっと優しくて素敵な人だと、楽しい時間が過ごせるとわくわくしていた。


 でも屋敷に着くとわくわくは威圧感のある使用人の視線に圧倒されて萎んでしまった。周りを見渡すと招待されているのは同年代の男の子と女の子で全部で八人いた。

 怖気づきそうになったが、失敗をしたら家族に迷惑をかけてしまうと顔を上げた。ここでちゃんと社交をして家を継ぐ姉の役に立てる存在になりたい。そう思い挨拶をしたのだが、みんなが珍しいものを見るような目で私を見た。初対面だからという理由にしては様子が変だ。


「リーゼさんはずっと入院していたのでしょう? 大変だったわね」

「はい。でも、もう治ったので大丈夫です」


 労りの言葉だと思い笑顔で返事をした。


「そう、それはよかったわ。でもずっとサナトリウムにいて友だちもいないのでしょう? お茶会は初めてかしら?」

「はい。あの……本日はお招きくださりありがとうございます」

「いいのよ。だって私が声をかけてあげなければ、きっとお茶会に呼ばれることはないものね?」


 暗に可哀想だから招待したと含ませている。侯爵令嬢は優越感を浮かべて目を細めた。取り巻きの女の子たちは口々に侯爵令嬢を誉めそやした。

 そこでうっすら悟った。私の役割は侯爵令嬢の自尊心を満たすための生贄だったのだ。考えてもみればそれ以外に私を招く理由がない。私は貧乏な子爵家の次女でしかなく、付き合いを深めても利用価値はないのだから。子供だけの社交とはいえ、貴族社会の洗礼を受けることになった。


「……ありがとうございます」

「そのドレス、おさがりみたいね。去年の流行のデザインだわ」

「……」


 我が家の経済状況では私の新しいドレスを作ることができず、姉のドレスを借りた。それでも姉と母がレースを足して、コサージュを手作りして付けてアレンジしてくれた。素敵に仕上がったこのドレスは特別な私だけのドレスだった。おさがりでも恥ずかしいとは思わない。でも招待主である侯爵令嬢に抗議することもできず唇を嚙んで我慢するしかなかった。


「……」


 お茶会は居心地が悪くて私はお手洗いに行くふりをして抜け出した。そのまま帰ろうとしたのだが、はじめて来た広い屋敷で迷子になってしまった。涙目でうろうろしているところに声をかけてくれたのがエドガーだった。


「えっと、リーゼちゃんだっけ?」

「うん……」

「俺はエドガー。さっきのこと気にするなよ。あいつちょっと性格悪いんだよな。でもこういうことって子供でも貴族の中ではよくあることだし」


 どうやらエドガーは慰めてくれているようだった。でもよくあるなんて残酷じゃないか。


「それでなんでうろうろしているんだ? あ、俺はお手洗いの帰りだよ」

「私、家に帰りたくて……」

「気持ちはわかるけど、このまま挨拶もしないで帰ると絶対あとから悪口言われるぞ」

「え……」


 なにそれ? 地獄すぎる。私は逃げることも許されないらしい。泣きそうになっているとエドガーがニカッと笑った。


「俺が一緒にいるから大丈夫だよ」

「う、うん……」


 そう請け合ってくれてもさっきは助けてくれなかった。不信感いっぱいにじっと見たが、エドガーは気にした様子もなくスタスタとお茶会に戻った。私も仕方なく彼の後をついて戻った。

 意外なことにエドガーは本当に何とかしてくれた。侯爵令嬢が私を標的にしようと話を振ると、絶妙なタイミングで話をそらし最終的に侯爵令嬢を誉めまくる展開にする。おかげで侯爵令嬢はご機嫌のままお茶会の幕が閉じた。


 思い返せば最初からエドガーが私の味方をしていたら、エドガーも反感を買って二人でいびられていたかもしれない。エドガーは周りの様子を見極め、ある程度侯爵令嬢の気が済んだところで流れを変えてくれたのだと思う。


 その後もお茶会で会うとエドガーはさりげなく助けてくれた。エドガーがいるお茶会は楽しく過ごせた。私はすぐにエドガーを信頼し好きになった。何度かお茶会に行ってわかったが、すべての人が意地悪なわけではない。むしろ露骨な嫌な態度を取る人のほうが少なかった。最初の侯爵令嬢のお茶会の試練を思い出したら、それ以上に嫌な思いをすることはなかった。普通に接してくれて仲良くなった子もいる。くじけてお茶会の招待を断らなくてよかった。それもエドガーのおかげだ。


 学園に入学しても私たちは友人として仲良く過ごした。ランチを一緒に摂ることもあったし、一緒に図書室で宿題をしたこともあった。

 私は恋をしている自覚はあったが、エドガーの気持ちがわからない。この関係を壊したくなくて友人として振舞い続けた。


 三年生になると一緒にいることを周囲の人に冷やかされるようになった。その度にエドガーは強く否定した。私は密かに傷ついたが、だからといってエドガーは私を避けなかったので安心していた。きっと冷やかされることが嫌なだけだと思った。

 でも思い返せば三年生のとき、エドガーとナタリーは同じクラスだった。さっきの二人はただのクラスメイトにしては親密そうに感じた。私が知らないだけで二人は付き合っていたのかもしれない。いや、それならさすがに噂になって私の耳にも入ったはずだ。


 付き合っていなくてもエドガーがナタリーに好意を抱いていたのは間違いないと思う。

 あの頃、私はエドガーと仲良く過ごしたけれど、贈り物をもらうこともデートをしたこともなかった。少なくとも学生の時のエドガーは、私を友人以上に思っていなかった。


 私の初恋はそのまま消えていくはずだった。






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